ホテルの個性も楽しむ旅
旅をする際の楽しみを増やすのが、ホテル選びにこだわりを持つ理由のひとつ。CLASS ROOM 4月講座のゲストは、個性あるホテルをつくり、経営する、ホテルプロデューサーの龍崎翔子さんでした。『ホテルの個性も楽しむ旅』と題し、ホテル観やホテルの選び方などを龍崎さんに教えてもらいました。
洋服を選ぶようにホテルも選びたい
小学校2年生の頃、家族で半年間、アメリカに住んでいた龍崎さんは、帰国前の1ヶ月、東海岸から西海岸までをたどる旅行に出かけました。横断中、龍崎さんが見ていた景観は、父親が運転する車の後部座席から眺めた、代り映えしない窓外の景色だったそうです。
「車を降りたあとに宿泊するのは、どんなホテルなんだろう」龍崎さんは、毎日、それを楽しみにしていました。しかし——。
いざ車を降りて、ホテルに入っても、なぜか昨日と変わらない客室が広がっていて。街はどこも違っているのに、ホテルはどうして同じなの? 私だったら、こんな風にホテルをつくるのに。そう空想するようになったんです。
例えば、洋服だったら、好みのブランドを選べたり、思想に共感するデザイナーを見つけたり、その日の気分で着替えたり、いくつも選択肢がある。龍崎さんはホテルにも、そんな選択肢ができるように、思想やストーリーといったブランド性のあるホテルをつくろうと思いました。
小学校5年生の頃から、ずっと、ホテルの経営をすることが夢でした。小学校や中学校の卒業文集を見返すと、「ホテルを経営したい」と書いてあるくらいだったんですよ。
街の文化や人が表れるホテルという空間
北海道富良野市の徒歩1分圏内にスキー場があるペンションを前オーナーから譲り受け、新しくオープンして以来、2019年4月時点で龍崎さんは5地域にホテルをプロデュースし、運営してきました。新しくホテルをつくるたびに、大きな軸にしてきたことは、ふたつ。ひとつは、全国各地の宿泊施設を再生すること。もうひとつは?
「ソーシャルホテルの企画・運営」という軸です。ビジネスホテルに宿泊するように、金銭的にも心情的にもラフな感覚で利用できて、街の文化や人を表しているホテルづくりを意識しています。
例えば、京都府京都市の東九条にある「HOTEL SHE, KYOTO」。京都には、一条、二条、三条と、地名に連番を振っているという特徴があり、中学生の頃、七条に住んでいた龍崎さんは、「大丈夫。七条までは京都だから」と言われたことがありました。そのように、八条、九条は京都じゃないとする風習の残る地域を、辺境や最果ての地として見立て、「オアシス」というコンセプトを立てたのが、HOTEL SHE, KYOTOでした。
住んでいる人たちも、何もない街だと思っていることはよくあって、その街らしさを見つけるのは、慣れるまですごくむずかしい。でも、街のネガティブな部分だとされていることも、そう感じさせている部分には何があるのか、要素を分解していくことは大切です。
その要素は街のユニークな部分で、ポジティブなのかネガティブなのかは、人があと付けした価値観にすぎないから、私たちが解釈を変えて、ポジティブなコンセプトを立てています。
ホテルの世界観と私の価値観を重ね合わせる
ホテルづくりで大事にしている軸は、ホテル選びにも当てはまるようです。龍崎さんが好き、宿泊したいと感じるホテルには、共通点があると言います。
「世界観のあるホテル」に尽きるかな。街の文化やオーナーの美意識がホテルに表れていて、ひとつの空間に世界が完結しているホテルが私は好きです。仮に、食事も、客室も、眺望も、設備も5点中5点のホテルがあったとしても、5点満点が取れていなくたって世界観が完結しているホテルに宿泊したほうが満足できます。
なぜかと言うと、5点ついていても、そのレビューの項目をつくった人と私の価値観が異なっていたら、好きになるとは限らないからです。私は、自分の感性と合う人や媒体で紹介されていることを信じています。
では、どのようにホテル選びをするのでしょう?
旅に出ることになってから調べても、すぐに宿泊したいホテルを見つけることはむずかしいから、日頃から探したホテルをGoogleマップにピンを立てて記録しています。そして、行き先が決まってから、そのマップで比較するようにしているんです。
日常に目を向けて想像する余裕を持つこと
講義が終わると、参加者による質疑応答に移りました。
Q.ホテルのコンセプトをお客さんに届けるために、どのようなプロモーションをしていますか?
SNSを利用します。ただ、たとえ私に30,000フォロワーがいても、1,000フォロワーいる1,000ユーザーが発信してくれたほうが多くの人に届く。だから、お客さんになる人たちが話したくなるような仕掛けを意識しています。目新しさと説明のしやすさを持つように、ホテルづくりを進めています。
Q.これまで宿泊して、印象に残ったホテルは?
影響を受けたことも含めて、印象に残っているのは、小学校2年生のときに宿泊したラスベガスのホテルです。それまで、モーテルにばかり宿泊してきたんですが、ラスベガスに着くと、フラミンゴが住む「フラミンゴ」というホテルや、エジプトっぽい「スフィンクス」というホテルがありました。世界観があるホテルをそこで知って、すごく衝撃を受けたんです。
最後に、CLASS ROOM恒例の質問にも答えてもらいました。龍崎さんにとって、「良い暮らし」とは何でしょう?
例えば、電車を見送る駅員さんを見て、今日もこういう人たちに支えられているんだと実感したり、道に植わっている木を見て、この木はいつもどんな風景を見ているんだろうと想像できたりする。そんな余裕のある状態が良い暮らしなんじゃないかな。
龍崎翔子(ホテルプロデューサー)
2015年にL&G GLOBAL BUSINESS Inc.を立ち上げ、「ソーシャルホテル」をコンセプトに掲げ北海道・富良野の「petit-hotel #MELON 富良野」や京都・東九条「HOTEL SHE, KYOTO」をプロデュースする。2017年9月には大阪・弁天町でアナログカルチャーをモチーフにした「HOTEL SHE, OSAKA」を、2017年12月には北海道・層雲峡でCHILLな温泉旅館「ホテルクモイ」をオープン。