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LIFESTYLE

CLASS ROOM

モノと向き合うことが、日々を楽しむ眼差しになる。

2020.10.14

2020年度の「CLASS ROOM」は、「LUMINE CLASS ROOM LIVE」としてYoutubeでのライブ配信形式でお届けしています。
10月28日(水)のゲストは、モデルやエシカルファッションプランナーとして活動している鎌田安里紗さん。衣食住やものづくりなど、暮らしにまつわるさまざまなことを探求するオンラインコミュニティ「Little Life Lab」の主宰でもあります。そんな鎌田さんに、ご本人お気に入りのカフェ「No.」で、普段の活動やモノの選び方について聞きました。日々、当たり前に手に取るモノたちに思いを馳せることで、日常の景色が少し変わるといいます。


ファッションが好きだからこそ、ショックだった

もともとファッションが好きで、高校1年生のときからアパレルの販売員やファッション誌のモデルをしていました。でもある日、クローゼットにはすごくたくさんの服があるのに、満足しないし、常に新しい服がほしいと思ってしまうことに不思議さを感じたんです。

仕事で扱うたくさんの服がどこからきているのかとか、背景が全然見えないことも不思議で。それでいろいろ調べたら、世界では服が過剰に生産されたり、捨てられたりしている問題があることを知りました。作るときに大量の水やエネルギーを使うことも、生産工場の労働環境がよくない場合もあることもわかって……服が好きだからこそ、ショックだったんです。

一方で、生産背景にこだわっているブランドにも出合って、そういう人たちの話がすごく面白かった。素材はこうでとか、働いている人たちがよい環境で働けるようにこんな仕組みにしていてとか。それを聞いて、私もこういう観点で服と関わりたかったなと思ったんですよね。

それは2008〜2010年頃だったのですが、日本ではまだエシカルファッションの考え方があまり知られておらず、生産背景を明らかにするという姿勢も一般的ではありませんでした。日本でももっとそういう情報を得られるようになったらいいなと発信し始めたのが、今の活動のきっかけです。

言葉だけではなく、体験してもらうことが大事

現在はエシカルファッションプランナーとして、お洋服の生産から消費、使用、廃棄に至る過程で、自然環境や、そこに関わっている人にどういう影響があるのか、そうことも含めてファッションを楽しむ考え方を、イベントや企画を通して提案しています。

たとえば「服のたね」は、みんなで素材から服をつくるプロジェクトです。参加者にコットンの種をお送りして自宅で育ててもらい、収穫したワタを集めて紡績工場で糸を紡ぎ、生地工場で生地にする。さらに全員でデザインを考え、服をつくる。今年が3年目で、毎年50人くらい参加してくれていますね。

一連のプロセスを体験すると、それぞれに疑問を持ったり、面白いなと思うポイントが出てきます。一度に採れる綿の少なさを目の当たりにして、「売ってる服、安すぎない?」と感じた人もいれば、殺虫剤を使わずに育てる体験をしたことで、「オーガニックで量産するのって大変。そりゃあ値段も高いはずですね」と言っていた人も。言葉だけで“エシカル”と言われても自分ごととして捉えづらいと思うので、こんなふうに体験してもらうことで、自分なりに考える機会になったらと考えています。なによりみんなで育てる体験をシェアするのは楽しいです。

モノを見極める多様な視点を

服にまつわる活動を続けていたら、食べ物とかアクセサリーとか、いろんなモノに対して、どうやって作られているんだろうと気になってきて。暮らしのなかで使うモノの生産背景とか、選ぶときの視点について情報交換ができる場所があったら面白いなと思い、2019年の1月にlittle Life Labを始めました。今は、約100名のメンバーで活動しています。

毎日使うモノには使っていて気持ちいい製品を選びたいという思いから、みんなで歯ブラシや洗剤を使い比べたりしています。それから、体験するイベントも。たとえば化粧品って、なにでできているかわからないじゃないですか。成分表を見てもカタカナだらけだし。それを知るために、講師の方をお招きして、自然由来の材料だけでリップを手作りするワークショップを開いたり。海苔漁師さんの元を訪ねたり、味噌を仕込んだりもしました。

私たちは生活者だから、日々いろんなモノを選んで、買いますよね。そのとき、選ぶ基準が多様だと楽しいなと思うんです。見た目や使い心地、値段はもちろん大切ですが、環境負荷が低いとか、生産者さんに配慮されているとか、修理ができるかとか、そういうモノを見極める知恵を求めて参加しているメンバーが多いのかなと感じます。

買い物は自分の意思を反映するチャンス

自分のなかでモノを選ぶ基準が増えると、日常の密度がすごく上がるというか……家の中が気持ちいいと思えるモノで満たされていくので、暮らしそのものが心地よくなると思います。Little Life Labの活動は、日々のなかで逃してきてしまった“自分の意思を反映できるチャンス”を、一つひとつ回収していくことなのかもしれません。

