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CLASS ROOM

食卓を囲んで言葉を交わす、居心地の良い豊かな時間

2022.12.21

ルミネが運営する暮らしをもっと楽しむためのカルチャースクール「CLASS ROOM」。さまざまなジャンルで活躍するゲストを招いてお話を伺い、ルミネマガジンとYouTubeルミネ公式チャンネルで配信しています。
今回のゲストは、ナチュラルワインとおつまみと喫茶、それぞれに”ちょうどいい”空間を提供するワインバー「Cyōdo」オーナーの山口萌菜さん。人と食卓を囲む時間を大切にする山口さんの、食にまつわる記憶や居心地の良い時間、ホリデーシーズンのお気に入りの過ごし方について聞きました。

>> インタビューを動画で見る:前編後編

カウンター越しのやりとりが心地いいCyōdoの店内

原点は子どもの頃の食の記憶

―山口さんがお料理をするようになったきっかけを教えてください。もともとつくるのが好きだったのでしょうか?

母がとても料理上手で、私が子どもの頃から友だちを呼んで一緒にお菓子をつくったりしていて、私もよくお手伝いをしていました。家族でヨーロッパにいた経験もあったので、向こうの家庭料理が食卓に出てくることも多かったりして、食べることも好きでしたし、料理には昔から興味があったと思います。

母には、お弁当は自分でつくりなさいと言われていたので、学生時代は弟や妹の分も一緒に私が毎朝つくっていて、それで時間に間に合わせるとか、効率よく料理するというところはすごく鍛えられたなと思います。明日は何つくろうと考えたり、ある材料でやりくりしたりというのも楽しんでいました。


―人を招いて大勢で食卓を囲む機会も、子どもの頃からよくありましたか?

団地だったので、近所に仲の良い家族が3世帯くらいあって、一枚板の大きいテーブルを囲んで大勢でごはんを食べる機会はとても多かったです。誰かの誕生日には必ず料理を持ち寄ってパーティーしたり、みんなでキャンプに行くときは、1週間くらい前から食事のメニューを決めてスケジュールを組んだりもしていました。

山口さんが過ごした海外の風景(左)と、自宅で友人たちと囲む料理(右)

―ヨーロッパの食事の場ではワインもよく登場しそうですが、ナチュラルワインにはなぜ興味を持つようになったのでしょうか?

ヨーロッパにいたときはまだお酒を飲める年齢ではなかったのですが、ワイナリーにステイしたこともあったので、そこにあったワイン樽やつくり手の人のことはとても記憶に残っています。両親が家で飲んでいたこともあり、ワインは大人になって最初に飲んでみたいお酒として憧れがありましたね。

実際に飲めるようになったら、体質的にワインは合っていたのですが、すごくお酒に強いというタイプではなかったので、悪酔いせずに楽しいうちに終われる質の良いお酒かどうかがとても重要で……。ちょうど20代前半くらいの頃に、ナチュラルワインと出会い飲むようになりました。おいしくて最後まで楽しく飲める、自分に合ったワインだったということだと思います。


―山口さんの好みのナチュラルワインや選び方などを教えてください。

私はクラシックなワインでもナチュラルワインでも、フランスのものが口に合うし好きだと思うことが多いです。ナチュラルワインの独特な香りや、ピチピチしていて少し薄濁りだけど透明感もあって軽やかな味。そういうタイプがすごく好きです。

選び方は、飲み慣れている国や品種で選ぶことも多いですし、あとはエチケット(ワインのラベル)ですね。エチケットがかわいいのもナチュラルワインの特徴で、味がイメージできたり、ワイナリーの方向性を体現しているようなものも多いと感じるので、そこのフィーリングで選んだ1本というのがバシッとはまることもあります。

山口さんがセレクトした個性豊かなナチュラルワイン

“ちょうどいい”空間をつくる

―「Cyōdo」はとても素敵な空間ですが、お店のコンセプトや山口さんが大事にしていることは何でしょうか?

店名は“ちょうどいい”に由来しているのですが、あるとき行ったお寿司屋さんで、もっとおかわりください!みたいな感じでたくさん食べようとしたら、大将に「満足以上は不満足だよ」と言われたんです。そのときに「ああ、本当にそうだな」と感じたことがとても記憶に残っていて、量や接客や値段、それに時間帯とか、色んな面でちょうどいいところを見極めていきたいというのが一番の想いです。誰かと過ごしたり、一人で過ごす時間の中で、今ちょうどこういうのが食べたかったとか、ちょうどよく過ごせたなと思って帰ってもらうということを大事にしています。

もちろん、人それぞれで“ちょうどいい”は違うと思いますが、それを察知する努力を忘れないでいたいですし、それは一つの変わらないお店の核として持っていたいと思っています。


—お店の料理は、どういうところからインスピレーションが湧いてくるのでしょうか?

