アンティークのある暮らし
フランスのアンティーク家具やアート作品を中心に扱い、都内に数々の店舗を展開しているインテリアショップ「H.P.DECO」。今回はバイヤーを担当している丹地宏太郎さんが、アンティークの魅力や、インテリアに取り入れるポイントを教えてくれました。
アンティークショップで新しい価値観の提案を
まずは1900年代から現在に至るまでのアンティークの流行の移り変わりから。アール・ヌーヴォー、アール・デコ、ミッドセンチュリーを経てポストモダン……。時代によってデザインは大きく変化していきますが、そもそも「アンティーク」とはどれくらい古いものを指すのでしょう?
基本的には100年経ったものをアンティークといいます。木製の家具では200年も経っていればものすごく古いですし、金属製だともっと前の時代のものも残っていたりしますね。人によっては単純に「古いもの」という意味で使っている場合もありますし、100年経っていなくてもかっこいいものはたくさんあります。私のお店でも、100年という定義にはあまりこだわらず、幅広い年代の家具を扱っています。
年代だけでなく、国によってもアンティーク家具のデザインはさまざま。オランダやドイツの家具は重厚なものが多く、日本の部屋にはあまり馴染まないのだそう。一方、日本で人気があるのは主にイギリスやフランスのもの。
ただ、フランスでアンティークを買うと、けっこう値段が高いんです。だから僕たちのような業者の中にはベルギーで買い付けをする人も多いですね。ベルギーとフランスって、大阪と東京くらいの距離だし、デザイン的にもよく似ているんですよ。
そして、かつては一部の人の高級な趣味と捉えられていたアンティークの世界は、ここ20年ほどで変わりつつある、と丹地さん。最先端のファッションとアンティークを組み合わせて、今の時代に溶け込む提案をするお店が増えてきているのだとか。
ニューヨークのエースホテルは、古いホテルをリノベーションして、古い家具を使ってすごくかっこいい空間をつくっていますし、パリの陶器ブランド、アスティエ・ド・ヴィラットは、アンティークの美しさに今のテイストを加えたプロダクトを生み出している。古いものをセレクトし、ディスプレイや内装にもこだわって、新しい組み合わせを提案するようなお店が多くなっているんです。価値観がどんどん変わってきていて、大量生産のものよりも、一点一点違うもののよさが認められてきていることを、すごく感じます。
古いものを当たり前のように受け入れる
買い付けで世界中を巡り、たくさんのお店からインスピレーションを受けているという丹地さん。アンティークを取り入れたさまざまなディスプレイやスタイリングを、次々に紹介してくれました。中でも注目しているのは、テイストの違うものをあえて組み合わせる「ミスマッチ感」を楽しむコーディネート。
これはまったく違う年代、違うデザインの椅子を組み合わせているんですけど、色を合わせることで、統一感と面白さを出している例です。おそらく、そんなに高価なものではないし、それほど人気のないデザインのアイテム。それを、色を変えたりすることで蘇らせているんです。こんな、ちょっとテイストの違うものをあえて組み合わせるようなコーディネートが、今面白いのかなと思います。
実際アンティークショップでも、古い塗装を剥がして色合いを変えて販売することはよくあるそう。ドアをミラーに加工したり、スプーンをディスプレイに使ってみたり、リメイクをして本来とは違う使い方をしてみるのもアンティークの楽しみ方のひとつ。
1個1個全部が違うアンティークの奥深さ
アンティークの楽しみ方はさまざま。だけど、値段がわかりにくかったり、知識がなかったりと、敷居が高く感じてしまうのも事実。丹地さんは、「たとえ買わなくても、お店の人と親しくなって話を聞くだけでも面白い」と言います。というのも、アンティーク家具は一つひとつに深い話が隠れているから。
アンティークって、知れば知るほど面白くなる。基本的にアンティークを扱っている人って、モノが好きで、それについて話したいと思ってるはずなんです。それに話を聞くと、モノの見方が全然変わることもよくあります。最初は「これは何に使うものですか?」と質問して、どんどん話を聞いてみると、それだけですごく楽しめるんじゃないでしょうか。そもそもプロでもすべてを知っている人はいませんから、最初は「わからない」でいいんです。
ちなみに、アンティーク家具でよく売れるのは、大きさも値段も手ごろな「椅子」。もうひとつ、丹地さんがおすすめするのは「ダイニングテーブル」。その理由は、ダイニングは部屋の中で一番長い時間を過ごす場所で、直接手を触れることも多いから。たとえば、無機質な部屋の中にアンティークをひとつ入れると、とてもいいアクセントになるのだそうです。
大量生産された家具は買いやすいけれど、しばらくしたら飽きちゃうとか、引っ越すから捨てちゃうみたいなことも起こりうる。アンティークに興味を持つと、歴史的なところに関心を持ったりすることもあるでしょうし、モノに対する考え方とか意識も変わってくるんじゃないかなと思います。
そのほか、「買い付けのコツ」や「おすすめの蚤の市」「アンティークの流行」など、みなさんからさまざまな質問が。最後は、CLASSROOM恒例の質問「丹地さんにとって、よい暮らしとは?」。
古いものに向き合っていると、当時の技術的なことや、今まで残ってきたこと自体にすごく惹かれます。アンティークに触れていると、100年前の暮らしもいいななんて思いますが、いろいろ調べてみると、今のほうがずっといいこともあります。暮らしにアンティークを取り入れることは、どういう暮らしをするかを考える「きっかけ」になってくれるんじゃないでしょうか。
丹地宏太郎(H.P.DECO)
フランスを中心とするヨーロッパの新しいクリエーションと、スタイルや年代にとらわれずにセレクトしたユーズド家具、アート作品などを取り揃えるインテリアショップでバイヤーを担当。H.P.DECOでは、「アート感のある暮らし」をテーマに“家で過ごす”というもうひとつの時間のためのインテリアを提案している。
【H.P.DECO】http://www.hpdeco.com/