無敵かもしれないと思える夜を増やす
ゲストスピーカー:吉澤嘉代子(シンガーソングライター)
カルチャーニュースサイト「CINRA.NET」を運営するCINRAが新たに立ち上げたウェブサイト「She is」は、「自分らしく生きる女性を祝福する」をコンセプトに、さまざまな生き方の女性たちが語り合う場をつくるライフ&カルチャーコミュニティ。講座では編集長の野村由芽さんと、「She is」に参加しているシンガーソングライターの吉澤嘉代子さんのおふたりが 「She is」のコンセプト文にある「無敵かもしれないと思える夜を増やす」をテーマに、参加者から寄せられたアンケートをもとに語り合いました。まるで深夜に流れるラジオのような、ゆるやかな空気感の講座の様子をどうぞ。
事前に募った「夜に関する悩み」に回答する“お悩み相談室”
今回の講座では、「夜に関する悩み」と「どんなときに無敵かもしれない夜だと感じるか」という2つの質問を、参加者の皆さんから事前に募集しました。吉澤さんは、その一つひとつに目を通したのだそうです。
皆さんのアンケートは、どれも熱量があって。情熱的な文章を書いてくださったのが、すごく嬉しかったんですよね。「夜」がテーマですが、実は私は夜がそんなに得意ではないんです。友だちと遊んで楽しくて、でも最後にはひとりになって寂しいじゃないですか。そういうときに、ずっと集まっていられる場所みたいなものが続けばいいのにと思うことがあって。「She is」の話を野村さんから聞いたとき、そういう場所をつくろうとされているんじゃないかなと私は感じて。そんな観点で選ばせていただきました。(吉澤さん)
「無敵かもしれない夜」という言葉は、そもそも煮詰まっている真夜中に思いついたんです。時間も時間だったのですこしテンションが妙だったかもしれないのですが、その言葉に自分が励まされる感覚がすごくあって、「She is」という場所を支える言葉として据えました。吉澤さんは、シンガーソングライターで言葉をすごく大事にされている方なので、今日は皆さんから集まった言葉にコメントしてもらいたくて。そしてその中で感じたことを、即興で曲にしてくださいます。最後まで楽しんでくださいね。(野村さん)
無敵かもしれないと思える時間は短くて
講義は、参加者の皆さんからのアンケートに対し、野村さんと吉澤さんがコメントしていく形で進行しました。まずは、「夜中に何度も目が覚めてしまう」というお悩みからスタート。これが選ばれたのは、吉澤さんがまさに同じ悩みを抱えているから。
夜、すごく寂しくなっちゃうときとか、不安になっちゃうときがあって。早く眠りたいんだけど眠れない。自分をふだんの状態へ戻すために模索しています。(吉澤さん)
つらい悩みですよね。たとえば自分が眠りに入りやすい環境を整えてみるのはどうでしょうか。私の場合は真っ暗な部屋がダメだと自覚しているので、電気をちょっとだけつけておく。それから呼吸法アプリなどを活用しています。スマホに向かって、吸って、吐いて、とやるのはなかなかシュールな光景ですが、自分がどんな状態だと心地よくなれるのかを知っていることは安心につながります。(野村さん)
そのほか、悩みとは無縁の「ふとんに入る瞬間が好き」というアンケートをあえてピックアップしたり、「寝ているあいだに口に虫が入らないか不安になる」「夜になるとトイレの廊下や路地が怖くなって走ってしまう」などかわいいお悩みに共感したり、夜にまつわる話は尽きませんでした。
さまざまな“無敵かもしれない夜”をひとつの曲に
“お悩み相談”のあとは、参加者の皆さんから寄せられた、「無敵かもしれない夜」を紹介していきます。「彼の家から駅まで手をつないで歩いていて、お互いに離れたくないと思いながら無言で歩く夜」「本や音楽や映画、自分ではない何かになっている間は不安や怖さがなくなって、守られているような気持ちになります」「駅から家まで歩いていると突然、大事な人をなんとしても守っていこうというあたたかな無敵感が湧いてくるときがある。あたたかな風がやや強めに吹く夜が多い」……。さまざまな「無敵かもしれない夜」を紹介して、いよいよ吉澤さんの即興の演奏が始まりました。
