2016.6.22
Report 1/3

アナログレコード入門

講師:青野賢一(ビームス創造研究所クリエイティブディレクター/BEAMS RECORDSディレクター)

レコードに針を置き、アンプで信号を増幅し、スピーカーで音を出す。「手間をかけて、音を楽しむ」のがアナログレコードのいいところ。ビームス創造研究所クリエイティブディレクターの青野賢一さんに、ご自身の体験談も交えながら、お話をうかがいました。

外では聴けないからこそ、「家」を意識させてくれる

私たちのよく知る「レコード(=LP)」は1948年、アメリカのコロンビア社から発売されました。その後、ステレオが導入され、日本では1951年に洋盤が登場。その後、ステレオ規格が導入されます。「レコードの大きな特徴のひとつ」と青野さんが語るのが、戦後まもなくから今までフォーマットが変わっていないところ。

1950年代につくられたレコードが2016年になっても聴けるのは、なかなか面白いところです。パソコンのデータだと、バージョンが古いものは開けなかったりしますよね。でもレコードはメディアの形や規格が変わっていないので、プレイヤーの仕組みも昔通り。そういう意味では、レコードはアーカイブ性の高いメディアといえるのではないでしょうか。

特徴の2つめに挙げたのは、ジャケットの大きさ。このサイズ感を生かしてギミックが施されたり、迫力あるアートワークを楽しめます。ちなみに、青野さんが手にしている山口百恵さんの「COSMOS(宇宙)」(写真上)のジャケットを手がけたのは横尾忠則さん。そして「今回、レコードについて考え直す中で一番の肝だと思い至った」のは、「持ち運んで聴けないこと」でした。

今はスマホを使って歩きながらできることも多く、外と内(家)の境界がすごく曖昧になっているなと思うんです。レコードは歩きながら聴けないからこそ、「家」を意識させてくれます。家の中の生活を意識すれば、どんな音楽の聴き方が自分にフィットするのかがわかるし、自分に合った再生装置も見えてくる。もちろん、心地よい暮らしづくりにもつながると思います。古い時代のオーディオ装置には、インテリアに調和するような家具調のものも多かったりするんですよ。

レコードを聴くためには、説明するまでもなく、針で信号を読み取るためのプレイヤーと、その信号を増幅するアンプ、音を流すためのスピーカーが必要。専門店だけでなく、家電量販店にも意外とたくさん置いてあるし、CDショップでもよくポータブルプレーヤーが売られています。「1万円台からあるので、よろしければ当店でぜひ(笑)」と青野さん。

ファストではない、「実感」のある生活が望まれている

講義の最後に話してくれたのは、「レコード人気再燃の背景」について。リーマン・ショック以降、価値観が変化したことで、効率化とはまた異なるベクトル、たとえば手の届く範囲のことを最大限に楽しもうとするスタンスが生まれたというのが、青野さんの考え。

今、世の中の“ファスト風土”化へのカウンターとして、「実感」のある生活が望まれています。コーヒーを飲むのでも、いちいち豆を挽いて淹れるように、多くの人が手間をかけることに楽しみを見いだしている。レコードを楽しむには、いい時代だなと思いますね。過去の作品が潤沢に揃っていて、「知らない過去は新しいもの」という感覚で古いものと出会える機会がたくさんあるし、最近はリリースも増えてきていて、新譜の選びがいもありますから。

瞬間の出会いを大切に。日常からこぼれ落ちるものをすくう楽しさ

ここからは会場のみなさんから寄せられた、質問への回答をご紹介。まずは、青野さんのレコードを聴くスタイルについて。その答えは意外にも……。

僕の家は基本的に無音です。仕事でもなんでもそうなんですけど、音楽を流していると作業に手がつかなくなっちゃうので(笑)。レコードをかけるときは、腰を据えて聴きますね。ちなみにスピーカーは、80年代のイギリスのメーカーのものを使っています。一般的にアメリカのスピーカーはカラッとしていて、ヨーロッパのものは少し落ち着いた印象ですが、うちのイギリス製のものはバランスよく鳴ります。スピーカー選びは、聴く音楽との相性も重要ですね。

次に、レコードの買い方について。一般的にはなかなか目にすることがないレコードの情報ですが、青野さんはどのように選んでいるのでしょうか?

友人のやっているレコードショップに行くと勝手にすすめてくれるので、それを買います(笑)。初めて買うなら、あまり大きくないお店で「こんな感じのがほしいんだけど、どれがいいですか?」と聞くのが一番ですね。それから、「今日は5000円!」と決めてジャケ買いするのもおすすめ。中古屋さんだと、少ない予算でも楽しく買い物ができますよ。

最後はクラスルームお約束の質問で締めくくり。青野さんにとって「良い暮らし」とは?

大切にしているのは、情報を取り込みすぎないことでしょうか。それから、自分の「ものさし」を持つこと。レコードでもなんでも、僕は事前に買うものを決めないようにしているんですが、それはお店での瞬間の出会いを大切にしているから。目標をひとつに定めてしまうと、他のものが目に入らなくなっちゃう。そういう“こぼれ落ちるもの”をすくっていくことに楽しさを見いだしています。

>>交流会の様子はこちら

青野賢一(ビームス創造研究所クリエイティブディレクター/BEAMS RECORDSディレクター)

1968年生まれ、東京都出身。販売職、プレス職などを経て、2010年より個人のソフトを主に社外のクライアントワークに生かす「ビームス創造研究所」に所属。執筆、他企業のPRディレクションやイベントの企画運営、選曲など、多岐にわたる仕事を通じて、ファッションと音楽、文学、アートを繋げる仕事を手がける。また1999年にスタートしたBEAMSの音楽部門〈BEAMS RECORDS〉のディレクターも担当している。

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