わたしの古着の楽しみ方
1980年代に古着ファッションを牽引したショップ「DEPT」。その創業者である父・永井誠治さんのあとを継いでショップを再スタートさせたeriさんに「古着の楽しみ方」を教えてもらいました。eriさんはもともと、学生時代からビンテージファッションブランドを手がけるなど、古着に携わってきた経歴の持ち主。そんなeriさんが語る、古着の魅力とは?
大事にされてきたことを感じれば、もっと長く着たくなる
2011年、多くのファンに惜しまれつつ閉店したDEPTをeriさんが再スタートさせたのは、その4年後のこと。自身のファッションブランド「VTOPIA」や「mother」を手がける中、10年目を迎えた節目に、子どもの頃から好きだったという父親の店「DEPT」を引き継ぐことを決めたのだそう。ただし、その内容はまったく異なる、とeriさんは言います。
父親がショップを始めたのは70年代後半から。時代背景も違いますし、私がやるべきことは今の時代にフィットするものにすることだと思っていました。ただ “反骨精神”という彼のスピリットを私なりに受け継いでいると思うんです。彼と一緒に買い付けに行ったことがあるんですが、「eriがピックアップしたものをパパがわかるようじゃ駄目だよ」と言われたんです。実はまったく同じこと考えていて。すごく短い言葉だけど、そこに全部入っているというか。
古着を扱う中で、新しい何かを構築できたらと思っていたというeriさん。新しいDEPTの特徴は、買い付けてからお客さんの手に渡るまで、補修はもとより、日本人の体型に合わせてサイズ感を適度に直し、プロの手でクリーニングやプレスまでしていること。そして、コーディネートも含めて提案すること。
きれいにして店頭に並べたらそれ以前のことは見えなくなりますけど、きっと、その古着がどれだけ大事にされてきたのかという背景は直感的に感じとれると思うんです。そして店頭で見て「あ、これかわいい!」と思った気持ちは忘れない。なんとなく買った服と、気持ちを込めて買った服では、寿命が変わってくるはずなんです。この世で1着しかないかもしれない古着は、長く着られてほしい。だからこそ、目に見えない部分でもちゃんとしてあげたいんです。
そんなeriさんの買い付けのスタンスは、“縦横無尽”。いかにも古着というものだけではなく、「これも古着なんだ!」という驚きのある提案していきたいと考えているそうです。
70年代のここのブランドならこれがいいとか、ヨーロッパの古着はこれが売れるとか、そういうことにはまったく興味がなくて。そのへんにあるようなTシャツでも、ビクトリア時代のブラウスでも、私にとっては価値は同じ。カテゴライズしないで、フラットな目線で古着を編集できたらいいなと思っているので、年代やブランドにこだわらず、縦横無尽にピックアップしています。買い付けって、こういうタイプの子がこれを着てたらめっちゃイケてるなとか、そういう妄想の先にあったりするんですよ。
一点ものでもなく大量生産でもない、古着の新しい形
ここからは、eriさんが日々着ている服の記録写真を見ながら、コーディネートを解説。まずは最近は見つけづらくなったというデッドストックの古着から。
これは70年代のセットアップですね。襟なしのトップスとショートパンツで、本当は襟付きのライトジャケットがセットになった3ピースなんですけど。これだけ揃った状態で出てきたのは珍しいし、チェックの感じもすごく今っぽくて面白い。見つけてすぐ、あるだけ買い込みました(笑)。ちなみに自分の服も買い付けたものの中から買うことがほとんどです。
こちらは80年代のシルクのブラウスを加工したもの。80年代のブラウスは、比較的、市場に数が出やすいそうで、ある程度の量が確保できるものには、カットしたり染色したりと手を加えて、“半オリジナル”として提供しているのだそうです。
もとはオーバーサイズの襟付きのシャツ。それをオフショルダーにしました。こういう、同じ古着を一定量揃えて手を加えるのは、一点ものの古着とはまた違った、新しい面白さがあります。いわゆるビンテージといわれるような古着って値段も高くなりがちだし、世の中に100個しかなかったら100人が買ったらそれで終わりじゃないですか。それはそれでいいとは思うけど、それよりもこうして新しい価値を加えていくほうが面白いし、意義を感じるんですよ。
現代の服が、いずれ古着になったときのために
続いて、参加者のみなさんからの質疑応答の時間。「コーディネートはどう決めている?」「学生時代にやっておいたほうがいいことは?」などなど、さまざまな質問に次々と答えていくeriさん。中でも熱く語っていたのが、現代の服の状況について。
買い付けに行くと、最近つくられたばかりのファストファッションの洋服に出会うことがあります。でも、ほんの数年前につくられたはずなのにとても長く着られる状態じゃなくて、古着として楽しめるような服はすごく少ない。このままだと、“2010年代の古着”自体がなくなってしまいそうで。でも、今を生きるひとたちが70年代、80年代の古着を通して「服は、大事にすれば、こんなにかわいくきれいに着られるんだ」と思ってくれれば、惰性や流行だけで服を選ぶ人が少なくなって、つくる側の意識も変わるかもしれない。20年も30年も着られる服がつくられて、これを孫に受け継がせようなんて言える状況になったら、一番うれしいな。
そして最後の質問は、CLASS ROOM恒例の「eriさんにとって、よい暮らしとは?」。
一言で言えば「意図的であること」。偶発的なことは放っておいても起こりますから、生きるうえで目標を持って進むことがすごく大事だなと思っています。「私はこうあるべき」っていう指針のようなものを持って、日々の取捨選択をマネジメントできている。それが、私にとってのいい暮らしだと思っています。
eri(DEPT)
1983年ニューヨーク生まれ、幼少期に東京へ。学生時代からビンテージワンオフブランド「CHICO」を手がけ、2004年にファッションブランド「mother」、2012年よりジュエリーブランド「VTOPIA」をスタート。2015年に自身の父が80年代にオープンし休止していたビンテージ・ユーズドショップ「DEPT」を再スタートさせ、現在、原宿と中目黒に店舗を構える。2016年の冬からは、新たにテーブルウェアブランド「TOWA CERAMICS」 をスタート。