自分のまちをもっと楽しむ
講師:田中元子(建築コミュニケーター)
11月講座の講師は、みんなが使える自由な空間「喫茶ランドリー」の運営をしている株式会社グランドレベル代表の田中元子さんです。「1階づくりはまちづくり」をモットーに、家の軒先から、歩道、建物の1階、公園、駐車場など、あらゆる1階を人のための居場所としてつなげていく活動をしている田中さんに、社会と自分の交差点を見つけ、自分の住むまちを能動的に楽しむ方法をお話いただきます。
もともと自然の中で暮らしていたんですよ。18歳まで、茨城県にいて、夜になると暗闇でカエルの大合唱を聞いていました。怖かった。東京に出てきたとき、親や先生以外の大人が相手をしてくれて。「こういう風に生きていいんだ」って東京が教えてくれました。いろいろでいい。許してくれるまちが好きだから、東京以外でも都会が好き。
ちょっと散らかっていて、自分のことも許してくれそうだとか、一人で入っていっても大丈夫そうだとか、そう思えるのが都会の良いところだし、散らかった場所の魅力。ありのままでいることを許してくれる空間って、それだと思うんです。みんなにとっての実家も、思い出がある分、物をなかなか捨てられなくて、きっと何となく片付いているけど雑然としていますよね。
そんな1階をつくりたい。世界的にも同じように考えている人は増えていて。The City at Eye Levelという研究サイトがあったり、アクティブデザインのアワードが開催されていたり。いくらまちが大きくなっても、人って所詮1メートルちょっとの大きさで生きているから、目に触れる世界をちゃんとつくっていこうってことなんですよ。
私も、人がいろいろ活動している様子を普段から目にできたら、私が私でいいんだと思えるようになる。みんな同じ服を着て、同じ方向へ同じ速度で歩くんじゃなくて、寝ている人も、食べている人も、働いている人もいていい、バラバラでいいって思える居心地の良さを気に入っています。
たぶん、田舎から出てきたから。最近も、お金持ちがいるヒルズに行った後、近所の店でくだ巻いて、帰宅するようなコントラストに触れるたび、「東京って最高だ!」と叫び出したくなるくらい。多様であるっていう事は、私のなかで大事なことなんです。
昔、高円寺に住んでいたときに、楽園だと思っていました。昼間から働き盛りの人がぷらぷらしていても誰も何も言わない。「好きにさせて」っていうことが叶うまちだった。お互いが目で見て分かり合えるまち。個人店が根強く続いていたりして、素人が頑張っている店をまちの人も好きで、人との距離が近い。店の人と二言、三言お話ししたり、近所で友達になれたり、そういうことを楽しんでいたんですよ。
住んでいるまちを楽しむには、ズバリ、屋台がオススメ。屋台を出したら、人が表情をほころばせてくれたり、くだらない話をしたりする機会に出会えます。それは極端な例だとしても、戸建てや1階に住んでいるなら、花が好きって気持ちで設えてみたり。自宅もひとつの風景なんだってよくわかるし、そんな風景をつくっているのは自分なんだって気付かされるから。
もしも、まちに私みたいにまちで何かをしている人がいたら、声をかけてみるのでもいいと思う。困った人に声をかけるのと同じ。駅で外国人や手足が不自由な人に声をかけると、ドキドキするけどすごい嬉しい体験になったりしますよね。そうやって、知らない人と話すのがいいと思うな。
家族、友達、会社っていう定番のコミュニティを超えたところに、社会の手触りがあるんですよ。自分を越えた先を教えてくれるのって、常に他人だから。仲良くならなくてもいい。あいさつ程度をするだけでいい。それがまちを楽しむ基本。ささやかな事が、まちに住むことを楽しく思えるきっかけになりますよ。
11月講座の講師は、みんなが使える自由な空間「喫茶ランドリー」の運営をしている株式会社グランドレベル代表の田中元子さんです。「1階づくりはまちづくり」をモットーに、家の軒先から、歩道、建物の1階、公園、駐車場など、あらゆる1階を人のための居場所としてつなげていく活動をしている田中さんに、社会と自分の交差点を見つけ、自分の住むまちを能動的に楽しむ方法をお話いただきます。
1975年茨城県生まれ。独学で建築を学び、2004年大西正紀と共にクリエイティブユニットmosaki(モサキ)を共同設立。建築やデザインなどの専門分野と一般の人々とをつなぐことをモットーに、建築コミュニケーター・ライターとして、主にメディアやプロジェクトづくりを行う。2010年よりワークショップ「けんちく体操」に参加。同活動で2013年日本建築学会教育賞(教育貢献)を受賞。2015年よりパーソナル屋台の活動を開始。2016年株式会社グランドレベルを設立。主な著書に『マイパブリックとグランドレベル―今日からはじめるまちづくり』。