LUMINE MAGAZINE

SCROLL

SUSTAINABLE

 

パッケージも味も魅力。「加藤兵太郎商店」の味噌作りのこだわりとは

2022.02.08

パッケージもおしゃれと評判の味噌を手がける「加藤兵太郎商店」は、神奈川県小田原の地で170年以上続いている味噌蔵。7代目の加藤篤さんは、昔ながらの作り方を大事にしながらも、現代のライフスタイルに合わせて変えるべきところは大胆に変えるのがポリシー。味噌蔵を案内していただきながら、お話を伺いました。

木樽を90年以上使い続ける理由

神奈川県小田原市にある「加藤兵太郎商店」は1850(嘉永3)年創業の味噌蔵。蔵を訪ねてまず目に留まるのは、「加藤兵太郎商店」と書かれた木の看板と紺色ののれんが掲げられた、昔ながらの瓦屋根の木造家屋。ここは味噌や加工品を販売する蔵元直売店。引き戸を開けて中に入ると、味噌桶がお行儀よく並んでいて、その横には、スタイリッシュなパッケージに包まれた味噌がずらり。和モダンでありながらノスタルジックな雰囲気が漂い、わざわざ遠くから味噌を買いにくる20代や30代の若者がいるというのも頷ける。

「うちでは厳選した国産原料と箱根山系の地下水を使って、創業当時からほとんど変わらない製法で味噌を作っています」と語る7代目の加藤篤さんに蔵を案内していただくと、薄暗い空間に現れたのは、高さ2メートルほどもある大きな木樽。それがいくつも並んでいるさまは圧巻だ。どれも90年以上もの長い間、大切に使い続けられている。

「今はステンレスのタンクを使うのが主流なんですが、うちはずっと木樽。手入れにものすごく手間はかかるけど、加藤兵太郎商店らしい味噌の味を保つには欠かせません」

ふと足もとを見ると、地面に大きなレールが。木樽を運搬する際に使用するもので、鉄道用として使われていた線路を仕入れて敷いたのだそう。そのレールに2.5トンもの味噌樽を乗せて人力で動かすというから、ハードな仕事ぶりが想像できる。そもそも、1トン以上の大豆を圧力釜で蒸すところから始まり、温度調整などに細心の注意を払いながら米麹を作って……と、味噌作りは何かと苦労が多い。

味噌蔵には90年以上使い続けている大きな木樽が並ぶ。樽の中では仕込まれた味噌が静かに発酵中。下に見えるレールは元は鉄道用だったもの。加藤家の分家が鉄道会社で、その縁で5代目が導入したのだとか

世の中が求めるものを提供する

「おっしゃるとおり、味噌作りは体力も気力も必要なうえに、味噌の消費量は年々下降傾向にあります。そういった意味でもハードな仕事です」と加藤さん。もともとは家業を継ぐつもりはまったくなかったのだとか。「味噌はどちらかというと子どもの頃から苦手。歴史や伝統文化といったジャンルにもいっさい興味がなかったんですよ」と朗らかに笑う。

大学卒業後はシステムエンジニアの道へ。社会人経験を積んでいくなかで「周りが望むものにこそ答えがある」というひとつの考えに辿り着く。やがて父である6代目の加藤公明さんが「自分の代で蔵を閉める」と言い始めたとき、周りの人たちが望んだこと、それは篤さんが「継ぐこと」だった。そして2014年、30歳で実家の味噌蔵へ。

「やるからには、世の中の人々から望まれるものを提供しなくてはならないと思いました。そうでなければ、生き残れないなと」

まずは世の中から望まれる、つまり、欲しいと思ってもらえるように、一年をかけてパッケージをリニューアル。洗練されたデザインが話題となり、その結果、ニュウマン横浜内の「2416MARKET」などおしゃれなセレクトショップでも扱われるようになった。一方で、昔ながらの作り方は守り続けることを選択。

「変えるべきところはバッサリ変えてよい、というのが僕の考え方です。では製法はどうかと考えたときに、やはり創業当時からの作り方に加藤兵太郎商店らしさがあると思ったんです。それに今は、ものづくりの背景にも注目が集まる時代。そういった面でも、伝統的な製法を継続していくことは武器になると考えました」

加藤兵太郎商店の7代目、加藤篤さん。システムエンジニア時代の知識と経験を活かし、パッケージのリニューアルに挑むほか、ホームページを一新、ブログを開設するなど、加藤兵太郎商店のブランドイメージを刷新

その土地の味こそ、味噌の魅力

そして、味。昨今は発酵ブームの影響もあり、甘めの味噌が好まれていて、実際に甘めの味噌を作って売り出すメーカーも増えているのだとか。でも、加藤さんが出した答えは「昔のままの味でいく」。

「『世の中から求められるものを提供する』といっても、一過性のブームに乗ることには意味がないと思っています。加藤兵太郎商店という味噌蔵を継ぐと決めて帰ってきたからには、長いスパンでものを見て考えていきたい」

味噌はもともと地域色が強く、日本各地で愛されている「その土地の味」があるという。

「ところが、いろいろなメーカーが甘い味噌作りに走ってしまった。しかも、今はみんな機械化しているので、同じような味になっちゃっているところが多いんですよね。それってつまらないなと僕は思っていて。うちは加藤兵太郎商店ならではの味を、手作りで守っていきたい。そのほうが、味噌という文化の魅力を伝えられると思うんです」

現在、「加藤兵太郎商店」が作っている味噌は8種類。どれも、ここにしかない味に仕上がっている。

希少な「津久井在来大豆」をはじめ神奈川県産の原料を用いた「いいちみそ 神奈川ブレンド」、麹歩合10割で甘めの「いいちみそ 糀つぶ」、長期熟成タイプの「いいちみそ つづくみそ」など、味噌は全8種類

ちなみに、普段あまり味噌を使う機会がない、ほとんど食べないという人におすすめしたいのが「具なしの味噌汁」。お湯を沸かして顆粒だしと味噌を溶くだけと簡単で、加藤さん曰く、近年、好んで飲んでいる人が増えているそう。実は筆者もここ半年ほど、朝一杯の「具なしの味噌汁」生活を続けているのだけれど、味噌の優しい風味が起き抜けの身体にじわっと沁みるのが心地よく、すっかりハマっている。最近は「加藤兵太郎商店」のいろいろな味噌を、その日の気分でブレンドして楽しんでいる。味噌は日本が誇る健康食品のひとつ。興味がある方は、ぜひ試してみては?

蔵に併設されている蔵元直売店。紺色とえんじ色のシックなのれんと「加藤兵太郎商店」の木の看板が目印。店内では味噌のほか、辛味噌だれや味噌を使った飴やせんべいといった加工品も販売している

■加藤兵太郎商店
https://iichimiso.com/


>>取り扱いショップ「2416 MARKET」はこちら
※本記事は2022年02月08日に『telling,』に掲載された記事を再編集しております。
※情報は記事公開時点のもので、変更になることがございます。

Text: Kaori Shimura Photograph: Ittetsu Matsuoka Edit: Sayuri Kobayashi

TOP