TOKYOをもっと楽しみたい
講師:田島朗(Hanako編集長)
平野紗季子(フードエッセイスト)
小谷実由(ファッションモデル)
食・メディア・ファッションのジャンルの垣根を越え、3名の講師とともに、東京ならでは楽しみを探っていきます。あなたも自分ならではの“TOKYO”の楽しみ方を見つけてみませんか。
CLASS ROOMで「私のごはんの楽しみ方」というタイトルで講義をしてくれた、フードエッセイストの平野紗季子さん。2017年1月25日(水)に開催される新年特別講座では、『Hanako』編集長の田島朗さん、ファッションモデルの小谷実由さんとともに再び講師を務めます。テーマは「TOKYOをもっと楽しみたい」。気になる街をあてもなくさまよって、偶然出会ったお店で食事をするのが理想だという平野さんに、今回のインタビューでは東京の魅力をうかがいました。
撮影は、神谷町のアイスクリーム店「SOWA」と喫茶店「珈琲大使館」で。いずれも平野さんが街歩きをしていて見つけたというおすすめのお店です。「神谷町って何かありましたっけ、なんて思うかもしれませんけど、いやいやありますよって。すべての街は面白いんです」。小学生から食日記をつけ続ける“生粋のごはん狂(pure foodie)”平野さんならではの“東京の味わい方”とは?
そもそも私が食日記をつけはじめたのは「東京はすごい」って感動したのがきっかけなんです。5歳のときに福岡から東京に引っ越してきて。それまではロイヤルホストが世界一のレストランだと思っていたのですが、シェ・リュイのカヌレや、RISTORANTE HiRoのコーンスープに出会い、衝撃を受けました。親も「東京はすごかばい!」って同じように思ったみたいで、東京の気になるレストランにいろいろ行ってみようという“おのぼりモチベーション”が高まり、週末はよく外食へ。ロイヤルホストは今も大好きで、もはやパーマネントコレクションのひとつですけどね(笑)。
高校生の頃、東京はカフェブームの円熟期で、とにかく気になるカフェを片っ端から回っていました。思えばそれがひとりだけで行ける初めての外食体験。最初は古い雑居ビルの3階にあるようなリノベーション系のところにばかり行っていたんですが、表参道のロータスに初めて行ったときにものすごく衝撃を受けて。大学生の頃はそこで働かせてもらったくらい好きでした。
東京って、ずっと工事中だよなって思います。信じられない速度で変わり続けて、サクラダファミリアみたいに、いつまで経っても完成しない。それでいて、掴みようのない東京の空気を実感する瞬間がたまにあって。「東京らしさ」というのか、たとえばこの前、中目黒の「まえだや」でジンギスカンを食べた帰り道、ソフトクリームを食べながら目黒川沿いを歩いていたんです。そのとき「あ、私は今、東京の一部になっている」っていう感覚を味わって。WWDでライブを観たあと、友だちとみんなで三宿の新記に行ったときもそんな気分になりました。“東京プレイ”をしているような感覚(笑)。
今は首都高のそばに住んでいて、夏の暑い日は息をしたくないくらい空気が悪いんです。そんな環境でも東京に住んでいたいと思うのは、人がつくったものが好きだからなんですよね。自然との対比という意味で都市は人がつくり上げたものだし、人間ならではの「おかしみ」が、街に染み出している感じがするんです。CLASS ROOMの講座でも話しましたが、有楽町を歩いていたときに、看板やお店を眺めていると、いろいろな人とおしゃべりをしているような感覚になったことがあって。好奇心を持って街と向き合うと、不思議な定食屋さんとか、ツッコミ待ちの看板がどんどん目に入ってくる。それを発見するのが楽しいんですよ。
どんな街にもそれぞれの魅力があるけれど、特に東京はいろんな時間軸が無数に積み重なっていて、道を一本入っただけで空気が一変したりします。麻布台のあたりなんて、少し入ったら街並が一気に古くなる。新しいところと古いところが、パラレルワールドのように同じ時の中で共存していている感じ。その混在を徒歩で跨いでいくときに、脳髄がぶるっと震えるような面白さを感じます。
最近は、その街の空気、街の“キャラ”みたいなものがわかるようになってきた気がします。地続きだからほかの街と明確な区切りがあるわけじゃないけれど、たとえば代々木公園のあたりは、”明確な朝のある街”。早い時間から開いているコーヒー屋さんが多かったり、公園でランニングしている人がいて活気があったり。東京をひとことで語るのが難しいのは、個性的なキャラクターの集合体だからなのかもしれません。銀座や自由が丘などおしゃれな街も、自然が豊富な東村山も同じ東京でしょう?
雑誌の連載でも、特集で取り上げなさそうな街をあえて歩くようにしているんです。そういうところにこそ新しい発見があるんですよね。最近だと、気になっているのは千歳船橋。個人的に“21世紀の美大”と思っている農大があったり、浅草にあったいいカレー屋さんが移転してきたり。のどかな街の中に尖ったお店がぽつぽつあって、個人的に注目しています。……個人的すぎますか?(笑)
1991年福岡県出身。小学生から食日記をつけ続けるごはん狂(pure foodie)。自身の食生活を綴るブログが話題となり、現在では雑誌『hanako』『SPRING』等での連載執筆や、新宿伊勢丹でのエキシビジョンなど幅広く活動。著書に『生まれた時からアルデンテ』(平凡社)がある。instagram:@sakikohirano