ファッション・コンサルタントとして活動し、「デジタルテクノロジー×ファッション」に特化した日本初のウェブマガジン「DiFa」(ディーファ)を立ち上げるなど、デジタルとファッションの領域を横断して活躍している市川渚さん。2017年3月15日(水)に開催されるCLASS ROOMの特別講座に先立ち、「デジタル時代のファッションの楽しみ方」についてインタビューを行いました。

訪れたのは南青山にある市川さんのオフィス。撮影は、施工中でコンクリートがむき出しになった階段で。青山の街を一望するテラスやモニターが並ぶフロアを数社でシェアするなど、ワークスタイルも先進的。そんな市川さんが語る、ファッションの「今」と「これから」とは。

デジタルテクノロジーは、自然と溶け込んでいくもの。

「デジタルテクノロジー」と聞くと、“今までなかったすごいもの”を想像するかもしれません。でも、デジタルとの融合って、最新技術を使ったイノベーションだけじゃないんですよね。たとえば建築業界には設計を人工知能でやってしまおうというような取り組みもありますが、手描きだった図面をパソコンで描くというだけでも融合だと思うんです。きっと、みんなが普通にしていることに少しずつ新しいテクノロジーが入っていって、10年後に振り返ったら実はすごく進歩していたというのが、自然なあり方じゃないかな。

ただ、ファッション業界はデジタル化が遅れているところがあるなと思っていて。特に私がかつて働いていたハイブランドの世界はすごくトラディショナルで、当時は新しいものに対して消極的でした。PRを担当していたのですが、すごくフラストレーションを感じていて。たとえば、伝票を手で書いて、ファイリングして、紙の書類を整理してって、そんなことはパソコンでやればいいのに、とか。デジタルを活用して手間を減らせば、面白い企画を立てたり、本来人間にしかできないことに時間が割けるのにって、ずっと思っていたんです。

最近は少しずつ変わってきていて、7~8年前まではラグジュアリーブランドがSNSを使うなんてあり得ない、みたいな感じだったのに、今はインスタがないと成り立たない状況ですよね。ファッションであれば、以前は『Vogue』に載ったら一人前みたいな感覚もありましたけど、今は個人でつくっているものが、面白いと思ってくれる人に届けばそれでいいというような価値観もあって。ウェブサイトだって本当に簡単につくれるようになったし、いろんな人に活躍のチャンスがある時代になりました。

レコメンド機能が進化したら、服との出会い方が変わる。

ただ、デジタル化によって情報が増えた一方、自ら情報を探そうとする人が少なくなった気もしますね。SNSに「教えて!」と書けば、みんなが助けてくれるみたいなことがよくある。「ググれカス」なんて言葉が昔ネットで流行りましたけど(笑)、聞けば誰かが答えてくれるというスタンスは、個人的にはどうなんだろうって思います。ネット上には無限に情報が転がっているので、探せば何でも知ることができる、こんな楽しいことってほかにはないですよ!(笑)

一方で、ECサイトではレコメンドエンジンが進化していて、おすすめ商品を勝手に教えてくれるようになりました。ただ、そこには意外性というものがほとんどないんですよね。私の場合は白と黒のアイテムばっかりおすすめされるから、「わかるけど、意外と春は色物を着たいの!」と思ったり(笑)。意外性のあるものという点では、今はまだ、ショップに実際に足を運んでみたり、店員さんが勧めてくれることにはかないません。

ただ、そういうファッションとのセレンディビティ的な出会いも、きっとAIの進化で成し遂げられるのかなと。そうなったとき、ショップは空間としての心地よさとか、そこに行かないと体験できない何か、空気感とか触覚が重要になる。突き詰めていくと、お店はもはやモノを売る場ではなくなっていくんだと思います。

情報があふれている今だからこそ、自分の好きなものを。

以前と比べて一番変わったのは、服との出会い方かもしれません。昔は服の趣味が同じ人はみんな同じ雑誌を読んでいて、何が流行っているのかという情報を誌面から得ていましたが、今はみんな、いろんなところから情報を得ていて、価値観自体が多様化している。たとえば、ある雑誌ではこれがいい、と書かれていることが、インスタのコミュニティだとダサいとされていたり。

情報の取捨選択が個人に委ねられるようになっていて、リテラシーが高いか低いかで得られる情報に差が出るし、情報に対する姿勢自体が人によってすごく違う。仕事でクライアントに「どこに情報を出したら広まりますか?」という質問をよく受けるのですが、フォローすべきメディアもプラットフォームも人も多様化しすぎていて、答えがひとつということがほとんどないんですよね。まずは、周りよりも自分を知ることが大切だと思います。

自分で着る服は、周囲にデザイナーの友人も多く、東京のファッションブランドを応援したいから、展示会で買わせていただくことが多いです。あと、よく使っているのは海外のECサイト。レートによっては割安だし、サイトのデザインも美しい。ファッションに関してはシーズンごとのトレンドを意識するよりも、自分が好きな物を買うというスタンスで服と付き合っています。もう、これを着ていたらダサいかなとか、そういうのは超越してしまいました(笑)。

デジタル時代のファッションの楽しみ方

デジタル時代のファッションの楽しみ方

講師:市川渚(ファッション・コンサルタント)

SPUR.JP「デジタル・スタイリッシュライフ」の連載や、“デジタル×ファッション”のウェブメディア「DiFa(ディーファ)」の立ち上げなど、ファッションとテクノロジー、デジタルを繋ぐファッション・コンサルタントとして活躍する市川渚さんに、デジタル時代のファッションをもっと自由に楽しみながら、スタイリッシュに暮らしに取り入れるヒントをうかがいます。

日時
2017年3月15日(水)19:30~21:30
会場
TRUNK(HOTEL)開業準備室
※特別講座のため、会場が通常と異なります。
参加費
無料
定員
60名(抽選)
受付期間
2017年1月26日(月)~2月27日(月)
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市川渚(ファッション・コンサルタント)

ファッションデザインを学んだ後、海外ラグジュアリーブランドのPR、有名クリエイティブエージェンシーのコミュニケーションマネージャーを経て、2013年に独立。ファッション、ラグジュアリー、IT関連企業を主なクライアントに、ファッションとテクノロジー、デジタルを繋ぐ、フリーランスのファッション・コンサルタントとして活動。他にも、CAMPFIRE「CLOSS」顧問、ウェブメディア「DiFa(ディーファ)」の立ち上げや、京都精華大学非常勤講師、コラム執筆、ファッション関連サービス/ウェブサイト/キャンペーンのクリエイティブディレクション、セミナー講師など活躍は多岐にわたる。