個性を楽しむ
ファッション誌『装苑』の編集長、児島幹規さんとスタイリストの相澤樹さんを迎えて開催した新年講座。後半は、会場のみなさんから寄せられた質問におふたりが次々と答えていきます。その様子をどうぞ。
先の自分を見据えて服を選ぶ
トークのあとは、参加者のみなさんから質問を募り、おふたりに答えていただきました。最初の質問はコーディネートについて。「好きな服、着たい服が自分に似合わないときどうしたらいい?」。
そういう悩み、私もあります。でもどうしても諦めきれない形や色の服があるときは買っちゃします。というのも、いつも先のことを考えてコーディネートしているから。今は似合わなくても、5年後、10年後、この先どういう格好をしていたいかで服を選ぶんです。そういう視点で想像をふくらませて買い物をすると楽しいし、自分の思い描く個性に近づいていけると思います。(相澤)
自分で勝手に似合わないと思い込んでしまうということもありますよね。人から見ると意外と似合っているんだけど、自分で否定しちゃうみたいな。チャレンジしたい服があったら、着慣れた、いつものアイテムと組み合わせる。そうして徐々になじませていくのが僕のおすすめの作戦です。(児島)
次の質問は、流行との向き合い方、距離のとり方について。相澤さんはスタイリストとして仕事をする上で、流行はどうしても無視できないと言います。
こういう仕事をしている以上、常に意識しているし、知ることは大事だと思っています。でも、まるっとまねするのは、誰でもできることだからしない。流行をいかに自分らしくスタイリングに落とし込んでいくかを大事にしています。(相澤)
個性の押し付けは気持ち悪いだけ
続いて、本講座のテーマでもある「個性」についての質問。「自分の個性を生かして、周りに影響を与えるために意識していることを教えてください」という問いに対する児島さんの回答は、ファッションの根本について考えさせられるもの。
なんの意味もなく派手なだけとか、押し付けがましい「個性」ってありますよね。そういう意味での「個性」は、僕は嫌いです。こういう世界が好きだからとか、好きなアーティストのメッセージを感じさせるファッションとかは、アイデンティティを表現しているからいいと思う。そうやって自分の思想をファッションという形で表現すると、自然と似たような人とつながりやすくなります。だから、変に意識しなくてもいいと思いますよ。(児島)
次の質問は「あまり興味のない仕事がきたらどうしますか?」。ファッションに限らず、社会人なら誰もが抱えるこの悩みに、相澤さんはフリーランスの立場から、児島さんは編集長の立場から答えてくれました。
私はゴールがわかっているような仕事はあまり受けないんです、最終型が見えない仕事をしたいから。お断りするときは、ゴールが見えすぎてしまっているとき。なぜなら、チームワークで作品をつくりたいからなんです。(相澤)
僕の場合は会社員なので断れませんが(笑)、若い頃、まったく興味がない企画を担当させられたときは、「締め切りを守る」とか「予算をかけない」とか「新しいスタッフに仕事をして名前を覚えてもらおう」とか、別の目的をつくっていました。(児島)
よい暮らしにも個性が見える
みなさんから募った問いのほか、その場で挙手による質問も入り混じって、講座は大盛り上がり。そしていよいよ最後の質問、「いい暮らしとは?」。「この質問が一番難しいんじゃない?」と苦笑しながら、まずは児島さんが答えてくれました。
僕なんて、客観的には「かわいそう」って思われそうな、仕事ばかりの暮らしをしてきました(笑)。でも、それは自分で選んだものです。たとえば週末に、時間をかけておいしいごはんを食べるより、中途半端な仕事があれば、休みでも片付けたくなるだけ。自分のやりたいことを明確にすれば、自然に自分にとってのいい暮らしが見えてくるんじゃないかな。(児島)
児島さん、一貫してますね(笑)。私が思うのは、出歩いて、五感すべてを使い切って、興味があるものを感じとること。そんな時間が最高だなと思います。いつでもやり切っている感覚があるので、いつスタイリストをやめても悔いはないって思っているくらいなんですよ(笑)。(相澤)
児島幹規(装苑編集長)
1968年生まれ。学生時代に編集アシスタント・ライターを経て、1992年世界文化社入社。2004年に『Begin』編集長、2009年から『MEN’S EX』編集長を務めた後、2013年10月より文化出版局、出版事業部長兼『装苑』編集長に。毎日ファッション大賞、Tokyo新人デザイナーファッション大賞、ORIGINAL FASHION CONTEST、浜松シティコンペ他、多くのコンテストで審査員も務める。
相澤樹(スタイリスト)
2005年よりフリーのスタイリストとして活動開始。エディトリアルを始めアーティスト、広告、CMなどジャンルを問わず活躍中。衣装デザイン、エディトリアルディレクション、空間プロデュースなど多方面の活動も行なっている。2017年ラッキースター所属。 著書:REBONbon(祥伝社)KAWAII図鑑(文化出版)