これまで食べてきたものの記憶の中から思い出してつくることもあれば、食についてのエッセイを読むのが好きなので、そこから想像してつくったりもします。あとは、自分が他のお店を見ていいなと思ったり、日常の中でときめいた瞬間を忘れずにいて、同じようなときめきや興奮をお客さんにも感じてもらえるように、と思っています。

空間のすべてに、それぞれが“ちょうどいい時間”を過ごせるように、という想いが込められている

心の声をキャッチして、豊かな時間を自分でつくる

―日々の食事やプライベートな場面でもお料理をすることは多いでしょうか? 

家だと和食とか、お店では出さないジャンルの料理もしたりしますね。時間があるときは餃子を皮からつくってみたりとか。あとは、つくってみたいけどまだお店では提供できないというものを、仲良しの友人たちを呼んで振る舞うこともありますし、誰かの家に遊びにいってつくることも多いです。みんなで食卓を囲むことがもともと好きですし、つくっておいしいと言ってもらえることがすごく嬉しいんです。


―人と集まることも増えるホリデーシーズンはどう過ごされますか?お気に入りの過ごし方やおすすめのフードやドリンクなどがあれば教えてください。

イベントのワクワク感を楽しむのは大人になっても忘れたくないと思っているので、先日もハロウィンには友人の家に集まってカボチャ料理をつくりました。1月は餅をつこうとか、今度はタコスしてみようとか、テーマを決めて食をメインに集まることもあれば、みんなで買い物に行って、出会った食材でつくることもあります。

冬のホリデーシーズンは、ドリンクだとショコラショー(ホットチョコレート)やヴァンショー(ホットワイン)でしょうか。冬ならではの楽しみというドリンクで、お店でも出しています。お料理だと、季節感を取り入れた料理や旬の食材をみんなで食べるとか、そういうことは割と意識していると思います。


―山口さんは子どもの頃から、人と食卓を囲む楽しさやつながりを大切にしてきた印象ですが、誰かとごはんを食べる時間をどういう風に捉えていますか?

大勢でなくても、食事やその時間を共有できる友人たちがいることが、とても嬉しいことだと思っています。例えば、誰かと一緒にレコードを流しながらコーヒーを淹れて、朝ごはんをつくってちゃんと座って食べるとか、そういうことって一人でいると蔑ろになりがちですけど、ほんの15〜20分だけでもその時間があることで「生きてるなあ」と実感するし、心をいったん落ち着けて整理する時間にもなると思います。あと、大勢で家族みたいに食卓を囲めることって、東京にいるとなかなか機会がなかったりするので、家で言葉を交わしたり、おいしいねって言いながら何かを食べる時間は、私の中では生きている意味でもあり、豊かだなと感じることですね。


—山口さんにとっての良い暮らしとは?

自分がときめいたり、落ち着くこと、豊かに感じるなということを、見逃さずにきちんと自分の中で昇華していける暮らしというのが、良い暮らしだなと思います。

自分の人生を豊かにするのも楽しく生きるのも自分次第なので、生きたいように生きるために働きたいと思っているし、それが自分に合っていることだったらなおいいですよね。こういう自分でいたいとか、こういう女性になりたいとか、もっと小さな願いでも、自分の想いを叶えられるように生きていきたいです。

山口萌菜さんおすすめの、暮らしをもっと楽しくしてくれる一冊

『フランス日記―日々ごはん特別編』著:高山なおみ(アノニマスタジオ)

高山なおみさん独特の語り口で綴られる、フランスでの食を通した滞在日記。登場人物たちの人間性や、異国へのときめきが、飾らない目線で描かれる。
中学生の時から何度も読み返している一冊。

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<プロフィール>

山口萌菜(Cyōdoオーナー)
1996年生まれ。
幼少期から食文化に富んだ家庭に育つ。
クラシック音楽を学んだ経験や欧州への滞在経験から
ヨーロッパの食事や文化に親しむ。
Cyōdoを代々木八幡にオープン。
2022年に幡ヶ谷に移転し、営業している。
https://www.instagram.com/cyodo_official/


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