TOKYOをもっと楽しみたい
講師:田島朗(Hanako編集長)
平野紗季子(フードエッセイスト)
小谷実由(ファッションモデル)
食・メディア・ファッションのジャンルの垣根を越え、3名の講師とともに、東京ならでは楽しみを探っていきます。あなたも自分ならではの“TOKYO”の楽しみ方を見つけてみませんか。
街歩きは毎日のようにしていて、気になるお店にふらりと入ったりしますが、“ジャケ買い”をする瞬間にとてもわくわくします。ショーウィンドウの背景がブルーだと当たりが多かったり、壁がグリーンのお店はだいたいおいしいとか、個人的に培ったルールみたいなものがあって。今日訪れた「SOWA」は、もう看板のフォントを見た瞬間にいいお店だってわかりました(笑)。ここにしかないものに出会うと、ビビビってアドレナリンが出るんです。
今は特に、紅茶専門店にハマっています。たとえば、渋谷にある「紅茶の店 ケニヤン」は、紅茶をメインにしている喫茶店。コーヒー全盛の今も、時代の追い風も受けずに淡々と自分たちのやり方を貫いていて、その手垢の付いていない感じががすごく素敵で。
誰かにいいお店に連れていってもらったときは、もう一度自分ひとりだけで行かないと気が済まなかったりもします。駅からお店まで街の様子を眺めながら歩いていると、住んでいる人の様子がわかったりして、そのお店がある理由が少し理解できたりするから。そういうのがなくなると、ただ点から点へ、目的地から目的地へ移動しているだけでしょう? それを続けると、だんだん心が殺伐としてきて……(笑)。神谷町で打合せがあったら15分前に行って、ソフトクリームを食べたいんです!
こうして話しているとレトロなものが好きなんだと思われがちなんですが、古いものが特に好きというよりも、お店それぞれの物語や時間軸の多様性を感じたいんです。たとえば老舗のレストランがなくなるとき、よく、閉店間際にものすごく混んだり、悲しむ人が続出したりしますよね。私ももちろん残り続けてほしいという気持ちは抱くけれど、だからといって、そこに深く関わってきたわけではない私が「なくなるのは悲しい!」と言うのはおこがましい気もしていて。
私が街を歩いていつもいいなぁと思うのが、古くからその街にあるような床屋さん。ドアが斜めについていたり、窓が大きかったり、内装もミニマルでかっこいい。その中で店主がヒマそうに雑誌を読んでいるのもなんだかいい(笑)。そういうすばらしい建物を居抜きで借りて、新しいことを始めてみたいって思ったりしています。文化的な資産がなくなることをただ嘆いているのではなく、アイデアや行動次第でうまく引き継ぐことができるようになれたらいいなって。
今までは、ずっと消費者でいたいと思っていたんです。でも、最近は食べるだけじゃなくてつくる側になりたいっていう思いも強くなってきました。大好きな食文化に対して、私に何ができるかを突き詰めると、食べて書いてばかりじゃないかもしれないなって……。なんだか食べ物の話ばかりですみません(笑)。東京は大好きな街です。歩き回ることでいろんな時代を縦横無尽に駆け巡れるし、新しいものが生まれていく瞬間も目撃できる。
最近、代々木公園に「PATH」というお店ができたんですが、そこはパン屋でもあるし、ブランチもランチもあって、夜はさくっとワインが飲めつつ、ガストロノミックなコースも楽しめる、総合格闘技系のお店。ここがオープンしたとき、「あ、スタンダードが更新されるな」と感じました。そういう新しい価値が生まれる瞬間に立ち会えるとすごくワクワクするし、こうして街はもっと素敵になっていくんだっていう、いい予感に満ちている。これこそ、東京ならではの体験だと思います。
1991年福岡県出身。小学生から食日記をつけ続けるごはん狂(pure foodie)。自身の食生活を綴るブログが話題となり、現在では雑誌『hanako』『SPRING』等での連載執筆や、新宿伊勢丹でのエキシビジョンなど幅広く活動。著書に『生まれた時からアルデンテ』(平凡社)がある。instagram:@sakikohirano