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CLASS ROOM

お茶で始まる日常と、お茶が生み出すおもしろいこと

2022.11.30

ルミネが運営する暮らしをもっと楽しむためのカルチャースクール「CLASS ROOM」。さまざまなジャンルで活躍するゲストを招いてお話を伺い、ルミネマガジンとYouTubeルミネ公式チャンネルで配信しています。
今回のゲストは、お茶の飲める茶葉屋「norm tea house」主宰の長谷川愛さん。各地のお茶農家でお茶づくりの現場に触れ、厳選したお茶を扱う長谷川さんの、お茶との出会いや暮らしの中での楽しみ方などを聞きました。

>> インタビューを動画で見る:前編後編

蔵前にあるnorm tea houseでお茶を淹れる長谷川さん。

コーヒーから日本茶へ。訪れて知るお茶の世界。

―長谷川さんがお茶の魅力に夢中になったきっかけを教えてください。

いくつかあるのですが、いちばん最初はバリスタとしてコーヒーを淹れながら海外を旅したときの経験です。旅行がてら友達が住んでいる国に行き、バリスタの仕事をして滞在するということをしていたのですが、エストニアに行ったときに、首都のタリンにあるカフェで1週間くらいゲストバリスタとしてコーヒーを淹れました。ところがそこがメニューに抹茶があるカフェで、日本人がいるというのが珍しかったこともあり、日本人だから抹茶を淹れてくれという注文が多かったんです。当時の私はお抹茶の点て方をギリギリ知っているくらいで、知識はあまりなかったんですけど…。でも日本からとても離れている国にも抹茶のメニューがあることや、抹茶には日本人のイメージがあるんだなあという発見があって、海外で働くうえで、抹茶や日本の文化について知っているのはアドバンテージになるという下心でお茶に興味を持つようになりました。

そこから日本で農家さんを紹介してもらって、お茶をつくっているところを見せてもらうようになり、あちこちの産地を回っているうちに段々とはまっていった、という感じです。日本茶の教科書みたいな本ももちろんあるのですが、そもそもベースの知識がなかったので読んでも分からないこともあったりして、直接見にいって聞こうと。

最初の頃にお茶の生産現場に訪れたときに、改めて「お茶って本当に葉っぱなんだな」と思ったのがすごく印象的でした。お茶に限らず何でもそうですが、基本的に完成したものにしか触れていないので、当たり前のことに結構びっくりしましたね。

長谷川さんが訪ねたお茶畑。お茶づくりの現場は農家さんの手作業が基本。

暮らしの中で気負わずに楽しむお茶の時間

―産地を訪れたりお茶のことを知っていくなかで、ご自身の暮らしにはどのようにお茶を取り入れていったのでしょうか?

お茶の時間はそれまでも割と暮らしの中にあったんです。学校から帰ってきてみんなでお茶を淹れておやつを食べるとか、ご飯のあとには「じゃあお茶淹れるね」ってお茶が出てくるような家庭でした。一人暮らしを始めたりしてそういう時間がなくなっていたのですが、産地で分けてもらったお茶を自分の家で飲むようになって、“お茶の時間”というのを意識的に自分からつくるようになりました。今では朝起きてまずお茶を淹れて、という感じで、歯磨きするのと同じくらい日常の時間になっています。


―お茶の選び方や淹れ方など、長谷川さんはお茶の時間をどう楽しんでいますか?

お茶って選ぶのもすごく楽しいんですよね。朝起きて、ちょっとシャキッとしたいときは緑茶や生の焙煎していない烏龍茶を飲んだり、リフレッシュするようなハーブのブレンドのお茶を選んだりします。あと、お菓子と一緒にお茶を飲むのも大好きなので、お煎餅にはちょっと火が入った焙煎のお茶を飲もうとか、羊羹をいただいたから紅茶にしようとか。

忙しいときは日中ゆっくりお茶の時間がとれないので、全部終わって夜遅い時間にお茶をすることがあります。私はティーセットを用意するのが好きで、1人で小さいおぼんに茶器を乗せて、おままごとみたいにお茶を淹れて飲んだりします。それはちょっと儀式的な楽しさがあって、ティーセットを出して白茶などのじんわり楽しむようなお茶を選んだり、部屋の照明を少し落としたりして、1人で夜な夜なお茶会をするんです。その時間はスマホを触る気にもならなくて、ただお茶を淹れて飲む。こういうボーッとする時間をつくるというのは、忙しいときの方が意識的にやっているかもしれません。

