言葉にできない表現を感じること

カルチャートで展示するアーティストを日本人に限定したのは、海外のアーティストで盛り上がったあと、国内にもイケているクリエイターが出てきて、日本のシーンが面白くなっていたからなんですよ。そういうシーンの変化には、ただモワッとしたものが確実にあることを感じていくことで、気がつきます。そして、「次はこれだ」って思えたときに、動く。

何かを表現するときに、音楽の人もいれば、絵の人もいますよね。だから、全部が全部、コンセプトとして言葉にしなくても、「絵を見てよ」でいいことはあると思うんです。そういったモワッとしたものは、音楽だったり、テレビだったり、街を歩いていたり、日々、入ってくる情報で何かを得て、気づいていくようなもので。「これ、今までになかったな」とかね。

最近であれば、新宿に行けばパブリックアートのようなものを見ることができるし、レジの裏に作品を飾っている店もありますよね。そのような場所に行って、アートに触れてみるのはいいんじゃないかな。2000年代の初頭も、まだ走りたての小さなギャラリーやオルタナティブスペースがいくつかあったんですよ。

街へ出て行く日々の導き

そのような小さなギャラリーやオルタナティブスペースを人伝に聞いて、「あっちが面白い、こっちも面白い」と、雑誌やメディアでは拾えない場所をたくさん知ることができました。その中のいくつかは、今では日本を代表するようなギャラリーやスタジオに育っていたり。

スケートカルチャーやグラフィティから派生して、世界で活躍する人気アーティストやクリエイティブグループが生まれていったんです。ぼくはヒップホップが好きだったこともあって、いろんなところに行っていたから、音楽関係のつながりも広がっていって。そういうシーンの関係が今でも続いているから、いろんな話が入ってきます。

常日頃から、いろんなところへ飲みに行っていたのがよかったのかもしれないね。でも、何だろう……。昔と違って、毎晩居酒屋で飲むような若者が減ったことは、別に悪いことではないんじゃないかな。それは今、アートが身近になっている理由でもあると思うし。

アートは身近な感動のひとつ

今の若い子たちは、ワン缶するにしても、冬は寒いから家飲みにしようって場合があるでしょう。だから、部屋を飾っておきたいって思う。それでアートを飾っていたら、自己主張になるよね。「これ、アンディ・ウォーホルって言うんだよ?」とか、ボソッと。それがきっかけで、アートを掘っていけるのはいいことだよ。あとは、アートを買うときに、誰かと相談しないでも買えるようになるといいよね。

海外には、「おっ、100万だ。安い!」って人がいる一方で、「100万なんて、馬鹿。これは1万だよ」っていう人もいて。日本人なら、「そっか。1万円か。やめよう」ってなるところを、海外の人は、「馬鹿。100万の価値あるから、買うよ」って自分で決める。だから、初めて買うものに対してレビューを探さなくなる日が、日本にもいつかきたら、うれしいな。

今は、ライブや小説、演劇とかと同じように、アートも身近な感動のひとつになっているよね。好きなミュージシャンがいて、CDは買えても、ライブを買うことはできないなか、アートなら、頑張れば、作品を買えちゃったりする。そんな風に、生ものを手にできる魅力って、ぼくは好きだな。

アートとの出会いの楽しみ方

アートとの出会いの楽しみ方

講師:永井秀二(クリエイティブディレクター)

5月講座の講師は、“東京”から生み出されるアート、デザイン、カルチャーを世界に発信していく「TOKYO CULTUART by BEAMS」のディレクターを務める永井秀二さんです。美術館やギャラリーだけではないアートとの出会いや楽しみ方をはじめ、永井さんが注目するアーティストなどのお話をうかがいます。

日時
2019年5月22日(水)19:30~21:30
会場
カフェパーク(恵比寿)
参加費
無料
定員
60名
※応募者多数の場合は抽選となります。
受付期間
2019年4月25日(木)〜5月12日(日)

永井秀二(クリエイティブディレクター)

ビームス創造研究所 クリエイティブディレクター、TOKYO CULTUART by BEAMS ディレクター。大学卒業後、株式会社ビームス入社「Uniform Circus BEAMS」にてチームオーダー、SPグッズのデザイン、企画開発等を経て、2000年、Tシャツ専門レーベル「BEAMST」を立ち上げ、バイヤーとしての業務の他、エキシビションの企画、プロデュース等を行う。2008年TOKYOのクリエイションを世界に発信する「TOKYO CULTUART by BEAMS」を設立。店舗の運営、展示のキュレーション他、カルチャー文芸誌「IN THE CITY」のプロデュース、発行を行う。