社食堂ではたらく私たちのワークスタイル
講師:谷尻誠 + 吉田愛(サポーズデザインオフィス)
オフィス「会社の食堂」と飲食店「社会の食堂」を掛け合わせたユニークなスペース『社食堂』を2017年4月にオープンしたサポーズデザインオフィスの谷尻誠さんと吉田愛さんのお二人に、社会の健康をデザインすることを軸にオープンした「社食堂」からみえる新しい働き方についてたっぷりお話をうかがいます。
建築だけに留まらず、インテリアから街づくりまで、多岐にわたる斬新な作品を生み出し続けている建築設計事務所「サポーズデザインオフィス」。8月30日(水)、代表を務める谷尻誠さんと吉田愛さんが「働き方」をテーマにCLASS ROOMで講師を務めます。きっかけとなったのは、今年の4月、サポーズデザインオフィスが「社員の食堂」と「社会の食堂」を組み合わせた「社食堂」をオープンしたこと。講義に先立って行った今回のインタビューでは、会社というプライベートな場でもあり、街に開かれたパブリックな場でもある新しい飲食業態から、これからの働き方のヒントを語っていただきました。
谷尻誠さん(以下、谷尻):「社食堂」がオープンしてから、すごく取材が多いんですよ。実は今日だけでもう3回目。もう、落語みたいに定型の話にしちゃおうかなっていうくらい(笑)。
吉田愛さん(以下、吉田):いろんなところでお話していますからね(笑)。じゃあ、まず私たちがどうして「社食堂」という場所をつくったかというところから……。
谷尻:この路地の写真をよくお見せするんですが、道路はパブリックな場所、住宅はプライベートな場所ですよね。では、その間にある植木鉢があるスペースはなんでしょうか? 僕らは、こういう何かと何かの「間」がすごく魅力的だなと思って設計しているんです。自然と人工の間とか、外と中の間とか、アトリエ事務所と組織事務所の間とか、建築家とインテリアデザイナーの間とか。いつもその「間」を取りに行って設計している感じがあるんですね。
吉田:社食堂をつくったのは、建築設計事務所ということもあって働く時間が長く、食事が不規則になったりコンビニで済ませてしまいがちだったので、事務所の移転を機にスタッフが健康的な食事を摂れる環境をと考えたのがきっかけです。その食堂とオフィスをつくるときにも、私たちとしては「間」を考える必要があって。
谷尻:パブリックとプライベートが混在している、路地の植木鉢と同じようなあり方があるんじゃないかって。それって、実際はどういうことなのかということを、リアルな形にしたのが社食堂なんです。たとえるなら、落語の扇子。扇子って、演目によってそばをすする箸になったり、キセルになったりしますよね。それと一緒で、この場所はスタッフが仕事をしていればオフィスで、みんながごはんを食べていれば食堂、コーヒーを飲みながらミーティングをしたら会議室になる。空間の用途自体が移ろっていくような感じなんです。
吉田:昔は、オフィスはこう、家はこう、と明確に分かれていなかったのが、いつのまにかセグメントされていって。何か便利にするために分けていたものが、一周回って、実はその制約で不便になっているところがあるような気がするんですよね。実際、社食堂がオープンしてから、クライアントや業者の方だけでなく、知り合いや近所の方など、仕事中には会わなかった人たちとの出会いが増えましたし。
谷尻:それに、自分たちの仕事の姿勢を多くの人に見てもらえるじゃないですか。特に建築事務所は敷居が高いと思われがちなので、この場所自体がポートフォリオになっているということも意識しています。
吉田:社食堂では、BACHの幅允孝さんが選書した本を揃えたり、写真家の若木信吾さんのギャラリーを併設していたりもしていて。いろいろな面で、建築を好きになるきっかけのひとつになったらいいなと思っています。
谷尻:以前、福山雅治さんがラジオで自分のことを“エロ礼儀正しい”なんて言っていたんですけれど(笑)、そういう程よい感じが建築家にも必要だと思っていて。建築家って、本来、社会を考える仕事のはずなのに、近寄りがたさがあって、社会とすごく離れている印象がある。大学やアトリエを経由せずに設計の仕事をしている僕らこそ、みんなが建築を好きになってくれるようなことをやるべきじゃないかなと思ったんです。
谷尻:建築家として、基本的に僕らの使命は新しい価値をつくること。社食堂を見てプライベートとパブリックのあり方がもっとこうなったほうがいいよねと思ってもらえればいい。それは建築の価値を伝えていくこととなんら変わらないので。
吉田:結局は全部そうですね。普通の事務所の社食が一般の人も使える食堂であるということの新しさもあるし。今までもずっと、新しい価値観を知ってもらうということだけは貫いてきたつもりなんです。
谷尻:全部デザインなんです。すごく単純なことで、設計もクリエイティブにやる、不動産もクリエイティブにやる、飲食もクリエイティブにやる、コミュニケーションもクリエイティブにやる。
吉田:社食堂以外にもいろいろなことをやっていますが、たとえば広島の本社では「THINK」というトークプロジェクトをやっています。私たちがインスパイアされた人を事務所のスタッフにも会わせたい、せっかくなら広島の街の人たちにも聞いてほしいと思って始めたんですよね。
谷尻:社食堂もスタッフのための環境を整えることがスタートですが、結果的にこうやって取材がたくさん来ているということは、内部のためにやったことが外に伝わって、結果的にブランディングになっているということ。内と外は常に表裏一体で、その間を行ったり来たりしている。デザインの手法は全部同じです(笑)。
吉田:プライベートと仕事という意味でも、私たち自身は、絶えずずっと仕事をしているし、絶えずプライベートな感じです。どこかに遊びに行っていても、目に付くことは全部、仕事に反映できると思っているから。
谷尻:分けるという感覚自体がもはやないよね。たとえば、旅行ってプライベートなものだって思いますよね。でも、旅行すること自体が、仕事にも役立つ経験にもなる。どっちがどっちという概念はなくて、だから「間」なんだと思うんです。
吉田:旅行に行っている間はすごく楽しいし、何気なく写真を撮ったりしているけれども、やっぱり帰ってきて設計の仕事をしているときには、そこでの経験がすごく役に立ちます。人生経験全部が、仕事につながるんじゃないかと思いますね。
SUPPOSE DESIGN OFFICE(サポーズデザインオフィス)は、谷尻誠、吉田愛率いる建築設計事務所。住宅、商業空間、会場構成、ランドスケープ、プロダクト、インスタレーションなど、仕事の範囲は多岐にわたる。広島・東京の2ヵ所を拠点とし、インテリアから住宅、複合施設など国内外合わせ多数のプロジェクトが進行中。公共施設や海運倉庫を改修した複合施設 ONOMICHI U2をオープンさせるなど地域と人の関わりをつくる仕事なども手がける。2017年4月、東京代々木上原に「社食堂」を開業。
社食堂:https://www.facebook.com/shashokudo/