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「これからの本好き」を育てたい/夢眠ねむさんインタビュー 前編

2023.06.30

“ねむきゅん”こと夢眠ねむさんは、2019年に「でんぱ組.inc」を卒業し、芸能界からも引退しました。そのあとはじめたのは、「これからの本好きを育てる」ための小さな本屋。さらに、キャラクタープロデューサーや出版社など、さまざまな活動をしています。そんなねむさんのポリシーやライフスタイルに迫るインタビュー。前編では、現在の活動と「夢眠書店」のこと、一貫した想いなどについて語っていただきました。

PROFILE
夢眠ねむ(ゆめみ・ねむ)/「夢眠書店」店主、キャラクタープロデューサー
三重県生まれ。多摩美術大学卒業。2009年にアイドルユニット「でんぱ組.inc」に加入し、アイドル活動のかたわら美術家、映像監督などとしても活躍。2019年にグループを卒業し、芸能界を引退。同年、東京・下北沢に「夢眠書店」をオープン。さらに「たぬきゅんフレンズ」のキャラクタープロデュースを行い、出版社「夢眠舎」も展開している。

子どもが自分で本を選べる環境づくり

―現在の活動について教えてください。

肩書きは「本屋店主/キャラクタープロデューサー」としていて、メインの活動は「夢眠書店」の店主です。夢眠書店では、経営のほか、店に置く本を選んだり、店頭に立ったりしています。今はスタッフが増えたのでお店を任せることもあるのですが、2019年にオープンした当初は姉とふたりだけ。わたしが仕入れから接客まで本屋の部分をすべて担って、姉が喫茶を担当してくれています。
姉はもともとフランス料理人なのですが、いま、喫茶メニューのほとんどがうどんなんです。実家が魚屋で出汁をつくっているので、それを仕入れて使っています。


―キャラクタープロデューサーとしては、たぬきゅんと、その仲間のラビやんとコアラさんによるユニット「たぬきゅんフレンズ」をプロデュースしていますね。

たぬきゅんフレンズは“イケメンアイドルユニット”です。どんな曲を出すかなどもそうですが、2022年にサンリオピューロランドで彼らのお芝居をやったときは、脚本家の方に「こういうお話をやりたいです」と提案したり。本当に、いわゆるプロデューサーの役割ですね。グッズもいろいろなものを展開しています。

夢眠書店の店内にはたぬきゅんのグッズも。こちらは「たぬきゅん×ウアモウ」のコラボフィギュア。

―夢眠書店のコンセプトについて教えてください。

最初は漠然と本屋をやりたいなと思ったんです。わたしは本であればなんでも買ってくれるような家に育ち、中高生のときは通学時間が電車で片道2時間半くらいあったので、その間ずっと本を読んでいましたし、アイドル時代も遠征のときによく読んでいました。本は一番身近な娯楽だったんです。

大きな本屋さんもたくさんあるなか、個人書店がある意味ってなんだろうと考えたときに、一部の人にとって本当に必要とされる本屋をつくりたいなと思って。
当時、姉やまわりの友だちの出産が続いていたんですね。そのなかのひとりと一緒にレストランに行こうとしたとき「子連れだと迷惑かけちゃうかもしれないから、別のお店にしよう」とお店選びに苦戦しているのを見て、この状態で本屋なんて絶対行けないよなって。だから、大人も子どももゆっくりできる本屋をつくりたいと考えました。

夢眠書店は、「これからの本好きを育てる」本屋です。ゆっくり見てもらえるように予約制で、授乳やデリケートな話も気兼ねなくできるように、ご夫婦やお母さん、女性おひとり、高校生までの子どもとその親、女性グループのみOK。子連れしかだめなのかなとよく思われるんですが、会社の昼休みに女性がひとりでお昼を食べに来たり、女子大生が集っていたりもしますよ。喫茶のおやつだけ食べにくる人もいますし、ママ友の会が開かれていることもあります。出産祝いのプレゼントを選びに来てくださる方もいます。
お父さんのみと独身男性はいまのところお断りしています。でも、どなたでもOKなイベントがあったり、ときどきは独身男性しか来られないカレーうどんイベントをやっていたりもします。


―男性が完全NGなわけではないんですね。

そうなんです。とにかく安心感を求めた結果、こうなったという感じですね。
空間づくりも子連れの方に配慮していて、授乳やおむつ替えのスペースを用意しています。それから、たぬきゅんたちのぬいぐるみがたくさんあるキッズスペースも。お子さんにはそこにちょっといてもらって、お母さんが熱々のうどんを食べられるのを理想としているんです。お店を開くときにお母さんたちから聞いた「他人が作ったあったかいごはんが食べたい」という意見を参考にしました。
あと、パパが初めてのワンオペでのお出かけで使っていただけたりもするんですよ。「お主、さては初ワンオペだな」と、聞かずとも雰囲気ですぐわかります(笑)。スタッフみんなで見守ってほっこりするみたいな、そういう日もあります。


―ラインナップはやはり絵本が多いのでしょうか?

