「和菓子が家族の真ん中に」

「和菓子が家族の真ん中に」

イラストレーター / 河井いづみさん

雲仙岳の裾野に広がる長崎県の島原市。昭和の風景の中に溶け込んでいる小さなお店、
街のお菓子屋さんの娘として生まれました。
学校から帰るとランドセルを置いてすぐ、どれを食べていいか母に聞いて、ショーケースのお菓子を出して食べる。まわりの子どもたちに憧れられるほど、菓子に囲まれて育ちました。

街の菓子屋といっても、外国と縁が深い長崎県、ポピュラーな商品は「長崎かすていら」や、カステラ生地でつぶあんを巻いた「とらまき」。
まだオーブンなどなかった時代、初代だったひいおじいちゃんは、レンガで手づくりした釜で、上下から直火と炭でカステラを焼いていたそうです。
記憶の中の父も、朝から晩までいつもオーブンの火の前にいました。

子どもの頃から絵を描くのが大好きだったわたしを、デザイン美術科の高校へ進ませてくれ、九州からフランス留学までさせてくれた。
カステラを焼く父の背中が、いつもわたしに「頑張れ」とエールを送ってくれました。

「和菓子が家族の真ん中に」イラストレーター / 河井いづみさん 01

やがて、プロのアーティストになったわたしの元に、ある日母からの電話が入りました。
「店を閉じるかもしれない」、電話の向うで母の声が震えていました。
カステラは焼けないけど、私が勉強して来たもので恩返ししたい。
父と母、兄と私、閉店でバラバラになりそうな家族をわたしの力でひとつに結びたい。

働き続けた父がいつまでも元気でいられること。それは、健康に働き続けられることに違いない。
色々な雑事に邪魔されず、ただ正直にお菓子づくりに専念できる環境を作ろう。
わたしはまず、昔ながらのパッケージを一新することから、実家「西善製菓舗」のブランディングを始めました。

「和菓子が家族の真ん中に」イラストレーター / 河井いづみさん 02

東京でもデザイン感度の高い店に商品を並べさせてもらい、新しい世代やファンに手に取ってもらうこと…。
その願いは著名な珈琲店の目に届き、定期的に納品することになりました。
新しい出会いは、新しい幸せを運び、家族は再び結ばれたのです。

「和菓子が家族の真ん中に」イラストレーター / 河井いづみさん 03

朝は、牛乳と一緒にパン代わりにカステラを食べます。
フレンチのシェフだけど和菓子好きの夫との時間には、紅茶と一緒に。
仕事柄、机に向かい続けになる創作の合間にも、甘い和菓子は気分転換と新しいアイデアへの道しるべになってくれます。
子どもの頃からずっと、父の和菓子はいつもいちばんそばで、わたしを見守っています。

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