個性を楽しむ
講師:児島幹規(装苑編集長)×相澤樹(スタイリスト)
新年のはじまりとなる今月は装苑編集長の児島さんとスタイリストの相澤さんをお呼びし、「個性を楽しむ」をキーワードに、様々な個性を読み解いていきます。お二人とともに、たくさんの個性に触れる時間を過ごし、2018年の気分を高めてみませんか?
児島:僕が自分で取材をするときは、当たり前ですけど、ある程度なにかが起こると予測して企画します。たとえば、コシノジュンコさんとブルゾンちえみさんのインタビュー。まだおふたりのテレビCMが流れていなかったとき、僕がジュンコさんに「ブルゾンさんと撮影してもいいですか?」って尋ねたら「いいわよ」って返事をしてもらえた時点でできた!って思った。メイクや髪型の話もあるし、そこから自分らしさについて親子ほどの年齢の差があっても、関係なく繰り広げられるだろうなって。CharaさんとSUMIREの企画の時も、Charaさんが母として何を話すのかなって思うとワクワクしたし。
相澤:キャスティングの時点で面白いですよね。そのインタビュー、私も見学したかったです(笑)。
児島:だから、デザイナーでも芸能人でも、有名な人の時間が取れましたっていうだけで進めてしまう撮影やインタビューが一番つまらないんです。
相澤:そういえばこの前、一橋大学で講義をしたんです。文化屋雑貨店をつくった長谷川義太郎さんが講師を25人連れていくという授業で、ちょっと緊張するくらい有名な人が呼ばれていて。私からしたら、80年代に活躍したすごい人ばかりなのに、学生は知らないから「おじいちゃん」って話しかけていて(笑)。その距離感から生まれる空気がすっごく面白かったです。事前に何も聞かされずに行ったから、余計に。
児島:何も知らないでいるとドラマが生まれて面白いですよね。昨年、ある服飾学校での講義で120分しゃべったあとに、学生がひとりずつ自分の作品をプレゼンすることになって。僕も初めて見るから、「なんでそれをつくったの?」っていうところから聞くしかないんですけど、しつこくきいたら答えられなくて涙する子もいたんです、でも、その分、学生も自分も、ちょっと緊張感持ちながら話したり聞いたりできて。泣いちゃった子も終わってから前向きにあいさつにきてくれたり。すべて予想なんてできないから、すごく面白かった。
相澤:じゃあ、CLASS ROOMの講義も、質問タイムが多い方がいいかもしれませんね(笑)。何が起こるかすごく楽しみ。
児島:編集の仕事って判断していくことなんですが、自分が大事にしているのは決めつけないことなんです。こうあるべきだって決めるとそれ以外の知恵が出てこないし、「それでいいよ」って言っちゃったら相手の成長がそこで止まっちゃう可能性がある。最終的に決めなきゃいけない立場だからこそ、それまでの時間をできるだけ引っ張るんです。編集部員からもよく、早く決めてくださいっていわれるんですけど(笑)。その代わりにみんなから意見が出てくれば、それでいいんです。
児島:『Begin』の編集をしていたときは、よく「一番高い妥協点を探せ」っていう言い方をしていました。この予算、このメンツ、このスケジュールでどこまでできるか。限られた環境の中だから、大事なのは納得できるかどうかですよね。最近でいえば、2・3月合併号の『装苑』の表紙なんですけど、入稿前になんか足りないなって思って。撮影は済んでいるので今からできることを考えて、写真をずらしてみたら、これだ!って思って。普通はアートディレクターにここまで具体的に指示するのは失礼なんですけど……。
相澤:そういう編集者って、どんどん減ってきている気がします。
児島:みんな戦わないですね。大御所の方に「デザインを変えてほしい」って言ってちょっとキレられたこともありますけど(笑)、次に会ったときにはすごく仲良くなりました。結果的によい物になって「それを引き出してくれた編集者が面白かった」って言ってくれて。
相澤:私はブレないことを大事にしながら、「いろんな人に影響を受ける」ことをテーマにしています。自分の世界だけに固執すると、それだけが正しくなってきちゃう。情報はネットで簡単に手に入るけど、私は本物が見たいから、気になったら必ず足を運んでみるんです。先月も、いってきまーすってイタリアに行ったりして。
児島:決めないという部分で、僕とミキティは一緒ですね。そういえば、グラフィックデザイナーの宇野亞喜良さんも、それがすごかった。
相澤:宇野さん、すごそう!
児島:お会いすると、とにかく常にあらゆるジャンルの質問をされますね。ご自身で「企業の広告から、エロティックな書物の表紙まで依頼がくるイラストレーターはいないんじゃないですかね」って話されていたことがあるんですけど、それってすごいことなんだと改めて思いました。また、今年で84歳ですよ、それが昨年、QXQX(クスクス)というブランドを始められたんですから。パワーがある人に出会うと、やっぱり止まってちゃいけないなって思わされます。
相澤:水も止まると濁りますからね。常に動いて影響を受けて、自分のイメージの抽き出しをいっぱいにしないように、循環させておきたいなって思いますね。
児島:こうして話していると、ベースがすごく近いなって思う。ミキティも、相手が誰でもまったく変わらないもんね。
相澤:私、ゆるゆるで生きていますから(笑)。あまり緊張しないんですよ、誰でも「会えてとてもうれしいです!」みたいな感じで楽しめる。CLASS ROOMで児島さんの話を聞けるのも楽しみです!
1968年生まれ。学生時代に編集アシスタント・ライターを経て、1992年世界文化社入社。2004年に『Begin』編集長、2009年から『MEN’S EX』編集長を務めた後、2013年10月より文化出版局、出版事業部長兼『装苑』編集長に。毎日ファッション大賞、Tokyo新人デザイナーファッション大賞、ORIGINAL FASHION CONTEST、浜松シティコンペ他、多くのコンテストで審査員も務める。
2005年よりフリーのスタイリストとして活動開始。エディトリアルを始めアーティスト、広告、CMなどジャンルを問わず活躍中。衣装デザイン、エディトリアルディレクション、空間プロデュースなど多方面の活動も行なっている。2017年ラッキースター所属。 著書:REBONbon(祥伝社)KAWAII図鑑(文化出版)