2019.10.23
Report 1/3

自分の価値観を磨くモノ選び

講師:引田舞(CIRCUSディレクター)

10月は「モノ選びで大切にしていること」を学ぶ講座でした。講師は、新木場にあるショップやカフェ、ギャラリーなどの複合施設「CASICA(カシカ)」にて、古家具の買い付けから店内のディスプレイまで、店舗のディレクションを手がける引田舞さん。夫・鈴木善雄さんと「CIRCUS」を主宰し、日々モノ選びと向き合う引田さんの価値観が磨かれたポイントをレポートします。

したい暮らしを大切にするモノ選び

引田舞さんは、夫・鈴木善雄さんとともに新木場の「CASICA」など、空間設計から買い付けまでトータルにプロデュースを行っています。時代や有名無名にカテゴライズされないユニークなモノ選びがCIRCUSの魅力となっています。

その価値観は自宅で使うモノ選びにも投影されているようです。

キッチンには日本の古家具を使っています。たとえば日常的に正座をしていた暮らしの頃につくられた棚だったら、1番下にある引き出しはそのままだと使いにくい。でも高さのあるところに置いてあげると立ったままでも取り出しやすく使いやすくなります。昔の家具も、現代の暮らしにどうやって落とし込むのか考えることで、新しい使い方や見せ方が発見できるのかなと思います。

自分の“好き”が集まった自宅は、いわば家族だけの聖域。ミニマリストや断捨離など、いろんな考え方を見聞きすることができる時代でも、「私はどんな風に暮らしたいのか」を一番に考えて、引田さんは居心地の良い姿を探っているそうです。大切にしていることは、新しいモノを向かい入れる瞬間なのだとか。

衝動的に出会うモノももちろんありますが、お買い物をする時に「本当に必要かどうか?」と考えるようにしています。「これだ」っていうモノが見つかるまでは決して買いません。たとえばソファがない時に、そのまま暮らし続けるのは不便かもしれません。でも妥協せずに探していれば、出会うタイミングも不思議とやってくると思います。

年齢を重ねることは価値観の幹をつくる

「これだ」と感じる基準は、どのように磨いているのでしょう? 引田さんの場合、その時々で夫婦の興味のある場所や人を巡りながら、モノ選びの引き出しを増やしているそうです。

今、一番魅かれるのは博物館。ガラスケースのディスプレイを見ながら、「ガラスと真鍮の組み合わせってやっぱりいいよね」とか、アイデアを拾ったりしています。

ともに暮らす人とも価値観を認め合いながら、「私」を大切に育む引田さん。その「私」が好む傾向は、月日を重ねるごとに磨かれていくものでしょうか?

年齢を重ねていくと、10年前の自分よりも幹はしっかりしてくるというか。もちろん、いろんな影響を受けて好きは変わっていくから、来年は何を好きかもわからないし、好きだったものが変わっちゃうこともあります。ただ、価値観が変わることを否定せずに、身を委ねて、「今の好き」に従うほうが私は正直になれるかな。その「今の好き」の中に幹ができていって、太くなった幹の範囲で今は右に転ぶのか左にそれるのかという感じだと思うんです。

私自身、買い物が好き。たぶん、断捨離ができているわけではないだろうと思います。それでもいいですよね。それだけ魅力的なものが世の中に溢れているんだから。モノ選びをして、あとから「何が良かったんだろう、これ?」という失敗ももちろんありますよ。でもきっと、それも次のモノ選びにいきてくるし、そんなモノ選びを通じて自分の価値観はこれからも磨かれていくんだと思っています。

人との交わりに良い暮らしを見つける

講義の後半は参加者との質疑応答です。

Q. 買い付けで、「あえて私たちが選ばなくてもいいじゃん」と思ったことはありますか?

ありました。100人中100人がいいと思うものは、画一的になってしまいますが、数少ない人が熱狂的に好きなものを選べることが私たちの感性だと思います。また同じものを並べたとしても、見せ方や組み合わせひとつでスタイルになるから、スタイリングやディスプレイも大事にしています。

Q. これから子どもが産まれます。インテリアがどうなるか不安です。子どもの喜ぶモノを選ぶ時にどんな気遣いをしていますか?

おめでとうございます!その不安、すごくよくわります。私も子どもができた時に木で揃えたいと思いました。でも、子どもはカラフルなモノや色々な素材が好きですよね。本人の好奇心も大事に育てたいので、買うようにしました。自分を納得させる線引きには収納がオススメです。自分の好きな箱やかごなどの収納を買い集めると、子どもが寝た後に片付けることができます。子どもにも、その収納に入れることが楽しくなるような場所をつくったりもしました。

最後は、CLASS ROOM恒例の質問にも答えてもらいました。引田さんにとって、「良い暮らし」とは?

自分にとっての良い暮らしは、人との交わりの中にあるのかなと思います。
モノの作り手や背景にふれることで心に栄養がいくというか、モノを手に入れるということだけではなく、気持ちの豊かさにつながると思っています。

>>交流会の様子はこちら

引田舞(CIRCUSディレクター)

アパレルのプレスアシスタント、ラジオの構成作家などのキャリアを経て、現在は夫の鈴木善雄さんとともに、ショップの内装デザイン&ディレクションを行うユニット「CIRCUS」を主宰。新木場の複合スペース「CASICA」のディレクションなどを担当。

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