2016.7.27
Report 1/3

台湾学

講師:田中佑典(LIP代表)

月に一度は台湾を訪れ、日本と台湾をつなぐカルチャーマガジン『LIP 離譜』を発行する田中さん。そのほかイベント企画や旅行のコーディネート、互いの文化を学ぶ塾や文化をテーマにした語学教室「カルチャーゴガク」の主宰など、その活動は多岐にわたります。そんな台湾を知り尽くした田中さんに、今までとは違う新しい台湾の楽しみ方を教えてもらいました。

台湾の魅力は「半分日本で半分アジア」

大学生時代、アジアの国が好きでよく旅をしていた田中さんが、とくに気になったのは、日本との関係が強く感じられた台湾でした。何度も足を運ぶようになった2010年頃、日本や欧米の文化をインプットするフェーズから、独自のカルチャーを発信する方向へ変わりはじめた台湾に魅了されていったそう。そして、一方通行ではなく共同でカルチャーをつくっていきたいという思いから、「台日系カルチャー」をスローガンにした『LIP 離譜』を創刊しました。

面白かったのが、日本との共通点と相違点。僕が台湾に行き始めた頃は、向こうでもちょうど星野源やハナレグミ、羊毛とおはななどがフィーチャ―されていました。草食系男子も流行っていたりして、ニュアンスは違うけれど日本のよう。でも町にはいかにもアジアっぽい食堂が並んでいて、スープをビニール袋に入れてテイクアウトしていたり(笑)。半分日本で、半分アジア、そんなバランスが心地良く感じられて、この2つの国をつなげアジアの新しいカルチャーとして発信していきたいって思ったんです。

ライフスタイルからカルチャーが生まれる

講義のスタートは“三大カルチャースポット”の紹介から。田中さんが挙げた「華山1914文創園区」「松山文創園区」「好,丘」は、どれも古い建物や街並みを生かしてつくられたカルチャーの中心地、リノベーションされたオシャレなショップやマーケットが並びます。台湾人はこうした空間づくりが上手、でも中身を考えるのは空間をつくってから、というように日本とは発想が逆なのが面白い、と田中さん。そのキーワードは「見切り発進」。

台湾では、「衣食住」ではなく「衣食住行」と考えます。「行」は、移動とか交通という意味の概念。その精神は行動にも表れていて、立ち止まらずにまずやっちゃうという気質がある。以前、カフェで「CDを出したから聴いて」と声をかけられて、見てみたらジャケットがものすごくおしゃれ。メジャーなミュージシャンなのかなと思ったら駆け出しで、聴いたらめちゃくちゃヘタクソ(笑)。日本人だと音楽のクオリティを高めてからと考えると思うんだけど、台湾の人はまず出しちゃう。実は『LIP』というタイトルももともとの意味は「LIP SERVICE」、口からでまかせという意味(笑)。何もないところから「見切り発進」で立ち上げたので、その感覚がよくわかるし、それこそが僕が台湾に魅了された最大のポイントです。

続いてライフスタイルとカルチャーの関係について。夜の遊びといえば日本ではお酒を飲むことが多いですが、台湾の若者はカフェでお酒を飲まずにおしゃべりが基本。そのためカフェカルチャーが発達し、「文青(ウェンチン)」と呼ばれる若者も登場しました。もともとは「文学青年」を指す言葉ですが、現代の文青はおしゃれ。村上春樹好きで常にカメラを持ち、黒縁メガネにトートバッグ、服は無印良品……とファッション的な要素が強いのが特徴です。

そんな文青の憧れ的な存在がクリエイターユニット「男子休日委員会」。京都の左京区を紹介する本で一躍有名になった3人組で、無印良品とコラボしてトラベルグッズを展示したり、旅の中の生活をテーマにAirbnbとコラボしていたり。メンバーのひとりは、お弁当をフェイスブックにあげていてそれがすごく人気。ライフスタイルを提案していく中で、カルチャーをつくっているひとつの例です。

最近は、台北に出ていた人たちが地元に戻り、ローカルの魅力を発信する動きも盛り上がっています。日本統治時代の眼科を改装した台中のパイナップルケーキ店「宮原眼科」、外国人住宅をリノベーションしたカフェ&民宿の「Forro Cafe」、台湾北東部・宜蘭の漁港町/南方澳・にあるリノベーションされた真っ白なホテル「NEW DAYS」など、地方にも魅力的なスポットはたくさん。

台湾のおすすめグルメ、あれこれ

ここからは、台湾の「食」について。田中さんが教えてくれたのは、たくさんの知られざるグルメスポット。特におすすめはB級グルメで、イチ押しは「民生嘉義米糕」の米糕。茶色一色の地味な見た目のもち米ご飯で、日本の友人を連れていくとみんな最初は反応が悪いけれど、口に入れた途端「これはヤバい!」と顔がほころぶのだそう。麺類では「福大山東蒸餃大王」のジャージャー麺と蒸し餃子のセット。そのほか24時間営業の老舗「四鄉五島」店内では、いつでも老若男女が麻醬麵(ごま麺)をすすっています。ちなみに、時間がないときにおすすめの「ゴールデンルート」があるそうで……。

まず台北市の古亭駅にある小籠包屋さん「蘇杭点心店」へ。ここはチャーハンもおいしいけれど我慢、小籠包だけ食べてください。そこから1キロくらい歩いて「金峰魯肉飯」で魯肉飯を。これが台湾のグルメを一気に食べられる、僕のいつものコースです。

また台湾グルメといえば欠かせないのが夜市。大規模な「士林夜市」が有名ですが、おすすめはちょっとはずれた「景美夜市」。上に氷をかけた熱々の「豆花」に「香腸」と呼ばれる台湾式ソーセージ、焼き小龍包など、ここの夜市の食べ物は普通の夜市に比べて、ズバリ「安くて、おいしい」。
さらに、最後のトピックとして、おすすめのお土産を紹介してくれました。

自分用なら、ぜひ台湾の雑貨を生活のエッセンスとして取り入れてほしい。僕は台湾の箸立てをペン立てに使っています。人にあげるなら、鼻の下に塗るとスースーして目が覚める「ハッカ棒」がおすすめ。他にも揚げ物にかけると台湾風味になるスパイスや、貼るだけでニキビが治るシール「痘痘貼」、台湾のコンビニに必ず置いてある茶葉の煮玉子がつくれる茶葉パック。どれも台湾の生活を思い返せる品々です。定番アイテムもいいけれど、こだわりのお土産を探してみるのも楽しいですよ。

そして、CLASS ROOM定番の「良い暮らしとは?」という質問には、こんな答えが。

「どうして台湾に住まないの?」とよく聞かれます。でも、住んでしまうと全部が普通に見えてしまう気がして。日本で行きたい気持ちを高めるからアンテナを張っていられるし、いろんなものが吸収できる。1ヶ月に一度、自分の暮らしをアップデートしに行く。そういう、時折ふと訪れる「マレビト」(外部からの来訪者のこと)としての暮らしが、僕にとって心地いいんです。

>>交流会の様子はこちら

田中佑典(LIP代表)

1986年生まれ。福井県福井市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒業。大学時代に自身で立ち上げたカルチャーマガジン『LIP」を、現在は日本と台湾をつなぐカルチャーマガジンとして刊行。アジアにおける今後の台湾の重要性に着目し、日本と台湾を行き来しながら、日台間での企画やプロデュース、執筆、クリエイティブサポートを行う。語学教室「カルチャーゴガク」主宰。著書に『LIP的台湾案内』(リトルモア)。
【離譜(LIP)】http://lipbox.p2.weblife.me/

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