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きょうは本屋に寄って帰ろう/Vol.7(選者:山口博之さん)

2023.12.22

本を愛するあの人が、ルミネのシーズンテーマを切り口におすすめの本を紹介するこの企画。今回は特別編として、「時間のある年末年始にゆっくり読みたい本」を、ブックディレクター・編集者の山口博之さんに選書してもらいました。
山口さんがセレクトしたのは2冊の“歌詞集”。じっくり向き合うことで、音楽の新たな魅力や楽しみ方に気づかせてくれそうです。

『折坂悠太(歌)詞集 あなたは私と話した事があるだろうか』著:折坂悠太(WORDSWORTH)

音楽を聴く環境がサブスクリプションや動画になり、溢れるように日々新しい音楽を聴くことができています。その一方でCDを買うことがほとんどなくなりました。それによってブックレットという“薄い本”に触れる機会も同時になくなり、歌詞はレイアウトされた状態ではなく、リリックビデオなど音楽が流れている時間に合わせて見る(読む)ものになっています。音楽の時間とは離れ、自分の時間で歌詞を味わうことがしにくくなっているとも言えそうです。

そうした時代だからこそ、歌詞集という本の存在が新たな意味を持ちはじめていると考え、シンガソングライター、折坂悠太さんの歌詞集を企画編集し、2023年10月1日、私が版元となって出版をしました。

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言葉を選ぶ時間がもたないなら
風が木立を揺らすのを見ていよう

「炎」

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その角 物陰に
なんにもないこと
「生きる」と呼ぼう

「呼び名」

――――

光が揺れてる
例えを拒んでる

「爆発」

――――

私が好きな一節。折坂さんは安易な物語化や常套句のような言葉の使い回しをしません。大きな流れに流されることに抗い、戸惑う人たちの言葉にできない思いを、ありきたりの言葉でわかった気にさせず、ともに悩み、考え続けるような時間と場所を与えてくれます。折坂さんは自分の歌や言葉、自分の存在を、広場やみんながアクセスできるクラウドのようなものといいました。誰の居場所にもなり、誰の言葉にもなる、そんな言葉たち。たくさんの音楽で溢れる年末年始にゆっくりと音楽の言葉に触れてみてください。

『だけどぼくらはくじけない―井上ひさし歌詞集―』著:井上ひさし、編:町田康(新潮社)

2010年に亡くなった劇作家、小説家の井上ひさし。放送作家として手掛けた『ひょっこりひょうたん島』の作者(山元護久との共作)としても知られていますが、ひょうたん島に出てくる歌の作詞も手掛けていました。「なみをジャブジャブ ジャブジャブかきわけて」で知られるテーマソングをはじめ、実はたくさんの曲が歌われていました。

自身の戯曲や小説内で使われた曲の歌詞がありつつ、驚いたのは様々なアニメの曲も書いていたこと。

――――

そいつの前では女の子
つーんとおすまし それはなに
それはかがみ かがみの中から
ツンツンツン

「ひみつのアッコちゃん」

――――

ねえムーミン こっち向いて
恥ずかしがらないで
もじもじしないで

「ムーミンのテーマ」

――――

思わずメロディが浮かんできたでしょうか。アニメ自体は原作者の世界観ですが、実はそれ以上にメインテーマの曲こそが頭に残っていたりもするものです。他にも井上ひさしらしさといえばの言葉遊びが本全体に筋を通しています。
井上があやつる言葉遊びによる軽さは、ただノリのためにあるのでなく、キャラクターや作品の世界を通した悲哀も希望も込められています。

おすすめは、小説『吉里吉里人』のなかで歌われる「わたしは午後に死にたくない」です。

――――

わ、わたしは午後に死にたくない
ご、ごご午後にはまずおやつがあるし
虹が、でで出るのも午後だし
散、散歩の帰りの日没は美しいし
そそれに夕刊、みみみ見るのも楽しみだ
だ、だから午後には死にたくない

「わたしは午後に死にたくない」

――――

さて、いつなら死んでもいいというのでしょうか。この後の続きはぜひ本をお読みください。


山口博之
ブックディレクター、編集者。good and son代表。1981年仙台市生まれ。立教大学文学部英米文学科卒業後、2004年から旅の本屋「BOOK246」に勤務。選書集団BACHを経て、17年にgood and sonを設立。ショップやカフェ、ギャラリーなどさまざまな場のブックディレクションをはじめ、広告やブランドのクリエイティブディレクションなどを手がけ、そのほかにもさまざまな編集、執筆、企画などを行っている。
https://www.goodandson.com/


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