ホテルの個性も楽しむ旅
講師:龍崎翔子(ホテルプロデューサー)
4月講座の講師は、個性ある話題のホテルを手がける、ホテルプロデューサーの龍崎翔子さんです。旅の行き先選びも大事だけど、宿泊するホテルを選ぶことも旅を楽しむためにはとても大切なこと。『ホテルの個性も楽しむ旅』と題して、龍崎さんに個性のあるホテルの選び方、楽しみ方などをお話いただきます。
ホテルを決めるとき、何を基準に選びますか? お部屋の広さや宿泊費といった数字を眺めて選ぶ方も少なくありません。CLASS ROOM 4月講座でゲストの龍崎翔子さんは、「ソーシャルホテル」というコンセプトを掲げて、街の雰囲気を溶け込ませたホテルをプロデュースしています。そんな龍崎さんに、選ぶ人にフィットする魅力的なホテルについて教えてもらいました。
小学2年生の頃、家族とアメリカに住んでいました。日本に戻ってくる前の、最後の1ヶ月。東海岸から西海岸まで、家族とアメリカ横断旅行をしたんですね。両親はすごく楽しんでいたんですが、子どもの私にとっては、1日10時間ずっと車の窓から変わらない景色を眺める旅になっていました。だから、1日の終わりに必ず泊まることになるホテルはすごく楽しみで。どんなところに泊まれるのか、毎晩、期待していたんです。
それが、ホテルに着いて、客室のドアを開けても、その先に広がる景色はいつも変わらなかった……。何だったら、日本とも変わらないことに、子どもの私は満たされなくて。街によって、景色も、文化も、気候も異なるのに、なぜホテルはどこも同じなんだろう? そんな原体験があって、私はホテルのコンセプトを立てるときに、まずはどんな街なのかを観察して、発想するようになりました。
例えば、大阪の弁天町にホテルを建てたときなら、弁天町をよくよく観察して、レンガの倉庫群や飲食店の店先で販売されている冷やし飴などを見つけて、昭和が凍結保存されているようなレトロな印象を受けたんですね。加えて、都市開発が頓挫して残ったビル群もあって、インダストリアルな印象も感じたんですよ。
弁天町から受けた、レトロとインダストリアルという印象から、両方を兼ね備えたキラーコンテンツを探していったら、レコードが思い浮かびました。そして、客室にプレーヤーを置くという、アナログを軸にしたホテルをつくりました。街がどういう歴史をたどっていて、どんなイメージを多くの人が持っているのか、それに私たちなりに提案したいことをうまく組み合わせて、ちょうど良くマッチするようなホテルをつくっています。
私たちが提案したいビジョンは、「世の中に多様性を」ということなんですね。ホテルは、客室の広さや宿泊費といったものでしか選択できないことが多いですけれど、宿泊者一人ひとりが「自分にフィットした選択をできるようになれば、ハッピーになれる」と思っていて。いろんなホテルの中から、自分らしい客室を選んでいく過程で、アイデンティティに気づいていけるんじゃないかな。
というのも、ホテルっていう場所に、私は主に2つの可能性を感じていて。1つ目は、「ライフスタイルを試着できる」という可能性なんです。例えば、レコード特集の雑誌を読んでも、実物に触れるには購入するしかありません。でも、ホテルにレコードが置いてあるなら、1日限りでレコードのある生活を体験することができます。試着するように、新しい生活を体験できることに、ホテルの可能性を感じているんです。
もう1つ、ホテルに感じているのは、ライフスタイルということをもっと長い時間軸で見た場合の可能性です。ライフステージって呼んでもいいのかもしれませんが、ホテルって、実は、人生のいろんな場面で課題を抱えたときに解決できる場所なんじゃないかって思うんです。それは、人が24時間いるという特徴をホテルが持っているからなんですね。
例えば、私が今いちばんやりたいのって、産後ケア施設としてのホテルなんです。女性は子どもを産んだあと、親に頼るか自分で頑張るかっていう2択しかないのかもしれません。そんなときに産後ケア施設のようなホテルがあったら、手助けになるんじゃないかな。人それぞれのライフステージにフィットする提案をしていける可能性も、ホテルは秘めていると思っています。
私自身、どこかのホテルに宿泊する際は、自分の感覚にフィットするホテルに泊まりたくて。そういうホテルには、街の空気感が反映されています。以前、沖縄で泊まったホテルなんて、その代表例なのかな。マングローブの森が近くにあって、海岸にトレーラーハウスが何個も並んでいるホテルに泊まりました。
4月講座の講師は、個性ある話題のホテルを手がける、ホテルプロデューサーの龍崎翔子さんです。旅の行き先選びも大事だけど、宿泊するホテルを選ぶことも旅を楽しむためにはとても大切なこと。『ホテルの個性も楽しむ旅』と題して、龍崎さんに個性のあるホテルの選び方、楽しみ方などをお話いただきます。
2015年にL&G GLOBAL BUSINESS Inc.を立ち上げ、「ソーシャルホテル」をコンセプトに掲げ北海道・富良野の「petit-hotel #MELON 富良野」や京都・東九条「HOTEL SHE, KYOTO」をプロデュースする。2017年9月には大阪・弁天町でアナログカルチャーをモチーフにした「HOTEL SHE, OSAKA」を、2017年12月には北海道・層雲峡でCHILLな温泉旅館「ホテルクモイ」をオープン。