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お米の味がちゃんとする。和菓子文化をつなぐ手づくりのお煎餅

2021.01.28

ニュウマン新宿2Fエキナカにある「えんなり」は和菓子のセレクトショップ。全国で見つけた、こだわりのある3ブランドの和菓子が期間限定で並びます。
えんなりで2021年3月14日まで販売しているのが、創業約70年の老舗店「富士見堂」のお煎餅です。素材のこだわりやお煎餅づくりに込めた思いとは? 工房を併設した東京・青砥の本店にお邪魔し、代表の佐々木健雄さんにお話を伺いました。

長い歴史のなかで、卸しから小売へ

― 富士見堂の歴史について教えてください。

1950年にこの場所で創業しました。今年で創業71年を迎え、目指すは100年企業。僕は3代目なんですが、初代のときは小売はやっていなかったんです。というのも、昔は「薬問屋」「生地問屋」というように、どんなものにも問屋があって。小さなメーカーは下請けのような形で問屋さんにつくったものを卸し、その問屋さんがスーパーなどの販売店に卸すという仕組みでした。うちもそのひとつで、煎餅をつくって菓子問屋に納めていました。

それが、だんだんと販売店が自分たちで直接商品を仕入れる時代になってきて、問屋がいらなくなってきた。そうなると、販売力がないメーカーは問屋さんと一緒に衰退していってしまうんですよね。

そこで、2代目である父が継ぐタイミングで工房併設の直売所をつくりました。当時は工房と直売所が1階にあって、2階は僕たち家族の住まい。どこかに遊びに行くときは工房を通らないといけないので当然つかまってしまい(笑)、よく袋詰めの作業なんかを手伝っていました。

代表の佐々木健雄さん。

若い人にもお煎餅を広げていくために

― 時代に合わせて富士見堂さんも変化してきたんですね。

そうですね。「富士見堂」のブランドを立ち上げたのは、僕が3代目として経営を引き継いだときです。ロゴをつくり、パッケージも一新して、本格的に小売を始めました。お客さんとふれあい、直接おいしいと言ってもらえるようになったことで、職人のモチベーションも上がっていきました。

― パッケージはポップで手に取りやすいデザインですね。

お煎餅の購買層はもともと50〜80代が中心でしたが、若い方にもお煎餅を広めていきたいと思っているんです。
「えんなり」での販売も新しいお客様に知ってもらえる機会になっています。全国的に知られているような有名店ではなく、小さな和菓子屋さんを発信していくというコンセプトがきちんとありますし、商品だけでなくつくり手のことも発信してくれる。何度か取り扱っていただいているので、えんなりでのリピーターになってくれているお客さんもいて、新しくファンが増えるのは本当にありがたいですね。

左から、「あみえびおかき」390円、「ひとくち海苔」411円、「しらす揚げ」390円。

おいしさに欠かせない生産者とのつながり

― 少量がジッパー付きの袋に入ったものや、籠に入った詰め合わせなど、バラエティに富んでいますよね。自分のおやつ、友だちに渡すちょっとしたギフトと、いろんなシーンが浮かびました。

そう言ってもらえてうれしいです。長く続けていくために、ブランドのイメージを固めすぎず、いろいろなニーズに応えていけるようにすることは必要なことだと思っています。
ただし、どの商品でも一貫して大切にしているのが、お米の味が感じられるように仕上げること。そのためにはいい素材を選ぶことが重要です。

一般的には、家庭の食卓には出ない加工米やくず米を原料として使用することが多いのですが、弊社ではごはんで食べてもおいしい “一等米”の玄米を仕入れて精米し、粉にして生地をつくっているんです。自社で精米することで、お米の風味や食感をより残すことができる。生地からつくっている煎餅屋自体が少ないので、玄米を仕入れているところはもっと珍しいかもしれないですね。

お米も、それ以外の素材も国産にこだわり、なるべく添加物を使わず素材の味を生かして製造しています。おいしいお煎餅をつくるためには、生産者さんの存在が欠かせません。生産者さんとの長年のつながりを大事にしながら、そのまま食材として使ってもおいしい素材を、あえて煎餅の材料として使っています。

「天米ミルクショコラ」8枚入798円(左)と、「白ほおばり」12枚入598円(右)。

心がけているのは「無理をしないこと」

― お煎餅の味は素材選びや職人の腕で大きく変わってくるんですね。

はい。ただ、技術は受け継いでいかないといけないので、その職人じゃなければ作れないというふうにはしたくないと思っているんです。100年続けていくために、究極を突き詰めすぎるのではなく、ある程度対応力を広げること、“無理をしないこと”をいつも心がけるようにしています。

― やっぱり大事なのは、続けていくこと。

そうですね。それはどの企業にも当てはまるわけではなくて、時代によっていろいろ形態を変えて続けていくという方法もあると思います。でも富士見堂という煎餅屋を続けていくためには、それが一番いい選択だと考えています。

和菓子文化を守りながら、お米の味を伝える

― 手軽に買えて、誰もが親しみのあるお煎餅。どのように後世に伝えていきたいですか?

手軽というのはすごく重要で、やりすぎないように調整していかないと値段だけ上がってしまいます。和菓子は高い値段の文化じゃないんですよね。店先で気軽に選んで、ちゃちゃっと買うのが本来の和菓子。そこが洋菓子とは違うところでしょうか。

― たしかに、洋菓子は特別な日に食べることが多いですが、和菓子はもっと日常的なもののような気がします。

お煎餅もそうですよね。小さい頃は、家に帰ると菓子皿にお煎餅が置いてあったという人も多いのではないでしょうか。昔ほどお米を食べなくなった今の時代、「お米の味がしますよ」と言ってもなかなか伝わりづらいので、お煎餅を食べたあと「口に残るこの甘みはなんだろう」と感じたその味は、お米の味なんですよと伝えられたらいいかなと思っています。そんなふうに、時代に合わせてほどよく変化させながら、お煎餅の文化を守っていきたいですね。


※価格はすべて税込みです。

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えんなり ※2023年12月3日 CLOSED
 

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