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アーティスト鈴木掌さんが、ルワンダの子どもたちの自立を支援する理由

2022.06.14

画家として活躍する傍ら、貧困に苦しむルワンダの子どもたちに絵を教え、彼らが自分の力で生きていくためのサポートをしている鈴木掌(すずき・つかさ)さん。教育プログラムを実施するだけでなく、彼らの作品を買い取り、実際に商品化して販売するという、実践的なプロジェクトを展開しています。これまでの歩みや今思い描いている未来について、伺いました。

夢は、新たな文化をつくること

鈴木掌さんの名前は「てのひら」と書いて「つかさ」と読む。

「僕は先祖に即身仏がいる家系に生まれまして、父から『おまえが授かった名前のとおり、世界を掌(てのひら)で掌(つかさど)るリーダーになりなさい』と言われて育ちました。その刷り込みもあってか(笑)、子どものころから『将来は新しい文化や生活様式をゼロイチで生み出そう』と心に決めていました」

アート、音楽、ダンス、ファッションなど、さまざまな分野に興味を抱き、中学時代は歌舞伎のカラフルでデコラティブな世界観に没頭したことも。もともと手先が器用で、美容師の母の見よう見まねでヘアカットの技術を覚えてしまうほど。

「でも服作りだけは、独学では限界があるように感じたんです。新しい文化を生み出すには、自分が作りたいものを自在に作れるスキルを身につけなくては。それで、ファッションの専門学校に進学しました」

鈴木掌さん。アートを通じて世界中の子どもたちを支援する「heART(ヒーアート)」をライフワークとして活動。ライブペインティングや壁画、天井画など大規模作品の制作も

ルワンダで200人以上のテーラーを育てる

卒業後は母校で3年間助手教員を務め、そろそろ違う活動をと思っていたころ、たまたま目に留まったのが、青年海外協力隊の募集ポスター。大好きなブラックカルチャーのルーツであるアフリカで何か新しいことを起こせたら――そんな思いで応募し、決まった派遣先がルワンダだった。

2011年から青年海外協力隊として、さらに2013年からは外務省の日本NGO連携無償資金協力事業の一環でルワンダに滞在。現地では、服作りを志す若者たちにボランティアで洋裁を指導し、2015年までの合計5年間で200人以上のテーラー(仕立屋)を育てた。また、休日はブレイクダンスを教えたり、音楽をセッションしたりといった交流を楽しんだ。

ローカルな仲間たちとのたくさんの出会いを通して、「ルワンダの人たちは才能あふれる人たちばかり。彼らをプロデュースして、世界中とつなげたい」と考えるようになった鈴木さん。任期終了後もルワンダに残り、未知なる才能がクロスする場となるようなバーをゼロから立ち上げ、順風満帆のはずだったが……。

鈴木さんが用いる画材は蛍光色など、カラフルなのが特徴。みるみるうちに、キャンバスが美しい色に染まっていく。一方、ルワンダ時代に絵の具がなくて始めた「珈琲画」のワークショップを開くことも

まさかの裏切り、挫折からの再生

思いがけない事態が発生した。信頼していた仲間の裏切りに端を発した耐え難い出来事に深く傷ついた鈴木さんは、バーを畳んで日本に帰国。しばらくは抜け殻状態で何をする気も起こらず、ぼんやりと絵を描くことくらいしかできなかったという。ところが、この「絵を描く」という行為が鈴木さんの運命を再び動かすことになる。

「ある人が僕の絵を見て、『ライオンの絵を描いてくれないか』とオーダーしてくれたんです。僕はライオンの絵を描き、その人はその絵を買ってくれた。自分の作品にお金を払ってくれる人がいることに心が救われて、そうだ、画家として再起しよう、と決意しました」

持ち前のセンスと技術、コミュニケーション力で、次々とファンを増やしていった鈴木さんは、わずか一年で画家として食べていけるまでに成長。一度は消えかけた「ルワンダの才能あふれる人たちをプロデュースして世界とつなげる」という夢も、またもや心の中に立ち上がってきた。そして2019年から、再びルワンダへと通うように。

2022年4月15日~5月25日はルミネとのコラボレーション企画を行い、ニュウマン新宿にて自身の新作や子どもたちの絵を展示販売。ミュージシャンとセッションしながらのライブペインティングも披露

ルワンダで絵の教育プログラムを開始

ルワンダで新たに立ち上げたのは、貧しくて教育も職業訓練も受けられないストリートチルドレンなど未成年を対象に絵を教え、さらに、彼らの作品を買い取って販売することでマネタイズするプロジェクト「heART(ヒーアート。heartとARTを掛け合わせた造語)」。才能を育て、継続的にプロデュースしながら、やがては世界的なアーティストとして羽ばたいてもらうことを目指す。

「自分が描いた絵が認められることが、自信と誇りを生み、新たなモチベーションにつながる。そして、作品が1点売れるだけで、自分の家族の当面の生活費をまかなえて、学校にも行けるようになる。彼らに希望や勇気、チャンスを与えることで、自分の力で人生を切り拓いていく人間に成長してもらえたらと思っています」

貧困により代々教育を受けていない家庭では、子どもが稼いだお金を親が勝手に使い込んでしまうケースもあるという。子どもが学校に通って教育を受けることは、負の連鎖を断つためにも重要なのだ。鈴木さんは彼らに絵を教えるだけでなく、ビジネスの発想法や価値とは何か、客観性をどうもつかといった座学のワークショップも行っている。

かつては洋裁やダンス、音楽、そして、現在はアート。自分ができることを教え、ルワンダの人たちの背中を押すことで、彼らの眠っている才能が開花する。それは、ルワンダという地に鈴木さんの子どものころからの夢だった「新しい文化を生み出す」ことでもある。

そんな鈴木さんが今思い描く理想の未来は、誰もが自分の力で、自分がやっていることで価値を示し、自立できる社会。「アートでも農作物でも何でも、自分が手がけたものを評価してもらえて、自分も他人の手がけたものを認めることができる。そうやってみんながモチベーションをもち続けられるように、環境を変えていきたい」と語る。

「そのためには、まずは、僕たち一人ひとりが自分自身をけなさないこと。たとえ思うようにやれなかったとしても、いったんは自分が出した結果に満足することです。『これは今世紀最大の傑作だ!』って(笑)。もちろん、あとでひとりで反省会を開くのはいいんだけど、自分に自信をもたないと、自分のことを見守ってくれている人や支えてくれている人たちに失礼じゃないかなって。人は、ひとりでは生きられないのだから」

ルワンダでの活動の様子。「ルワンダの子どもたちのことを思うと、僕個人の作家としての価値をさらに高めていくことも大事だなと。そうすれば、彼らの作品の価値も上がっていくから」と鈴木さん 写真提供=鈴木掌

■鈴木掌
https://tsukasasuzuki-works.com/

※本記事は2022年06月14日に『telling,』に掲載された記事を再編集しております。
※情報は記事公開時点のもので、変更になることがございます。

Text: Kaori Shimura Photograph: Ittetsu Matsuoka Edit: Sayuri Kobayashi

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