2016.8.24
Report 1/3

女子カメラ教室

講師:野川かさね(写真家)

山や自然をテーマに写真作品を発表し、女性らしい視点で自然の美しさを切り取る写真家・野川かさねさん。数々の写真集のほか、『Hütte』『SPUR』『NUMBER』など雑誌でも活躍している野川さんにうかがったのは、写真の楽しさや上達のコツ、そしてカメラを通して見えてくる世界のこと。その授業の様子をお届けします。

“写真が目覚める”被写体を見つけることが第一歩

「『野川かさね』って、いかにも自然を撮る写真家みたいでしょう? 名前が後から追いついてきたんです(笑)」。18歳の頃から写真を撮り続け、今では山や自然の写真をテーマに活動している野川さん、実はもともとはかなりのインドア派。現在のテーマにたどり着いたのは20代後半からなのだそう。

あるとき、山に行ってビビビ! と打たれた感じを味わって。感覚が鋭くなって、光やものの形をよく観察できるようになりました。急に目覚めるんです、写真が。熱意を向けられるものを見つける、「被写体を持つ」って、こういう感覚なんだって。よくある壮大な景色ではなく、自分が山の中を歩いて、ああすてきだなと思った風景を撮りためて、その1枚1枚が積み重なって山のイメージが伝わる。そんな写真を撮りたいなと思っています。私の場合は山だったけれど、いつ、どこで、どのスイッチを押されるかはわからない。きっと、誰もがそういうスイッチを持っているのだと思います。

使っているのはフィルムカメラ。一方、スマートフォンなどで撮ったデジタル画像がSNSなどを通してコミュニケーションツールになっているのはうれしい、と言います。なぜなら、写真を撮る楽しさを通して、自分が世界とつながっていることを実感したり、気づきを得たりすることができるから。ただし、本当の意味で「写真に残す」ためには、シャッターを押す瞬間はあくまで冷静でなくては、と野川さん。

感動のままシャッターを切ると、撮りたいと思ったものは、ほとんど何も写らないんです。だから、わぁっとなって、カメラを構えて、5秒くらいはすごく冷静に考えています。その間に、それまでに身につけた技術や経験が凝縮されて出てくる。その場の感動に浸りきれないのはちょっと寂しいけれど、写真を撮ることでしか現れてこない世界が積み重なっていく感覚があって、当分は(感動に浸るより)冷静に撮影するほうを選びますね。

表現の幅を増やすための第一歩は、ただ感動のままシャッターを切るのではなく、自分の撮った写真をちゃんと観察すること。自分はこんなものが気になっているんだ、こんな光が好きなんだ、となんでもいいから考えながら見返してみる。そうすることで、次に撮るときに「今度はこうしてみよう」と、前進することができる。大切なのは、自分自身と向き合うこと。

写真を撮るって、自分が何を好きで、何に興味があって、どうして写真を撮りたいのかということ。だから、槍ヶ岳に夕陽が当たっている写真というように、撮りたい絵ありきなのもいいですが、この時期にこの機材を持っていって1日粘りましょう、みたいにゲームをクリアするような感覚になってしまいますよね。それよりも、自分の好きなものに合わせて技術を身に着けていくような付き合い方のほうが楽しいし、長く続けられると思います。

イメージをはるかに超えて、現実は勝手に素晴らしく起こってくれている

写真を楽しむコツは、まず自分だけの被写体を見つけること。とはいえ、もちろんある程度の撮影技術は必要。たとえば、なかなか自分の写真に満足できない、物足りないなあというときには……。

まずは光に敏感になること。写真は光そのものですから。日が昇って、青空が広がって、夕焼けになって、夜には群青色になって。1日や1年を通じて、そういう光の変化を意識して感じてみてほしい。そうして目を養っていくと、1枚の写真の中にも、うしろからの明るい光、右から差し込む弱い光、蛍光灯の光など、何種類もの光の段階が見つけられるようになってきます。これができるようになると、急激に写真が変わってきますよ。

また、ごはんの写真を撮るときには、「食べ物プラス情景」。見栄えばかりを気にして、テーブルの上を整えたり、食べ物以外を写さないようにしてしまいがちですが、あえてそうしないことで、その場の雰囲気や躍動感が伝わる「情景」としての写真が面白いと言います。

「こういう写真が撮れたらいいな」っていう頭の中のイメージをはるかに超えて、現実は勝手に素晴らしく起こってくれているんです。だからイメージに写真を近づけていくのは本当にもったいない。自分の力が及ばないところで何かが動いていることを感じながら、その場で感激しながら、世界に近づいていくような撮り方がすごく楽しい。すると自分の枠もぐぐっと広がって……なんなんだろう、あの高揚感(笑)。

自分の価値観の範囲に世界を押し込めようとする姿勢から、未知のものや理解できないものをそのまま受け入れで肯定する姿勢へ。写真を撮るようになってから、野川さんは生き方まで変化したと言います。以来、わくわくすることが多くなり、毎日が楽しくなったのだとか。

1枚1枚緊張して撮っていたフィルムの時代に比べて、最近はずっと気軽にカメラを楽しむことができますよね。だからこそ、きれいに撮らなきゃという呪縛からは開放されて、もっと自由になってほしいんです。みんなが美しいと思うような写真はすでに世の中に溢れかえっているんだから、ちょっと冒険したり、自由に遊んでいろんなことを感じたり考えたり、わくわくするような視点で楽しんでみては?

写真の撮り方をレクチャーする「お悩み相談会」も開催!

授業の最後には、参加者のみなさんが撮った写真を見ながら「お悩み相談会」も。「白飛びしてしまう」という悩みには「露出を3段階くらい変えて撮ってみる」、「自信をつけたい」には、縦位置だけ撮るなど「自分に制限をつけて撮る練習をしてみる」、「ベストなアングルがわからない」には、「とにかくたくさん試してみる」。さらに一歩踏み込んで、作品としての写真を志す人には、「同じものを撮り続けること」がおすすめ。そうすることで、作品としての世界が広がると言います。野川さん自身、「登山道の目印」を季節ごとに撮り続けているのだそう。そして、恒例の「良い暮らしとは?」という質問には……。

自然を感じて、常にわくわくしながら過ごすことです。大自然だけじゃなくて、身近な木々や、季節、光もそう。写真を撮ることで、そういうことにすごく敏感に反応できるようになるんですよ。カメラを通して、日々、自然とつながっていけたらいいなと思います。

>>交流会の様子はこちら

野川かさね(写真家)

山や自然の写真を中心に発表を続ける。写真集に『山と鹿』(ユトレヒト)、『Above Below』『with THE MOUNTAIN』(wood/water records)、著書に『山と写真』(実業之日本社)、『山と山小屋』(平凡社)、共著に『山・音・色』(山と渓谷社)『山と山小屋』(平凡社)など多数。自然・アウトドアをテーマにした出版・イベントユニット「noyama」やクリエイティブユニット「kvina」としても活動中。
【ウェブサイト】http://kasanenogawa.net/

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