2018.1.31
Report 2/3

個性を楽しむ

講師:児島幹規(装苑編集長)、相澤樹(スタイリスト)

10年後に見返すページをつくりたい

児島さんに続いて「個性」をテーマに話してくれたのは、相澤さん。フリーのスタイリストとして活動を始めたのは21歳のとき。それ以前は、きゃりーぱみゅぱみゅさんの衣装などを手がける飯嶋久美子さんのもとでアシスタントとして働いていました。

普通は27歳くらいで独立するんですけど、私の場合、師匠が妊娠したときに「もう成人しているから大丈夫っしょ!」って、半ば無理やり独立させられました(笑)。それからはファッション誌、CMや広告、タレントさんのスタイリングとジャンルにこだわらずにお仕事をしてきて、ここ2、3年は、フードコーディネートや空間プロデュースもしています。スタイリストとしてはちょっと変わったアプローチなので、これも個性といえるのかな?(相澤)

現在はファッションの枠を超えて幅広い領域で活動している相澤さんですが、そもそも「ファッション雑誌」のスタイリストを目指していたそうです。その理由はというと……。

ビリっと切り取ったり、スクラップしたり、10年後までとっておきたくなるような1ページ、パワーや元気を与えられる1ページをつくりたいと思ったんです。私自身がそうやって雑誌からいろんなものを受け取ってきたから。いつか『装苑』でもスタイリングができたらな、と思っていて、初めて仕事をさせていただいたのが2006年ですね。(相澤)

プロジェクターには、相澤さんがスタイリングを担当したページが映し出されます。「1個でも気になるアイテムを見つけてくれれば」というのが相澤さんの仕事のスタンス。児島さんも「好きだと思えるものを探してほしい」と同意します。

『装苑』を見て「こんなヘンな服を誰が着るんだ」っていう感想をもらうことがあるんですが、そのまま着てもらうために掲載しているわけではないんです。色でも写真でもメイクでも、何か感じてくれればいい。女性誌によくある、“1週間コーディネート”みたいな企画は、自分の個性を捨てさせていることになります。参考にしてもいいけど、本当にそれが好きか、着たいのかは考えてみてほしい。(児島)

児島さんが編集長に就任したときの衝撃

読者としても、スタイリストとしても『装苑』に関わってきた相澤さんにとって、児島さんの編集長就任は衝撃的だったのだそう。当時のやりとりを、ふたりはこう振り返ります。

男性的な印象があって、寡黙な人を想像してちょっと構えていたんです。でも、いざ会ってみたらすごくよくしゃべる(笑)。特に印象的だったのは、「こういうブランドって知ってる?」と、自分が知らないことでもそれを隠さずに聞いてくること。(相澤)


知らないことは知らないと、言うことにしているんです。20代半ばのとき、知ったかぶりをすると誰も教えてくれないことに気付いて。僕の仕事は「伝える」ことなので、取材で聞くことを恥ずかしがっていることは、結局、読者に対しても失礼なことになるんですよね。(児島)

児島さんが編集長に就任する以前から、『装苑』のスタイリングを担当していた相澤さん。この雑誌には、他での仕事とはちょっと違うところがあると言います。それは「表現の幅が広い」ということ。

カルチャーに寄っている、とも言えるのかもしれません。たとえばゴシックロリータをテーマにしたときには、普通の服も織り交ぜてスタイリングしました。「こんな着方もあるんだ」っていうことを、ふだんはゴスロリを着ない人たちにも知ってほしくて。このページが好評で、ブランドの人にも「これなら着たいと思う人が増えるかも!」って、すごく喜んでもらえましたね。(相澤)

365日外に出て、人に会って、ものを買う

スタイリストとしての仕事は、雑誌の誌面に見えるものだけではありません。実際にスタイリストが用意する服は、雑誌に掲載されるアイテム数の5倍、ときには10倍にも及びます。相澤さんはそんな仕事をする上で、どのようにイマジネーションを育んでいるのでしょうか。

家のなかで過ごすことがほとんどないんです。お買い物したり、展示を見に行ったり、人に会ったり。10代の子たちとも積極的に遊びに行きます。いろんなカルチャーの人たちと損得を考えずに会う、いろんなものに触れて引き出しをいっぱい持っておくことは、ふだんから意識していますね。(相澤)

ここで会場から、「独立後、人とのつながりをどうつくりましたか?」という質問が。それに対して「どんどん出歩いて自分からつかみにいくこと」と、師匠に弟子入りした当時を振り返りながら話します。

師匠がピンクを好きだからって、履歴書をピンク色に染めて持っていったり、どうしても弟子入りしたくて、ストーカーみたいなことをしていました(笑)。独立後も同じように心の赴くままに行動していたら、あれよあれよと助けてくれる人に出会えて。今でも面白そうな人に会いに行ったことが、結局仕事につながることが多いですね。みなさんも、特に20代なんて怖いもの知らずですから、フットワークが軽い時期に動いておくことをおすすめします。(相澤)

児島幹規(装苑編集長)

1968年生まれ。学生時代に編集アシスタント・ライターを経て、1992年世界文化社入社。2004年に『Begin』編集長、2009年から『MEN’S EX』編集長を務めた後、2013年10月より文化出版局、出版事業部長兼『装苑』編集長に。毎日ファッション大賞、Tokyo新人デザイナーファッション大賞、ORIGINAL FASHION CONTEST、浜松シティコンペ他、多くのコンテストで審査員も務める。

相澤樹(スタイリスト)

2005年よりフリーのスタイリストとして活動開始。エディトリアルを始めアーティスト、広告、CMなどジャンルを問わず活躍中。衣装デザイン、エディトリアルディレクション、空間プロデュースなど多方面の活動も行なっている。2017年ラッキースター所属。 著書:REBONbon(祥伝社)KAWAII図鑑(文化出版)

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