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クラフトビールから始まる食の循環とは? 「横浜ビール」が発信する、ビールの新たな楽しみ

2020.10.13

20年以上の歴史があるクラフトビールの先駆け、「横浜ビール」。高品質で美味(おい)しいビールを製造するだけでなく、生産者と消費者をつなぎ、消費者と地域をつなぐなど、さまざまなものをつなぐプロジェクトを通して、ビールの新たな楽しみ方を発信し続けています。そのユニークな取り組みについて聞きました。

日本のビール文化発祥の地、横浜を代表するクラフトビール

小規模な醸造所から生まれる、個性豊かなクラフトビール。1994年に酒税法が改正されたのを機に産声を上げ、今ではすっかり定着し、ファンが多い。今回紹介する「横浜ビール」は、日本で初めてビール醸造所が設立された横浜の地に、1999年に誕生したクラフトビールの醸造所。現在、横浜に20社以上あるクラフトビールの醸造所のなかでも、最も長い歴史をもつ。JR桜木町駅から徒歩6分ほどの場所にあり、2階にビアホールレストラン「驛(うまや)の食卓」を併設。1階の醸造所で造られたばかりのビールと、旬の食材を用いたビールに合うメニューを味わえるとあって、地元の人たちを中心にいつも賑(にぎ)わっている。

横浜ビールが製造するビールのラインアップは、レギュラーのビールだけでも、チェコスタイルのピルスナー、アメリカンスタイルのペールエールなど全7種類。このほか季節の限定品やコラボ企画商品も多数あり、味も香りも見た目も多彩で楽しい。よく見ると「瀬谷の小麦ビール」「綱島桃エール」など、横浜市内の地名が含まれているものも。いったいどんなビールなのか、横浜ビールのマーケティング・メディア部の部長、横内勇人さんに尋ねてみると……。

個性豊かなレギュラーラインアップ。2019年にラベルをリニューアルし、波の高さや幅がそれぞれのビールの味わいを表すデザインに。上部の「横浜」の文字には、横浜の街並みをイメージした書体「濱明朝」を採用

地元横浜の原料生産者の思いを、より多くの人に伝えたい

「クラフトビール業界は醸造所同士のネットワークがあり、みんなでクラフトビールを盛り上げていこう! という思いで切磋琢磨(せっさたくま)しています。近年は味も品質もどんどん向上し、全国どこに行っても美味しいクラフトビールが飲めるようになりました。そんななかで、私たち横浜ビールは単に『飲む楽しさ』を提供するだけでなく、『人と人をつなぐ』『人と地域をつなぐ』『ビールといろいろな文化をつなげて、ワクワクしてもらう』ことを目指しています。その一例が、ビールを通して、横浜の原料生産者の方々の存在をより多くの方に知っていただく活動です」

ビールの原材料はホップ、モルト、酵母、水。シンプルなだけに、素材のよさがダイレクトに反映される。横浜ビールでは地元の原料生産者と連携。美味しいビール造りのために、醸造責任者をはじめとするスタッフが小麦や副原料のフルーツの収穫に参加することも少なくないという。

醸造所内の様子。モルトを煮込んでろ過し、ホップを加えて再度ろ過する作業を三つのタンクで行う。仕込み後は瞬間冷却し、1~2カ月ほど寝かせる。タンク洗浄は「労力の8割を占めるほど、大変な作業」と醸造担当者

横浜市瀬谷区の岩﨑農園が毎年横浜ビール向けに栽培した小麦から生まれる「瀬谷の小麦ビール」、今では港北区の綱島桃園でしか造られていない幻の桃、日月桃(じつげつとう)を用いた「綱島桃エール」など、知れば知るほど、横浜で小麦や希少なフルーツが育っているなんて……と驚かされると同時に、興味が湧いて飲んでみたくなる。

自社レストラン「驛の食卓」では、毎週木曜のランチタイムに「道志の野菜のランチ」(900円・税込み)が登場。「フードループ」プロジェクトで栽培、収穫された道志村の野菜を用いたメニューで、内容は月替わり

道志村とのサステナブルな食の取り組み、フードループ

また、注目したいのが、山梨県の道志村とのサステナブルな食の取り組み「フードループ」だ。ビールの製造過程で出るモルトの粕や自社レストラン「驛の食卓」で余った食材は、肥料にして再利用する。廃棄物の回収や処理などを行う横浜環境保全の協力を得て、堆肥(たいひ)にしたものを横浜市の水源地である道志村に提供。その堆肥を用いて栽培された野菜を、「驛の食卓」をはじめとする横浜市内の飲食店のメニューに取り入れるという、食の循環システムを実現している。

この「フードループ」がフードロス問題の解決や、過疎化が進む道志村の活性化と雇用促進につながれば、と横内さんは言う。

「道志村の清涼な湧水(ゆうすい)を仕込み水に使用した『道志の湧水仕込』というビールも造っているのですが、その売り上げの一部を道志村の子どもたちに還元する取り組みも行っています。小中学校に教材を提供するほか、米村でんじろうサイエンスプロダクションを現地に招いて科学実験をしていただいたこともありました」

以前は食品メーカーに勤めていた横内勇人さん。出張で出会った全国のクラフトビールに「地域を盛り上げる楽しいお酒」と可能性を感じ、転職。「ビアランニング」「ビアバイクツーリズム」などを企画したアイデアマン

イベントを通して、横浜のクラフトビールを身近な存在に

生産者と消費者をつなぎ、消費者と地域をつなぐ。さまざまなものを「つなぐ」ことで、ビールの新たな楽しみを拡張し続ける横浜ビール。横浜をランニングしながら観光し、終了後に「横浜ビール」を味わう定期イベント「ビアランニング」や、オランダのアムステルダム発祥、複数の乗客がビールを片手にペダルをこいで動かす大きなカウンターつきの自転車「ビアバイク」の体験ツアー*など、ユニークなイベントも多数主催している。

「10月31日から11月8日までの間、横浜の関内エリアをビアバイクで巡りながら、ブルワリー見学とビールのテイスティングができる『ビアバイクツーリズム』を開催します。現在、ビアバイクはイベントを行うたびに兵庫の企業からレンタルしているのですが、来年は横浜市とタッグを組んでクラウドファンディングで資金を募り、オリジナルのビアバイクを製造する予定です。今後もさまざまなイベントを通して、横浜ビールをはじめとする横浜のクラフトビールをより身近に感じていただける機会を増やしていけたらと思っています」

*ビアバイクはペダルをこぐことを動力としており、ハンドルとブレーキの操作は飲酒をしない運転スタッフが行う

■横浜ビール
http://www.yokohamabeer.com/


※本記事は2020年10月13日に『telling,』に掲載された記事を再編集しております。
※情報は記事公開時点のもので、変更になることがございます。

Text: Kaori Shimura Photograph: Ittetsu Matsuoka Edit: Sayuri Kobayashi

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