絵本は半分くらい。あとは個人的な趣味で食べ物や料理が好きなので、レシピ本が多いですね。無意識で絵本も食べ物がテーマのものがすごく多くなっちゃっています。それらに加えて、気軽に読める大人用の小説や児童書が1段分くらいあるでしょうか。
うちは狭いので本が多くなく、「これからの本好きを育てる」うえで、ある意味選びやすくなっています。お母さんたちも「すでに選んでくれているなかから選べるから助かる」と言ってくれていて。親が読んでほしい本を与えるのもいいのですが、夢眠書店ではお子さんが自分で選んで、「これ」と親に渡していることがよくあって、それがいいなと思うんです。
わたしが本好きになったのは、たぶん、自分で選んだ本がおもしろかったという成功体験がきっかけ。そんなかつてのわたしと同じように、自分でお気に入りの本を見つけて、買ってもらって読むという流れを見られるのがうれしいです。

本って実はすごくコスパがいいんです

―本のセレクトはどのような視点で行っていますか?

条件は「きらいな本ではない」くらいで、実はたいして選んでいないんですよ。自分が好きではなくても読みたい人はいるかもしれないので、むしろあまり選書しすぎないことがポイントです。
それに、おすすめはどれですか?って聞かれるのがめちゃめちゃ嫌いで……自分で選べ!って思っちゃうんですよね。自分がいいと思うものを選んでほしいですし、その方の性格を知らないと的確なおすすめはできないので、はじめて来店した方に聞かれたらすごく嫌な顔をします(笑)。自分が本で人生や考え方が変わったタイプなので、人の人生や性格を変えてしまうかもしれないことが怖いというのもあります。
反対に、関係性ができている仲良しの常連さんであれば、これ絶対好きでしょ!とおすすめすることもあります。そのあたりも、まさに個人店ですよね。


―たしかに、自分で好きなものを選ぶ経験は大事かもしれません。

みんな絶対できるのにどうしてそうしないのか、ずっと疑問に思っていて。たぶん、できるけど不安や失敗したくない気持ちがあると思うんですよね。
ネットで閲覧履歴からおすすめが表示されたときと同じように、人からすすめられたときに「これ好きじゃないのにな」と感じることもあると思うんですよ。おすすめされて好き嫌いが判断できるのであれば、書棚を見て判断することもきっとできるので、ぜひチャレンジしてみてほしいです。

―お店に来たお子さんとはどんなコミュニケーションをとるんですか?

わたしは子どもが特別好きなわけではなく、テンション高く話しかけるタイプでもないので、あまり干渉しないようにしています。喧嘩もしますし(笑)。「やめてって言ってるでしょ!」とか……田舎の商店のおばちゃんみたいな感じです。

でも、よく来てくれる子が、私にだけこっそり恋バナをしてくれたりすることもあります。約4年、お店をやってきたなかで、そういう関係を築けているのがうれしいですね。「前は赤ちゃんだったのに、もう炭酸が飲めるようになってる!」と、いろんな子が成長する姿を見させてもらっています。


―これまでの4年間で、本好きを育てるという目標はかなっていると感じますか?

直接的に「本好きを育てた」と実感することは日常のなかでは少ないのですが、たとえば以前は「夏休みに本を10冊読まなきゃいけないんです」と苦い顔で話していた子が、来店するうちに「なんか本読めるようになったよ」と報告してくれたりします。最初はいやいや読んでいたのに「作文でほめられて賞を取ったから、また読みます」と言ってくれた子もいました。そんなときは、書店をやっていてよかったなと思います。

この場を借りてみなさんにお伝えしたいのが、本って、安いんですよ。情報が0円で手に入る時代だから高いと思うかもしれませんが、本ってモノのなかでもかなりコスパがいいんです。金額に対して得るものが大きいし、いろんな人の手を通って生まれているし。なので本当に、本、買ってほしいです。

文化そのものよりも、そのまわりにいる人が好き

―かつてはアイドルとして表現する側でしたが、いまは本という誰かの表現を広める側に立っているんですね。

もともとは作品をつくりたくて、美大で美術を学ぶために東京に出たんです。だから最初は自分は発信する側なのかなと思っていたんですが、やりたい表現を突き詰めていくと、自分の好きな文化そのものよりも、そのまわりにいる人がすごく好きだということに気づいて。アイドル文化だったらアイドルじゃなくてオタクのみなさん、本だったら作家よりも本を作っている人や売っている方のように、文化をまわりで盛り上げて支えている人。だから、必要であれば発信はすれど、その人たちの価値も上げたいという想いがあります。

アイドル時代はオタクの地位が低い時代が長くて、「いやいや、オタクがおもしろいからこの文化が成立しているのに」と悔しかったんです。
本も、書店員さんが選んで賞を決める本屋大賞というものがあるんですが、とある部門の授賞式で書店員さんが泣きながら「この本を平積みしたい」と言っていて、その熱量に感動しちゃって。受賞した作家さんははきょとんとしているんですけど(笑)。そんなふうに、文化のまわりの人の尊さやおもしろさを見ていたいので、アイドルをしていても本屋をやっていても、ずっと俯瞰して見ているところがあります。

そのスタンスはずっと変わらず、これからも自分の好きな文化とそのまわりの人を盛り上げていきたいです。だから「自分が世界を変える!」ではなく、「私を見てくれ!」でもなく……今は本屋なので、本がなくならないようにしていきたいです。目に見える結果を出すのは難しいかもしれませんが、しつこく本はいいぞ、と言い続けていきます。


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