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きょうは本屋に寄って帰ろう/Vol.11(選者:小谷実由さん)

2024.05.01

本を愛するあの人が、ルミネのシーズンテーマを切り口におすすめの本を紹介。今回のテーマは「Summer Camp -山に学び、山と遊び、山と生きる」です。
五感をフルに使って自然を感じると、気持ちの良い爽快感と開放感が心を満たしてくれます。それは、せわしなく駆け抜ける日々の速度をすこし落として、時間について考えてみるひとときになるかもしれません。
モデルの小谷実由さんが「自然」のイメージから思い起こしたのは、詩集と絵本の2冊。記憶や日常と“私的な自然”がつながるようなエピソードとともにお届けします。

『深呼吸の必要』著:長田弘(角川春樹事務所)

街中を歩いていても、自然の息吹を感じることができるとなんだかとてつもなく嬉しい。しかし同時に、どうしてか幼い頃の記憶がついてくることもあって、そんな時は途端に甘酸っぱいような、少し薄影がかかるような、時間が止まってしまう気持ちになる。日常は、年を重ねるごとにスピードを上げていく気がするのに。

タイトルに惹かれたのがきっかけで手を伸ばしたこの詩集。どうしても目の前のことに一生懸命になると深く息を吸うことを忘れてしまうもの。幼い頃は深呼吸を体育の授業やラジオ体操でこれでもかとやらされていたように思う。大人になって、確かに深呼吸は意識してでもしたほうがいいと感じる。この詩集を開くと一気に子供時代に戻って、ふと時が止まりぼんやりする。腕を宙に振り上げて深く息を吸い、体の脱力と共に腕を下ろす瞬間のぼーっとした時に似ている。時にはそんな頭に余白を作る瞬間も必要な気がしている。

『ふわふわ』文:村上春樹、絵:安西水丸(講談社)

猫は一番身近にある自然。同じ屋根の下で日々を営んでいても、人間とは違う時間を異なるリズムで過ごす。彼らには何が聞こえ、何を感じているんだろうか。暖かい気候を察知しては床に大きく広がって眠り、冷えを感じればぎゅっと丸まって自分に蓄えられた潤沢な毛で暖を取る。すれ違うとどうしても撫でたくなる頭は太陽のあたたかな香り。

猫が表すものには日常の場面が広がることを、猫を愛してやまない気持ちを込めて伝えてくれるこの絵本。猫のようにゆっくりのんびりと歩を進め、時に本能のままに駆け出していくように生きることができたら。気まぐれなように見えて、きっと猫なりの思索があるのかもしれない。猫の心理に思いを馳せてみると大きな自然が見えてくる気がする。

小谷実由
ファッション誌やカタログ・広告を中心に、モデル業や執筆業で活躍。一方で、さまざまな作家やクリエイターたちとの企画にも取り組む。猫と純喫茶をこよなく愛する。愛称はおみゆ。著書にエッセイ集『隙間時間』(ループ舎)。J-WAVE original podcast「おみゆの好き蒐集倶楽部」のナビゲーターを務める。
https://www.instagram.com/omiyuno/


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