2019年に国連大学中庭で開催された「Tea For Peace」。日本各地や様々な国のお茶、茶器が集まりワークショップなども行われた。

幅広いお茶の世界を軽やかに、そしてシンプルに追求する

―長谷川さんがディレクターを務めるお茶のイベント「Tea For Peace」について教えてください。

Tea For Peaceでは、いろんな生産者さんやお店に声をかけて出店してもらったりワークショップをしてもらったりということをしていました。Tea For Peaceは、お茶をジャッジするものではなくて、「この一杯で平和を」という、すごくシンプルだけどとてもいいテーマだなと思います。いろいろあるけど、おいしくて、好きな人たちがいて、みんなでお茶を飲めるっていう時間がすごくいいよね、という会でしたね。


―Tea For Peaceも、長谷川さんがセレクトした茶葉を売る「norm tea house」もそうですが、いわゆる業界のど真ん中にいないからこそ見えてくる、新しいお茶の世界というのはあるのでしょうか?

私は基本的な日本茶の勉強はしましたが、たぶん日本全国にあるお茶屋さんの常識や、価値基準からはちょっと外れているんじゃないかと思います。でも、だからこそちょっと外からの目線で、普通においしいからいいじゃん、というものを選べる自由さがありがたいなと感じています。それを共有できるお客さんがお店に来てくれるのかなと。

例えば、番茶って、二番茶や三番茶、夏や冬に摘んだから番茶、形が悪いから番茶、とかいろんなものがありますが、味が悪いわけではないんです。それでも春摘みのお茶と比べると市場では価格が全く違って、番茶は1/5とか1/10くらいの価格になることもあります。でもその中にはおいしいお茶やおもしろいお茶もあるので、norm tea houseでは番茶も煎茶や釜炒りの緑茶もそんなに差をつけずに、「こういうお茶です」という私の個人的な見解をもとに紹介しています。

人々の暮らしのある住宅街に馴染むnorm tea houseの外観。

おいしいものがあり好きな人がいる、良い暮らし

―norm tea houseを通じてやってみたいことを教えてください。

コロナの前までは、自分の体が好きに動ける状態にしておきたくて、場所を持つということを避けていたんです。でも、お店をつくってからは自分が行かなくても人が来てくれる。近所の方も来てくださいますし、最近は、お店で知り合った雲南省出身の方と雲南のお茶会を企画したりもしました。この場所については、粛々とお茶を出して交流しながらおもしろいことが起きていったらいいなと思っています。

このお店は駅からは少し距離があるのですが、駅の近くでお客さんをどんどん回さなきゃ、という感じになったら嫌だなと思っていたので、ちょっと行きにくい場所を意図的に選びました。あと、たぶんお茶屋さんというのは昔はもっとたくさんあって、近所の人たちがいつものお茶を買いに行くという状況があったと思うんです。そういう場所になりたいので、住宅街で人が住んでいるここになりました。


―お茶以外に夢中になっているものはありますか?

海外に行くのはやっぱり好きで、旅行したいというより「暮らしたい」。住んでそこで働いて、というのが好きなので、コロナがもう少し落ち着いたらまたやりたいなと思っています。暮らしをいろんなところに移すのが好きなのかもしれないです。


—長谷川さんにとっての良い暮らしとは?

好きな人が周りにいて、おいしい食べ物とおいしい飲み物がある暮らしが良い暮らしだなと、しみじみ思います。最近、田んぼを借りたいと思っているんです。自分の幸せな時間を守るためにはやっぱりおいしいご飯と飲み物をつくらないといけない。それをちょっとずつ自分の手でできるようになりたいです。

長谷川愛さんおすすめの、暮らしをもっと楽しくしてくれる一冊

『料理と利他』著:土井善晴・中島岳志(ミシマ社)

中島岳志さんと土井善晴さんの対談がほぼそのまま記録された1冊。お店の立ち上げと出産、ライフイベントが重なって時間の流れ方が大きく変わり、元々好きだった料理や家事がしんどくなる瞬間がありました。土井さんの言葉で肩の荷が降りてまた料理が楽しくなり、お茶を淹れることから生き方まで、淡々と粛々と、続ければ良いんだ、といい感じに気を抜いてくれた本です。

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<プロフィール>

長谷川愛(norm主宰)
学生時代より茶産地や生産者の元を訪れ現場の茶を学ぶ。2018年より茶の祭典「Tea For Peace」(Farmers Marketとの合同開催)のディレクターを務め、2021年お茶の飲める茶葉屋「norm tea house」を開く。幽玄な茶の世界と、目の前の愛すべき茶の時間の繋ぎ手を目指す。
https://www.normtea.com/


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