「たくさんの思いがありすぎて、ひとつにまとめきれませんでした。またCDにしたいと思います(笑)」と謙遜する吉澤さんに、会場から大きな拍手が贈られました。
吉澤さんと野村さんの“無敵かもしれない夜”とは
最後は、質疑応答の時間。会場からリアルタイムで募った質問に、時間の許す限り答えていただきました。たとえば、「仕事は朝と夜のどちらがはかどりますか?」という質問に対しては、ふたりとも「夜」と回答。
昼間は抑えられていたものが、夜にあふれだす感覚があります。でもどうしても歌詞が出てこない日もあって、それは自分への過度な期待のせいなんです。もっといいものが書けるんじゃないか、という気持ちがストッパーになって書けなくなっちゃう。とはいえ、その期待がないと自分の限界を超えることもできないという……。いやあ、書けないときは書けないですね(笑)。(吉澤さん)
夜には限界を突破できそうな瞬間がありますよね。暗くて余計なものが見えないから、集中できるのも理由なのかもしれない。どうしても書けなくても書かなくてはいけないときは、とりあえずペンを持って机に向かうようにしています。「毎日5文字でも書く」「ペンは避雷針だ」という書き続けることを生業にしている方々の言葉を思い出すんです。本当にその通りで、ペンを持たなければ思いは活字にはならないから。(野村さん)
さらに“無敵感”についての質問も寄せられました。ふたりはどんなときに「無敵」だと感じるのでしょうか?
いつも一緒にいてくれる人がいたら無敵だなって思うんです。でもそれはやっぱり無理だから、自分が自分の一番の味方になりたい。それは簡単なことじゃなくて、自分との信頼関係が必要なんですよね。何かができるようになったとか、何かを頑張れたとか、そういう努力の上で育まれていく。(吉澤さん)
「自分を信じよう」って一言で片付けられる問題じゃないんですよね。自分のことを信じられなくなったり、信じられたりを繰り返して、だんだん自分の味方になってもいいかもと思えるようになっていくんだと思います。振り子みたいに振れながら前に進んでいくようなものかな。(野村さん)
そして、CLASS ROOM恒例の、最後の質問。「いい暮らしとは?」
どうしようもない夜こそ、自分と対峙する大切な時間なのだと思います。あらがえない私を見つめて認めることが「いい暮らし」に繋がったらいいな。(吉澤さん)
いい日も悪い日もあるのはもうわかっているし、それを繰り返して日々は前に進んでいく。でも、どちらの想いも大切にすることが、「いい暮らし」につながるのではないかなと思います。完璧じゃない部分や、ずれた部分に、その人だけの心の形があると思うので、そこを自分が守り抜いた先に居心地のよい場所が待っているような気がします。(野村さん)
野村由芽(she is 編集長)
編集者。自分らしく生きる女性を祝福するライフ&カルチャーコミュニティ「She is」を2017年9月に立ち上げたほか、音楽、アート、デザイン、映画、演劇情報などを伝えるウェブマガジン「CINRA.NET」の取材・編集・企画制作もおこなう。
she is:http://sheishere.jp/
吉澤嘉代子(シンガーソングライター)
1990年、埼玉県川口市生まれ、鋳物工場育ち。ヤマハ主催「Music Revolution」でのグランプリ・オーディエンス賞のダブル受賞をきっかけに2014年デビュー。2017年、バカリズム原作ドラマ「架空OL日記」の主題歌「月曜日戦争」を書き下ろし、松本隆との共作でクミコへ楽曲提供も行う。10月4日2ndシングル「残ってる」をリリース。
ウェブサイト:http://yoshizawakayoko.com/