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まだ見ぬ わたしに きがえよう / Vol.01 モデル入夏さん

2022.04.01

あたらしいわたしが過去の自分を救ってくれた。
モデルとデザイナーの両立で生まれる好循環。

まだ見ぬわたしにきがえようーー。あたらしいことにチャレンジしつづけることで、自分の中の様々な可能性を引き出し、あらゆる方面で活躍する人がいる。この連載では、そんな挑戦をつづけ、輝きつづける人たちにフォーカス。第一回目は、モデルとして長いキャリアを持ちながらも、デザイナー、アートディレクターと活動の幅を広げている入夏さん。デザイナーとしての活動が、モデルの仕事にもいい影響を与えているそう。気持ちの面でもプラスになったと話す、彼女の探究心や向上心に迫ります。

左:モデルとして撮影に挑む入夏さん 右:デザイナーとして洋服のリメイク中の入夏さん

見られる側と見せる側。
デザイナーとして活動をはじめたきっかけ

ーーモデルとして10代の頃からキャリアがある入夏さんですが、デザイナーとして活動するきっかけはなんだったのでしょう?

偶然といえば偶然なのですが、ある撮影がきっかけなんです。ヘアメイクの方、ちなみにはじめてご一緒した方なのですが、撮影中にファッションの話で盛り上がって、「実はデザイン画も書き溜めてて…」と打ち明けると、それじゃわたしがやっているブランドを手伝ってみない?と言ってくださって。それから話がどんどん進んでいきました。


ーーもともと裏方というか作る側への意欲があったんですね。

幼い頃からファッションというものが身近にありました。母の影響が大きかったのですが、幼稚園の頃からコーディネートは自分で決めていたくらい、とにかくずっとファッションが好きなんです。実はデザイナーという仕事を強く意識するようになったのは失恋がきっかけなんですよね(笑)。今は笑って話せるけど、当時は何も手につかないくらいほんとに落ち込んでしまって。このまま引きずっていたらダメだなと思ってはじめたのが、デザイン画を描くことでした。手を動かすうちに気持ちも少しずつ晴れていって、そんな状況で出会ったのが前述したヘアメイクさんなんです。


ーー最初はコラボレーションという形でしたよね。

はい。まずは既存のブランドとのコラボレーションという形でスタートして、シーズンごとに年4回アイテムをリリースしました。結果も上々で、その後は1つのブランドとして独り立ちさせていただいて、4年ほど活動していたのですが、残念ながらコロナ禍でストップしてしまったんです。それをきっかけに、デザイナーとしても5年間やってきたし、自分の可能性を試してみるチャンスだなと思って2021年春夏に「dbc nippon(ディービーシー ニッポン)」を立ち上げました。


ーー「dbc nippon(ディービーシーニッポン)」では、消費者の意識を、なるべくゴミを出さない「捨てない」という方向へ変えていこうと尽力されています。

再生素材を使うのも重要だと思うのですが、それと同じくらい長く着ていただくことも重要だと思っています。今季のキーアイテムのひとつにストレッチ素材を用いたワンピースがあります。身長も体型も問わずに、なおかつリラックスして着ていただきたいと思って作ったアイテムです。実は、お客さんからマタニティフォトを撮る際にこのワンピースを着用したと教えていただいて、とても嬉しかったですね。パートナーと共有できるようなユニセックスのアイテムにも力を入れていますし、いろんな人に開かれたブランドにしていこうと思っています。


ーー失恋って精神的ダメージも大きく全てが停滞してしまうと思いますが、やっぱりどんな状況でも動きつづけるというのはとても重要だと感じます。だからこそ”偶然”をチャンスに変えられるというか。

最初はもちろん不安はあったのですが、それ以上に「チャンスだ!」という気持ちの方が強かったです。失敗したら、それはその時。しっかり反省して、また頑張ればいいやって。でも絶対チャレンジして損することはないと思っていました。実際にやりはじめると、アパレル初心者のわたしにとっては洋服が完成するまでの工程を学ばせてもらうのはとても新鮮であたらしい発見ばかりでした。以前携わったブランドでは春夏秋冬と3ヶ月毎に新作を発表しなければならなかったので、次から次へと納期に追われて(笑)。
それをクリアすることに必死になりながらも、自分がデザインしたアイテムが完成する瞬間はとても嬉しくて、いつも幸せな気持ちでした!そういった後に引けない状況も、覚悟を決めて取り組む一因になったのかもしれません。


ーーモデルにデザイナー、バイヤーにアートディレクションまで幅広くお仕事されていますが、それぞれに対する向き合い方は違いますか?

