LUMINE MAGAZINE

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ART

Creating Tomorrow

工藤玲音と山口洋佑が手を取り合い表現する、
不自由な日々から希望ある未来へ

2021.12.26

わたしたちの明日をつくる

不自由な日々が続くなかでも、仲間と一緒なら、何かできそうに思う。
さまざまな制限があるなかでもテクノロジーの力を使って乗り越えたり、工夫を凝らしてアイディアを形にしてみる。
手を取り合って過ごす毎日が積み重なって、わたしたちの物語になっていく。さあ、2021年から2022年へ。


2021年12月26日からルミネ各館で展開されている新ビジュアルは、そんな願いのもと、一人ひとりの前向きな気持ちを祝福するようにと制作されました。今回、願いを形に変えるべくわたしたちと手を取り合ってくださったのが、作家・歌人の工藤玲音さんとイラストレーターの山口洋佑さん。おふたりはそれぞれ、言葉とイラストにどのような思いを込めたのでしょうか。

作家・歌人の工藤玲音さん(左)とイラストレーターの山口洋佑さん(右)

「わたし」が能動的に動きたくなる短歌を

作家や歌人として活動する工藤さんは、くどうれいん名義で2018年に出版された食にまつわるエッセイ集『わたしを空腹にしないほうがいい』(BOOKNERD)で一躍有名に。工藤さんがその日に食べたもの、記憶の中のもの、ふと目にしたものなど、食を中心に自由な言葉たちで日々を綴られています。また、2021年には初の中編小説『氷柱の声』(講談社)を発表。同作は第165回芥川賞候補作となるなど、注目を集めている作家のひとりです。

今回は、工藤さんに短歌を2首、制作いただきました(短歌とは、五七五七七の五句三十一音の形式で表現される詩のこと)。

来て 花を咲かせて 虎を歩かせて いまここにいるわたしに会いに   青はゆけ、迷って進め 駆けるほど わたしの街になる冬の街

ー制作にかけた思いを伺うと、「今回のお話をいただいて、まず考えたのは、モノとの「出会い」である買い物へ行くときの高揚感です」と工藤さん。


「仲間と共に明日を作りあげる推進力、スピード感を伝えられるような2首になればと思いました。ほんとうに先が見えない雰囲気の中で、無責任に明るさや前向きさを押し付けるのではなく、個人的な気持ちの盛り上がりや、『よっしゃ』と自信が湧いてくるような気持ちを喚起し、『わたし』が能動的に動きたくなる短歌にしたかった。

明日を創る、広げる2首目への助走として、その仲間と出会う情景を1首目で描いてみました。みんなに『来て』と呼びかけて、集合したうえでみんなで『冬の街』を広げていくイメージです。」

ー1首目、2首目それぞれ、どんなふうに発想を得たか伺いました。1首目については、制作段階での打ち合わせに出た言葉がヒントになったそうです。

 
「ディスカッションの中でルミネのご担当の方から『お客さまの人生を、一瞬でもいいから輝かせたい』という言葉が出たんです。そのときに、ワンピースを買っている自分のことを思い出しました。買い物をしたあとの『よし、やるぞ』という気持ちや、視界がいつもより明るくなったような感じを詠みたいと思いました。」

ー「個人的な話ですが……」と続ける工藤さん。

「わたしは大きな舞台に上がる前や、大切な誰かと会う前にするおまじないがあります。『虎が歩く、花が咲く、ここにいる誰よりもわたしがいちばんふさわしい』と、頭の中で唱えてから歩き出す、というものです。これを唱えると、どれだけ不安で自信がないときも胸を張って歩けるようになります。ただのお買い物と言えばそれまでなのですが、お気に入りの場所でお買い物をするときは、そういう心強さがあるのではないかと思いました。」

自分らしくありたいのに、そうなれない。どうしても自信を持つことができない。わたしたちにとって「何かを買う」という行動は、そんな不安や迷いを抱える自分自身を鼓舞するようなものなのかもしれません。

