2017.11.22
Report 1/3

物語にあふれる私の暮らし

講師:前田エマ(モデル)

モデル、文筆、写真、ペインティング、朗読など、幅広い活動を行う前田エマさんを迎え、「物語」をテーマに講座を開催しました。話してくれたのは、さまざまな表現活動についての考え方や想いについて。そして講義の最後には、この日のためにセレクトしてくれた詩の朗読も。前田さんの世界観に包まれた講座の様子をどうぞ。

フィクションだからこそ“本当のこと”を届けられる

前田さんが幅広い活動を行うようになったのは、在学中に開催した、セルフポートレートなどを言葉とともに展示した個展。そのときには宮沢賢治の詩を読んだそうです。会場を訪れた雑誌『spoon.』の編集者や、ファッションブランド「FURFUR」の関係者の目に止まったことで、モデルや朗読のパフォーマンス、またエッセイの執筆などを行うようになりました。

文章を書くときは、たとえば「悲しい」という感情を伝えたいと思ったら、言葉で「悲しい」と書くのではなく、目に映った情景や心の風景をできるだけ丁寧に描写します。そのときに見た夕焼けとか、そのときそばにいた人の体温とか。そうすると読んだ人が自分の持っている風景と重ね合わせて、「悲しい」という感情に至ることができる可能性があるんです。中学生のときにBUMP OF CHICKENの歌詞を通してこのことを体験して、すごくびっくりして…。以来、私の文章は“バンプ方式”ですね(笑)。

あるとき『装苑』の編集者から、誌面の構成やスタイリングとともに文章を依頼された前田さん。エッセイを書こうと取り組み始めたところ、事実を書こうとすればするほど、本当に伝えたいことから遠ざかる感覚に陥ったといいます。これが、前田さんが物語を書くきっかけに。

そのとき、小説という形なら本当に伝えたいことが書けるかもしれないと思ったんです。自分の体験って、文章で再現した時点である意味では嘘になる。だから、事実の向こう側にある本当のことを書きたいなら、物語の形で表現したほうがいいんじゃないかって。実際に書いてみると、エッセイを書くよりも、自分の素の部分がうじゃうじゃ出てくるから、すごく恥ずかしかった。同時に「本当のことに言葉が届く」という感覚が得られたことがうれしくて。

根底にあるのは、物語をつむぐこと

文章以外の活動、たとえば写真やペインティングでも、表現したいのは「物語」だと前田さんは言います。ウィーンでの留学体験をもとにした個展や、20歳を機に過去を振り返った展示などでは、文章はもちろん、絵や写真、さまざまな物をミックスして構成しました。

以前は文章は文章、絵は絵、写真は写真としてそれぞれやっていたけれど、私には「いい写真を見せたい」とか「いい絵を見せたい」という気持ちはまったくなくて。私が感じた空気感やふと抱いた疑問、そういう物語を表現したいという気持ちが強いことがわかってきました。

現在は『OZ magazine』の「夜のよりみち あしたのワンピース」、ウェブサイト「she is」の「前田エマ、服にあう」などの連載など幅広く活動している前田さん。高校、大学と学生時代は「表現したいものがない、私は根っからのアーティストじゃない」と悩んでいた時期もあったそう。

写真を撮りはじめた頃、世の中が言ういい写真、よくない写真がわからなくて。絵も、描きたいものがなかったんです。そんなときにホンマタカシさんの『たのしい写真」を読んだら「真似をして撮ってみましょう」と書いてあったり、美術家の森村泰昌さんの『まねぶ美術史」を読んだら、ずっと先人の真似をすることを自分なりに繰り返してきたということを知って、「オリジナリティがなくてもまずは真似してみよう!」と迷いがなくなりました。そんな感じで今に至ります。

悩み葛藤することで生まれるものがある

講義の後半は、会場のみなさんから寄せられたコメントに応えていきます。多かったのは、世界観の源を知りたいという質問。たとえば子どもの頃、テストで悪い点をとっても「逆にすごい!」と父親が面白がってくれたのも大きかったのだとか。

人がすでにしていることは、私がやる意味がないと思っています。昔から人と同じようにできないことがすごく多かったんですよ。だからか、私はどういうやり方ならできるかなって考える癖がついています。みんなと同じようにできないことで生まれる葛藤は、決してマイナスではなく、生み出すための源になっている気がするんです。

「おすすめの本は?」という質問に対しては、最近のイチオシは『羽生善治 闘う頭脳』、「好きなことを仕事にするのはどんな感覚ですか?」の質問には「大変だけど、自分の人生に対してワクワクできる」などなど。ほかにも多くの質問に回答してくれました。最後に「よい暮らしとは?」とCLASS ROOM恒例の質問には、「悩めること」との返答。その意味は……。

「よい暮らし」というと、悩みがなくて毎日をていねいに過ごすようなイメージがありますよね。でも「悩む」ということは、自分と世界との関わり方について一つひとつ向き合うことだと思っています。それを疎かにしてしまったらそもそも「暮らし」じゃないし、悩むことで生まれるものがある気がするんです。

最後には、前田さんが朗読を披露してくれました。今回のために選んだのは、寺山修司の『少女詩集』から、宝石についての3編「ガーネット」「真珠」「ダイヤモンド」。「寺山修司はアングラな演劇のイメージが強くて、こんなに優しくてかわいらしい、女の子のために書いたような詩をたくさん残してることを知らなかったんです」と前田さん。その柔らかな声の余韻を残したまま、講座が締めくくられました。

>>交流会の様子はこちら

前田エマ(モデル)

1992年神奈川県うまれ。2015年春、東京造形大学を卒業。オーストリア ウィーン芸術アカデミーに留学経験を持ち、在学中から、モデル、エッセイ、写真、ペインティング、朗読、ナレーションなど、その分野にとらわれない活動が注目を集める。芸術祭やファッションショーなどでモデルとして、朗読者として参加、また自身の個展を開くなど幅広く活動。現在、雑誌『OZ magazine』・女性の多様な生き方を探るウェブマガジン She isにて「服にあう」連載中。
[連載]She is:https://sheishere.jp/hottopic/201709-emmamaeda/

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