モデルはモデル、デザイナーはデザイナー。同じファッションの仕事ですが、頭の使い方はまったく違います。クリエイティブなスタッフに囲まれて、カメラの前でポーズを取るのも楽しいですし、生地屋さんでひとり、黙々と生地を探している時間もとても有意義だと感じています。実は、自分のブランドではあたらしいことに挑戦する気持ちを忘れないためにも毎月ゾロ目の日には新作を出すという「マイルール」を設けているんです。スタッフの方から「そろそろですよ」ってリマインドされるのですが、時間がない中でも楽しめる。それってやっぱり“好き”だからなんですよね。本当にファッションが好きだからこそ、忙しい中でもやれているのかなと思います。

それぞれのクリエイティブを
追求することで得られる相乗効果

ーー色々な仕事をやりはじめてから、気持ちの面での変化はありましたか?

モデルの仕事だけやっていた時は、失敗した時に落ち込むことが多かったのですが、デザイナーとして活動しはじめてからは、気持ちのバランスが取れるようになりました。モデルの仕事でちょっと嫌なことがあっても、家に帰ってからデザイン画を描きはじめると、もうそっちに気持ちが切り替わっている。逆も然りで、デザイナーや買い付けなどの仕事でちょっとミスして自信を失くしても、モデルの仕事がうまくいけば、また自信を取り戻せる。これは、デザインの仕事をやってなければなかったことです。今はとてもいい状態でお仕事させてもらっているなと思っています。


ーー仕事以外で気分転換や気持ちを切り替える時はどういったことをされていますか?

ほぼ毎日自炊しているので、料理もいい気分転換になっています。あとは、気心の知れた友人たちと美味しいものを食べることかな。お気に入りのカフェでお茶しながら、他愛もない会話を交わす時間はとても貴重なものだと思っています。


ーー読者の中には、仕事だけでなく趣味や人間関係などで、今まさにあたらしいことにチャレンジしようとしている方もいらっしゃると思います。入夏さんなりのアドバイスがあれば教えてください。

とにかくまずはやってみること。やってみて、もしダメだったら、それでもいいじゃないですか。だって、あたらしいことを最初から100%できる人なんていないと思うんです。失敗しても、そこから学べばいいし、合わなければやめちゃえばいい、近い分野でできることを改めて探してみるのもいいと思います。少なくともわたしは、あたらしいことにチャレンジして、世界が広がりました。仕事の面でも、気持ちの面でもそう。片方が上手くいかなかった時に、新しくはじめたことが助けてくれることもある。これが最大の発見でした。わたしもどんどんあたらしいことにチャレンジしていこうと思っています。その時は“好き”に正直に、その気持ちが背中を押してくれるはずです。

入夏さん私物のブーツ

わたしを象徴するアイテム

コーディネートの軸になるブーツです。いろんなブランド、いろんな形のブーツを持っています。意外とどんなファッションにも合うし、使い勝手がいい。お気に入りはドクターマーチンのブーツ。何足も持っていますし、昔からはいているものもお手入れしてはきつづけています。愛着が湧いてくるというか、基本的に処分することがないので、溜まっていく一方です(笑)。
プロフィール
1993年生まれ、神奈川県出身。モデルとして、雑誌をはじめ広告、TVCM、ファッションショーと幅広く活動。現在は自身のブランド「IRUKA(イルカ)」を立ち上げ、ネットショップ『dbcnippon(ディービーシーニッポン)』にて企画、デザイン、バイヤーを兼任するアーティスティックディレクターを務める。

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