“ゆる煎茶”を楽しもう
作法にとらわれず、その日その時の味を楽しむ「ゆる煎茶」をモットーに活動をする日本茶アーティスト、茂木雅世さん。今回の講義は「ゆる煎茶会」、茶器を使って参加者みんなでお茶を淹れるゆったりした時間のなか、茂木さんに現代のお茶の楽しみ方をお聞きしました。
お茶は、人を笑顔にするコミュニケーションツール
日本茶にまつわるワークショップやトークショーのほか、プロデュースやラジオ出演など幅広く活動している茂木さんの肩書は「日本茶アーティスト」。まずは活動を始めるきっかけを話してくれました。
母がお花の先生だったこともあり、小さい頃から日本茶に馴染みがありました。以前、別の仕事をしていて体調的にも精神的にも落ち込んでいたとき、自分の淹れたお茶を飲んで、あまりにおいしくて泣いてしまったんです。それをきっかけに日本茶の魅力を発信していきたいという気持ちが強くなって、8年ほど前からこの活動を始めました。日本茶にまつわることはなんでもできるように「日本茶アーティスト」と名乗っていますが、実はけっこう恥ずかしいんです(笑)。
全国各地で開催されている茂木さんのイベントは、チョコマシュマロと楽しむ日本茶や、お茶の味をイラストで表現するワークショップなど、日本茶に興味のない人でも気軽に参加できることを意識しています。それだけに、そもそも「急須」がどんな道具かを知らない人と出会うこともあるのだとか。
いつもはコーヒーを飲んでいるような人が、私のワークショップで日本茶と出会って、魅力に気付いてもらえたらいいなと思っています。私がワークショップやイベントで大事にしているのが「双方向」のコミュニケーション。というのも、オフィスでおいしいお茶が出て場がなごんだりする、そういうお茶を介して生まれる瞬間が大好きなんです。
今までにない、お茶の楽しみ方を提案
茶室や着物、和菓子など、日本茶には伝統的なものというイメージがつきものですが、茂木さんが掲げるのは「もっと自由に、ゆるくていいよ」というメッセージ。茂木さんが「自分がどういうふうにお茶を楽しみたいか」を考えたとき、新しい楽しみ方があったといいます。
もっと自由に、ゆるい楽しみ方もあると思うんです。もちろん着物を着て茶道をするのも好きですが、私が活動の中で行っているのは「暮らしの中で飲む煎茶」、日常のなかで気軽に楽しめるものとして提案していきたくて。お茶って、人の心をほどいてくれるものだとも思うので。急須などの道具もかわいいんです。作家さんに依頼して、オリジナル急須をつくったりもしていますね。
最近は、渋谷や新宿に新しくお店がオープンするなど日本茶ブームの兆しがあるそう。そんな中で、茂木さんが提案する楽しみ方をいくつか教えてもらいました。
室町時代にお茶の産地を当てる「闘茶」が流行していたのですが、その現代版、「利き茶NIGHT」。お茶の産地をすべて当てるまで会場を出られないというゲーム仕立てで、なかなか帰れない人もいて大変でした(笑)。もうひとつ「Tea on the Beach」も最近始めました。海辺で、急須で淹れたお茶を飲んでゆったりするというイベントです。日本茶は水出しでも淹れられるし、実はとても簡単なんですよ。
ひとつの茶葉を3種類の味わい方で楽しむ
ここからは、「お茶会」がスタート。山口県の「かりがね茶」を、熱湯、お水、冷ましたお湯の3種類の淹れ方で味わうことができます。まずは熱々の熱湯で淹れたお茶の味から。
かりがね茶は熱湯で淹れることもできて、玉露にも似たうま味と甘味が出ます。普段ペットボトルで飲んでいるお茶とはまったく違う味わいですね。急須で淹れるときのポイントは、最後の一滴まで絞りきること。すぐには止めないで、まだまだ! というところまで急須を傾けてみてください。
次は水で淹れたかりがね茶。急須に茶葉を淹れてお水を注げば、30分ほどでできあがり。今回は茂木さんが事前に淹れて冷蔵庫で冷やしていたものをいただきました。
低めの温度で淹れると、甘みやうま味、そしてリラックス効果のあるテアニンが強く出ます。リラックスしながら緊張感も保てるので、実は仕事中に飲むには一番いい飲み物かもしれません。最近は茶こし付きの「フィルターインボトル」もあって、オフィスで飲みやすくておしゃれなのでおすすめです。
最後は、少し冷ましたお湯。お湯を湯呑みに注いで、手で持っていられるくらいの温度で淹れていきます。
温度計で測って、茶葉もグラムで測ってという正確さを楽しむときもありますが、ゆるっと自分で淹れるときはそういうものを排除してみるのもいい。感覚で淹れてみて、もうちょっと甘いほうがいいと思ったらお湯の温度を下げたり、薄いなと思ったら茶葉の量を増やしたり、それくらいが気楽でいいですね。3種類で飲んでみましたが、皆さん、自分のベストな味は見つかりましたか?
CLASS ROOM定番の「茂木さんにとってよい暮らしとは?」という質問には、「一言で言うと、お茶を楽しめる暮らしです」との答えが。
忙しくて余裕がないと、わざわざお茶を淹れたりしないし、誰かに淹れてあげるのも疲れちゃいますよね。でもそういうときこそ、心の余裕が必要。自分と同じく疲れている人や悩んでいる人に、そっとお茶を淹れてあげたり、そういう行動が、ずっと記憶に残っていくと思うんです。
茂木雅世(日本茶アーティスト)
かたくるしくない、誰もが笑顔になっちゃうような「ゆる煎茶」をモットーに煎茶のこれからの在り方を模索・企画・発信する人。全国でお茶にまつわるイベントを企画・開催すること9年間。FMyokohama「NIPPONCHA茶CHA」DJ他、様々なメディアでお茶の魅力を発信しています。
Twitter:@ocharock