「不安なときやくたくたな日々でも、お気に入りの場所でお買い物をするときだけは自分のからだが発光するように思えるんです。お気に入りの場所で心を満たし、自信にあふれた『わたし』が『行く』のではなく、自信があるからこそ『来て』と言う。『来て』と呼びかけたくなるほどにみなぎる気持ちを詠んでみました。自信にあふれたわたしに、あなたのすべてで会いに来てほしいから、『花を咲かせて』『虎を歩かせて』としました。」

ーさらに2首目については、先行き不安な世の中に対する前向きなきもちを詠んでくださったとのこと。

「どうなるかわからないこの世の中で、迷いながらも思い切って進もうね!という気持ちをシンプルに込めました。冬の白い景色の中を、白い息を吐いてどんどん駆ける。それが春へとつながる。

自分が歩いた分だけ街が広がって、1首目で呼んだ仲間たちと共に『せーの!』で駆け出していくような歌です。読んでくださったみなさん一人ひとりのなかでも、おまじないのように『よし、がんばろう』と思ってもらえるような歌になればと祈っています。」

不自由な日々から希望が垣間見える、未来を感じられる光

ー工藤さんの言葉が紡ぐ世界観を絵で表現してくださった山口洋佑さんは、国内外の雑誌・書籍やCD、ファッション、広告、絵本などでイラストを担当されるイラストレーター。今回は振袖を着た女の子がビルの合間を走り抜けていく、華やかながら疾走感のあるイラストを描いてくださいました。


ー山口さんは、工藤さんの詠んだ2首からどのように発想をふくらませていったのでしょうか。

「新年なので『振袖』がまず始めに浮かんだのですが、工藤さんの短歌を受けて描く内容を考えたときに、ある種の型にはまらずに、走りながら次の形を模索するような情景が浮かびました。髪飾りが外れていく感じ、素足が飛び出す感じから、今回のテーマである何かをクリエイトする力のようなもの、エモーショナルな感覚が伝わるといいなと。ビルの合間から漏れくる光が顔に射し始めるように、不自由な日々から希望が垣間見える、未来を感じられる光の加減にしました。
 
着物の柄の『松竹梅』は3つとも寒さに耐えることのできる植物であり、逆境に耐える強さを象徴しているとのことで、昨今の状況や、今回のテーマである“Creating Tomorrow”にふさわしいと思い、干支の虎、周りに配した梅の花と共にモチーフに選びました。」
 

山口さんによるラフスケッチ。この時点では、ビルはさらに遠くにあるように見えていました。

完成したイラスト。街の風景はルミネ新宿付近をイメージされたそうです。

じっとしていても、ひとりでいても、何も変わらない。さあ、誰かと一緒に、動きだそう。

おふたりが言葉と絵に込めた想いからは、そんなメッセージを感じ取ることができます。先行きの見えない日々から一歩、希望へと近づくために、走り出してみませんか。



<プロフィール>
工藤玲音(くどうれいん)
1994 年生まれ。岩手県盛岡市出身在住。エッセイや小説はくどうれいん名義で活動。コスモス短歌会所属。2021年4月に十代からの短歌をまとめた第一歌集『水中で口笛』を刊行(左右社)。その他の著書にエッセイ集『わたしを空腹にしないほうがいい』(BOOKNERD)、『うたうおばけ』(書肆侃侃房)、創作童話『プンスカジャム』(福音館書店)。初の中編小説『氷柱の声』(講談社)が第165回芥川賞候補に。
https://rainkudo.com/

山口洋佑(やまぐちようすけ)
1977年東京生まれ。イラストレーター。雑誌・書籍、音楽、ファッション、広告、パッケージなど様々な媒体で活動。最近では、CITIZENソーシャルグッドキャンペーン「New TiMe, New Me」メインビジュアル、黒猫同盟(上田ケンジ+コイズミキョウコ)1stアルバム「Un chat noir」アートワーク、WELEDAクリスマスコフレパッケージイラスト、バターサンド「積奏」パッケージビジュアル、FRaU SDGs MOOK 表紙/扉絵、絵本「ライオンごうのたび」(もりおかよしゆき・著 / やまぐちようすけ・絵 あかね書房)などを手がける。各地で個展なども開催。
https://yosukeyamaguchi423.tumblr.com/

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