世界のリアルな日常風景や現地に暮らす人々を、3人の写真家が切り取ったビジュアルトラベルマガジン『LUKETH(ルークス)』。編集長のNoritoさんは、2013年からカメラ片手に世界各国を車で巡るロードトリップを重ねています。2017年4月26日(水)開催の講座「世界の暮らしをめぐる僕の旅」で講師を務めるNoritoさんにうかがったのは、いわゆるツアー旅行とは異なる“世界の暮らしにふれる旅”の魅力。インタビューは、まずは旅に魅せられたきっかけから。それは、誰もが経験したことのある、少年時代のちょっとした冒険でした。

© Norito India 2015

心に残るものは、その道中にあった。

原点は、生まれ育った香川県から隣の徳島県まで、高校生の頃に原付バイクで遠出したことかもしれません。日帰りで隣県まで行っただけのことですが、それまでの自転車から大きく行動範囲が広がった当時の僕にとっては、初めての“旅”。地元の瀬戸内海とはまったく異なる、果てしなく広い太平洋の光景に感動したのを覚えています。思った以上に出費がかさみ、帰りは100円しかなくて(笑)。ガソリンスタンドのおっちゃんに「100円分だけ入れてくれん?」って言ったら、おまけで1リットル入れてくれたんですね。大人とのリアルなかけ合いも初めてだったし、人の温かさにもちょっとふれることができて。

それから、世界のいろいろな場所を走って旅をしたら楽しいだろうなと漠然と思っていました。車やバイクがすごく好きだったので、同時にレースの世界にも憧れて。高校を卒業してからはレース活動の方にのめり込んでいきましたが、結局食べて行くには至らず、30歳のときに引退。金銭的にすごく苦労した反動もあって、それからはビジネスの世界に傾倒していきましたね。しばらくはスポンサーをしてくれていた会社で頑張っていたのですが、漠然と描いていた「世界を車で走ってみたい」という目標に向けて、思い切って起業しました。とにかくお金だけではなく、時間をつくらないとできないことですから。なんとか事業を軌道に乗せ、いよいよ旅に出る準備が整ったのが2013年。この年にスペインを車で縦断したのですが、初めての車ひとり旅は、予想以上に大変だったのをよく憶えています。

旅のスタイルとしては、車を現地で調達して、縦断ルートか横断ルートかを決めたら、あとは流れのままに。計画や情報をなるべく持たないので苦労することも多いのですが、何があるかわからない道中や、リアルな体験を通して吸収できる知識にこそ、旅の醍醐味が詰まっていると感じています。

最初の頃は日本では見られないような景色の中をドライブする感動も大きかったのですが、それは瞬間的な刺激でしかなく、意外と早く記憶の彼方に消えてしまうものでした。それよりも、道中で出逢う人たちの暮らしを垣間見たり、直にふれ合ったりすることが、些細なことなのに深く長く心に残る。いつしか、車で走りたいという目的よりも、現地の人たちの暮らしぶりにふれるための旅に変わっていきました。もちろん、ローカルなエリアは車がないと行きにくいので、これからも車旅というスタイルは変わりませんが。

© Norito Cuba 2014

キューバの世界感にふれて、見えてきたもの。

一般的に観光地というのは、交通機関や宿泊施設、そして周辺設備のインフラまで整っています。でも、そんな快適な要素が行き届いてしまうと、どうしてもテーマパークのように感じられてしまう。それらは“多くの人に見せる”ために整えつくられたもの。それはそれでビジネスタウンとしてのリアルかもしれませんが、観光地化されていないありのままの場所にこそ、その国の本質や空気があると思っています。

どんな国でも、日本とのギャップはさまざまな面で感じますが、2014年に渡ったキューバという国では、いろいろな意味で日本の対極にあると感じました。社会主義国で、物資は基本的に配給なんですね。そしてどんな職業の人も給料はほとんど同じ。道路工事のおっちゃんもお医者さんも、月給が変わらないんですよ。僕らの感覚からすると、逆に不公平なんじゃないのかなという疑問を抱くんですが、彼らの表情からは「そんなこと気にしないで、人生を楽しまなきゃ損だよ」っていう印象しか受けないんです。

当り前のように利益が絡む世界に生きてきた自分たちが、見えなくなっていることはすごく多いなって思いました。やりたいことがあるはずなのに、金銭的なことが付随することで、本来の魅力が見えにくくなっているような。だからといって社会主義が素晴らしいとか、そんな短絡的な話しではないんですが、そんな世界観にふれることで、自分たちが生きている世界を、少し俯瞰で見られたのかもしれません。

© Norito Greece 2014

“自分らしく生きる”ということ。

人間って先天的なものと後天的なもので形成されていますが、おそらく後天的なもののほうが大きい。もちろん個人差はあるんですが、おおむね国によって人間性に特色があるのは、環境や教育が国によって異なっているから。青年期までに学校や親から教わったことが、その人の常識や概念をおおよそつくると思うし、人間って本当に偏見のかたまりみたいなもの。たとえば同じ人間でも違うシチュエーションに生まれていれば、まったく違った人間になってしまうんだろうなって。いろいろな国の人にふれて、そんなことを感じるようになったし、生きていく本質みたいなものを考えるようになったと思います。

たとえば、日本で「東大を卒業して大道芸人になります」なんて言ったら、きっとほとんどの人に批判されるでしょう? でも、国によっては「今までの経歴にとらわれることなく、本当にやりたいことをやるのは素晴らしい」と評価されたりする。廻りの目を気にせず、自分のやりたいことをやっている人のほうが偉いんですよ。僕はやっぱり、そっちのほうが本質的だと感じてしまう。

今の日本って情報があふれすぎていて、自分自身が見えにくくなっていると思うんです。SNSによって人の目を気にしすぎたり、平均的なところから外れることを良しとしない風潮もあります。でも、そういう基準で自分の道を判断すると後悔することも多いと思う。どんな道でも、うまくいっているときはいい。大切なのはうまくいかなかったときにでも、納得できるような思考で考えられていることなんじゃないかな。"自分らしく生きる"ことさえ難しい国はたくさんあります。でも日本なら、自分次第でどうにでもできますから。

世界の暮らしをめぐる僕の旅

世界の暮らしをめぐる僕の旅

講師:Norito(LUKETH編集長)

世界各国を巡るロードトリップを重ね、現地にあるリアルな日常を綴った、ビジュアルトラベル誌『LUKETH(ルークス)』を創刊したNoritoさん。ガイドブックからはなかなか体験することのできないエリアを、お一人で車旅するユニークな旅路や、現地の暮らしにふれる醍醐味についてご紹介いただきます。インタビューで語ってくれた、直近のイングランドの旅の写真もたっぷり。どうぞお楽しみに。

日時
2017年4月26日(水)19:30~21:30
会場
カフェパーク(恵比寿)
参加費
無料
定員
60名
※応募者多数の場合は抽選となります。
受付期間
2017年3月17日(金)~4月12日(水)
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Norito(LUKETH編集長)

香川県出身。2013年より世界各地を車で巡るロードトリップに出る。ローカルエリアを中心に人々の営みや日常風景を写真に収め、世界のライフシーンを綴ったビジュアルトラベル誌『LUKETH(ルークス)』を創刊。2015年にはインドのラージャスターン地方を巡った旅をテーマに、東京/神戸にて巡回展を実施。今後の旅模様についても、本誌や個展にて随時発表を予定している。
【ウェブサイト】http://luketh.com/