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CLASS ROOM

東京・御徒町のワイナリーから始まる、ワインの自由な楽しみ方

2021.07.28

CLASS ROOMは、ルミネが運営する暮らしをもっと楽しむためのカルチャースクール。さまざまなジャンルで活躍するゲストを招いてお話を伺い、ルミネマガジンとYouTubeルミネ公式チャンネルで配信しています。
2021年7月講座のゲストは、ワイン醸造家の須合美智子さん。東京都台東区、御徒町駅のほど近くにある10坪のワイナリー「BookRoad ~葡蔵人~」で醸造責任者を務めています。「好きなときに、好きなように飲むのが一番」と語る須合さんに、ワインづくりのこだわりや夏のワインの楽しみ方を聞きました。


>> インタビューを動画で見る:前編後編

飲食店のパートから、未経験で醸造家に

―この場所でワイナリーを始めた経緯を教えてください。

BookRoadを運営しているのは、もともと飲食事業を営んできた会社です。飲食店でお客さまにお料理やお酒の提供をしてきましたが、さらにできることはないだろうかと考え、自分たちでワインをつくって販売してみようということになりました。

飲食店は台東区にあったので、新しい事業をするのであればまた台東区でと、この場所にワイナリーを開くことにしたんです。そうして2017年、御徒町駅からほど近いこの場所にBookRoadをオープンしました。


―須合さんは飲食店でパートとして働いていて、ワインの事業を始めると決まって責任者に手を挙げたんですよね。未経験でスタートされたと聞きましたが、そのときの心境はどのようなものだったのでしょうか。

今思うと、なぜそう思ったのか不思議なのですが……ワインをつくると聞いたときに、すごく楽しそうだなって感じたんですよね。たぶん、未経験ゆえに大変さをまったくわかっていなかったんだと思います。あとは会社のスタッフがとてもいい人たちで、みんなと真剣に仕事をしてみたいとも思ったので「やってみたいです」と伝えました。


―「楽しそう」という感情がアクションのきっかけになったんですね。

そうですね。誰でもそうかもしれませんが、「やってみたい」という気持ちと「大変そう」という気持ちのどちらが大きいか考えて、後者のほうが勝っていたら踏み込まないと思います。大変かもしれない、でも楽しいかもという、ポジティブな気持ちが勝るとたぶん人は進むんじゃないかなと。そのときの私もまさにそうで、具体的な大変さを想定していないままやると決めてしまいました(笑)。

ワイン選びのヒントになるユニークなラベル

―「BookRoad ~葡蔵人~」のワインづくりのコンセプトを教えてください。

ワイン好きな人にはもちろん、あまり詳しくない人にもぜひBookRoadのワインを飲んでいただきたいです。ワインを選ぶときって、なにを基準にしていいかわからないことが多いと思うんですね。そこで私たちがまず考えたのは、ラベルに食材や料理のイラストを載せること。それによってどんな料理と一緒に飲むのがおすすめなのかを伝え、セレクトのヒントにしてもらえるようにしました。

それから、飲むシーンの提案をしているラベルもあります。たとえば「醸し甲州スパークリング」は、キャンプのときに食べるような食材が合うことからテントのイラストを載せました。
以前あった別のワインでは、バスケットを描いたものもあります。そのワインは、お燗する感じで温めて飲んでみたらすごくおいしかったんです。なので、温度に関係なく飲めるワインとして、バスケットに入れてピクニックに持って行ってもらい、冷やしてもいいし、ちょっとぬるくなってもおいしく飲めますよ、ということを表現しました。

そんなふうに、気軽に選んでもらえるような提案を通して、ワインをより身近に感じていただけたらいいなと思いながらワインづくりに取り組んでいます。「とりあえずビール」というのと同じように、1杯目からワインを飲むようなことが日常のなかに増えたらうれしいですね。


―お酒のなかでも、特にワインは選ぶときのハードルが高いイメージがあります。なにがそうさせているのでしょう?

ワインは海外から入ってきたもので、「お肉を食べるなら赤」「お魚なら白」といった常識も海外で培われてきたものです。だから特別感というか、ハードルを感じてしまうのかもしれません。
飲み方も「何℃が飲みごろです」とか、難しいことのほうが先行してしまっていて。単純に「おいしい」「好きな味!」「これはちょっと違うな」などの前に、いろいろ知らないと飲みづらいというイメージがあるのではないでしょうか。

私自身、今でもそういう感覚があります。詳しい方とワインを飲む場面ではいつも、まず勉強の時間があって、そのあとやっと飲み始めるような形になってしまうんですよね。特徴などを知ることで味わい方が変わることもあるかもしれないので、もちろん知識を深めてもいい。でも、知らなくても楽しいと感じてほしいです。

発酵の音を聞いたとき、やっと安心できる

―ワインづくりにおいては、どのようなことにこだわっていますか?