私自身の選び方でいうと、成り立ちがわかるモノが好きです。どんな人がなにを考えて生み出したモノなのか知られると、嬉しいですよね。見た目でいうと賑やかすぎず、部屋に置いていて景観を乱さないっていうのがポイントです。あとは、洗剤も化粧品も、服も、自分の身体に入ってきたり触れたりするものだから、あんまり身体に悪くないほうがいいなと素朴に思います。これまでいろんな生産地を視察して、なにを作るにも大勢の人が関わっていることを実感しているので、労働環境も想像しますね。

そういうことをいっぱい考えたときに、やっぱり重視するのは透明性があるかどうかですね。生産背景で知りたいことがあったときに、情報を得られると助かります。気になるプロダクトがあったら「ちょっとお話を聞かせてください」と販売元に連絡をして、質問をさせてもらったりもします。それでめちゃめちゃ仲良くなることもあります(笑)。

大それた正義ではなく、暮らしの話

あらゆる製品は、地球上のなにかしらのものを使って、誰かの手が加わってできているということをいろんな場面で目の当たりにしてきました。だからこそ、知らないうちに自分が環境や労働の問題に加担する可能性があると、いつもどこかで感じています。意識してもしなくても、絶対にどこかとつながっているなら、完璧には無理でも、できるだけ成り立ちのわかるモノで、応援したい人からものを買いたいなと思うんです。

エシカルとかサステナブルというと、「環境を守るために」とか、「未来のために」という文脈で語られることが多いのですが、私はなんていうか……あんまり正義感ではやっていないんですよね。「正しいことをやろう」みたいな感じに聞こえちゃうけど、そういう目標じゃなくて、生活のなかでする一つひとつの判断の話っていうか。

だから、活動のなかでなにかを伝えるときも、直接的にエシカルについて語るのではなく、あくまでも暮らしの話に終始することがほとんどです。言葉の表現も自分視点になることが多い気がしますね。

世界を面白いと思える眼差しに触れたい

私の活動へのモチベーションは、日々使うモノの背景がブラックボックスすぎて気持ち悪いという感覚と、そこを知っていくことで出会える人や知識が面白いという感覚、どちらも同じくらいあると思います。

以前、アーティストの鈴木康広さんにインタビューさせていただいたとき、この人から見ている世界はめちゃくちゃ面白いだろうなと感じたんです。面白いものがあるかどうかじゃなくて、面白いと思える目を持っていると日々が楽しくなる。だから、そういう眼差しをたくさん得たいっていうのがすごくあります。

なにかを選んだり買ったりする行為って、そのチャンスでもあるんですよね。モノの先に、実はすっごくいろんなことが広がっている。それを知ることで解像度が上がり、どんどん目が開かれていく感覚になります。せっかく買うなら、せっかく着るなら、せっかく食べるなら、それをできるかぎり味わいたい。そういう意味で、私はけっこう貪欲なのかもしれません。


▶︎鎌田さんおすすめの「暮らしをもっと楽しくしてくれる一冊」
『近所の地球』著:鈴木康広(青幻舎)
「アーティスト、鈴木康広さんの作品集。あまりにも日常的なモノから、壮大な景色に意識がワープする感覚になります。素朴な気づきや、身近な出来事を無視しない/通り過ぎない豊かさを共有し、こちらのまなざし次第でいつだって世界は面白いということを教えてくれました。パラパラと見ているだけで楽しく、散歩に出かけたくなる一冊です」


<プロフィール>
鎌田安里紗(「Little Life Lab」主宰)
1992年、徳島県生まれ。"エシカルファッション"に関する情報発信を積極的に行い、ファッションブランドとのコラボレーションでの製品企画、衣服の生産地を訪ねるスタディ・ツアーの企画などを行っている。衣食住やものづくりについて探究するオンラインコミュニティ「Little Life Lab」主宰。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程在籍。同大学総合政策学部非常勤講師。


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LUMINE CLASS ROOM LIVE『暮らしのちいさな習慣を見つめなおす』
食べること、着ること、ものを買うことなどにまつわる「これってどうやってできるの?」「何を基準に選ぶ?」。10月のCLASS ROOMでは、鎌田さんに暮らしの中でちょっと気になること、もっと掘り下げてみたいことに向き合って、こだわって、考えてみる習慣についてお話をしていただきます。
ライブ配信中に鎌田さんへの質問コメントも受け付けているので、是非ご参加ください。

配信日時:2020年10月28日(水)20:00~21:00
配信方法:上記日時にYouTube上でライブ配信

*アーカイブ動画を配信中:前編後編

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