まずは、口にするものなので安全なものをつくらないといけないと思っています。そのうえで、このワインがおいしいとか、これが好みだと言ってくださる方が増えたらいいなと。


―ぶどうの収穫にも行ったりするのでしょうか。

一緒に作業をしようと誘ってくださる農家さんのところには収穫に行きます。先月は、ぶどうに雨が直接あたらないように紙の傘をつける「傘かけ」を手伝ってきました。傘かけも、もちろん収穫も、ひと房ずつの作業です。BookRoadに届くぶどうだけでも年間数トンにもなるので、ほかにも納めているという話を聞くと……農家さんの仕事って本当に果てしないですよね。

定期的にご一緒させていただくことで「この期間でこんなに大きくなったのか!」と驚いたり、栽培についての知識を得ることができます。そのぶどうからワインをつくり、お客さまにおすすめするときには、農園での作業のエピソードをお伝えすることも。それもまた、ワインをよりおいしくする要素になればと思っています。


―ぶどうを育てるのも、ワインをつくるのも大変な作業だと思うのですが、須合さんのモチベーションが上がったり、楽しいと感じるのはどんなときですか?

毎年感慨深くなるのは、届いたぶどうをつぶしたり、絞ったりする作業を経て発酵が始まるときです。
絞りたてはまだジュースの状態ですが、発酵が始まるとだんだんプツプツと音が聞こえくる。そのあと発酵が盛んになり、シュワシュワという音に変わっていきます。農家さんが丹精込めてつくってくれたぶどうがしっかりしたワインになるかどうかは私たちにかかっているので、その発酵の音を聞くと、「ああよかった、まずはワインになる準備が無事に始まったな」と安心するんです。

“自分を甘やかす”ためのワインをつくっていきたい

―夏におすすめのワインの楽しみ方を教えてください。

暑いとやっぱりシュワっとしたものがほしくなると思うので、よく冷やして飲んでもらうのがおすすめです。特にスパークリングがいいですね。

白ワインなら、ナイアガラとソーヴィニヨンブランという2種類のぶどうをブレンドして作った「BLANC BLANC」でしょうか。少し温度が上がってもおいしいので、まずはキンキンに冷やしてから、常温に近づけながらゆっくり時間をかけて飲んでいただけたらと。途中で赤が飲みたくなったら「カベルネ」がおすすめです。BLANC BLANCが半分くらいになって、少し酔いが回ってきたころに飲み始めるのがいいと思います。


―ちなみに、須合さんが好きなスパークリングワインの飲み方はありますか?

BookRoadのスパークリングワインは“瓶内2次発酵”といって、一度ふつうのワインに仕立てて瓶に詰め、発泡を強めるためにもう一度発酵させる製法でつくっているんですね。

フルボトルのため1日で飲みきるのがなかなか難しいので、私は1日目はシュワシュワ感を楽しみ、2日目に少し落ち着いた微発泡な感じを楽しんでいます。堂々とおすすめしていいかはわからないのですが(笑)、無理に飲み切るよりは、翌日の楽しみにとっておいて変化も楽しむのもスパークリングならではかなと思います。

ワインは決まった作法やルールがあると思われがちですが、こうでなきゃいけないということはありません。好きなときに、好きなように楽しんでいただくのが一番です。


―ワインのある時間を楽しむことは、日々をどのように豊かにしてくれると思いますか?

ワインは自分を解放してリラックスできるような時間にぴったりです。付き合いで飲むこともあると思いますが、おうちでまったり楽しんだり、気の合う仲間とゆるりとした雰囲気のなかで飲むことが、豊かな時間の使い方なのではないでしょうか。会話をつまみにするのもいいですし、一緒においしいものを食べるのも楽しい。お休みの日やその前日に、自分を甘やかすお手伝いができるワインをつくっていきたいなと思っています。


―食卓にワインがあるときは自然と解放の時間になる。そんなリズムをつくれたらいいですよね。最後に、須合さんにとってよい暮らしとは?

解放する時間と頑張る時間がどちらもある暮らしでしょうか。“頑張る”ことってどこまでも突き詰められるけれど、思ったほど進んでいないときもありますよね。それで「こんなに頑張ったのに」となってしまうとつらいだけになる。でも反対に、解放されっぱなしだと不満や不安が見つかってしまう。だったら、解放するときにはとことん楽しく過ごして、そのぶん、月曜から金曜までは頑張るという、メリハリのある暮らしがいいんじゃないかなと思います。

須合美智子さんおすすめの、暮らしをもっと楽しくしてくれる一冊

『夢をかなえるゾウ』著:水野敬也(文響社)
「だいぶ前に発売された本ですが、ときどき読み返します。普通のOLがコンビを組むのは仮想のゾウなのですが、そのゾウから出される課題にトライし夢を叶える話。くだらないと思われる課題にも理由があること、そして課題をクリアすることはもちろん、その過程も大切ということがユーモアたっぷりに書かれています」


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<プロフィール>

須合美智子(ワイン醸造家)
パート先の飲食店の運営会社がワイナリーを立ち上げると聞き、未経験ながら責任者に立候補。山梨県のワイナリーで約1年間修行を積み、2017年、東京都台東区に「BookRoad ~葡蔵人~」をオープン。10坪の面積で年間20,000本のワインを生産している。優れた国内のワイナリーを表彰する「日本ワイナリーアワード2021」では3つ星を獲得。
http://bookroad.tokyo/


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