走ることなしには、成り立たない生活。
『走るひと』をつくっている会社(ワンマイルグループ)を立ち上げたのは、2011年7月です。当時、僕は29歳で会社員。20代のうちに何かしようと思いながらいよいよ最後の年で、その矢先に、東日本大震災が起きました。それにすごくショックを受けて。炊き出しなど支援活動もしたんですが、自分は何もできないということを思い知らされたんです。そして、震災が起きた2週間後には会社を辞めて自分の仕事を立ち上げようと思いました。
じゃあ何をやるべきかと考えたときに、自分の好きなこと、自分の言葉で語れることをテーマにするべきだと思ったんです。もともとファッションやライフスタイルに関わることが好きだったのと、生活の一部として毎日のように走っていたので、その2つを掛け合わせようと思いました。
僕自身が「走る」ということに意識的になったのも、会社員時代。当時は遅い時間まで働いて、大きなクライアントの重要な意思決定に関わる仕事をしていました。そうすると、夜中に家に帰ってきても、神経が張り詰めてなかなか寝られないんです。だから物理的に体を疲れさせるために夜中に走っていて。走ることなしには、生活が成り立たなかったんですよね。
頑張っている人たちを肯定したい。
やっぱり、どんな仕事でも、働くって大変なことじゃないですか。僕が会社員時代に感じていたのと同じように、大変なことがいっぱいある中でも頑張っている人はいっぱいいる。そんな、いわば“同志”のような人たちが、より前に進めるようなことができるかもしれないと思ったのが、走ることをテーマにする決め手になりました。
走っている人って、きっと、何かしら頑張っているんですよ。体調をコントロールするためだったり、ストレスをマネジメントするためだったり。見え方はライトなものからハードなものまであると思うんですけど、みんな真面目に頑張っている。雑誌が「ひと」ベースになっているのも、そんな人たちを肯定したいという気持ちがあったから。
『走るひと』で紹介している人たちの熱が読者に伝わるといいなと思ってつくっていますが、実際にAmazonのレビューやTwitterで、すごく熱いコメントをいただくことがあるんです。中には、記事を読んで泣いてくれる人もいて。きっと、その人たちも真剣に生きているからじゃないかな。なんか、どうしても語る言葉が暑苦しくなっちゃうんですけど(笑)。
一緒に走ると、大切な何かを共有できる。
ちなみに、『走るひと』をつくっているときは、走る頻度がすごく上がります。というのも、僕もカメラマンも、一緒に走りながらインタビューしているから。取材時は3キロとか5キロ程度が多いですが、僕らが話を聞く人たちってすごく熱量があって、自分たちもその熱量にまで上がっておかないとちゃんと見合うものがつくれないんですよ。
僕らは、走ることをきっかけにして「生き方」の話を聞きたいと思っていて、でもそれって、真剣な対話の中でしか出てこないでしょう? いかに生き方に関わるところを話してもらうのかというのが僕らの勝負どころ。だから一緒に走って話を聞きます。走っている人同士って、すごく仲良くなれるんです。バックグラウンドが全然違うのに、走っているというだけで何時間でも話せるみたいなところがあって。
取材する人と一緒に走って、原稿を書くときにも、相手がミュージシャンならその人たちの音楽を聴きながら走って。4号ではでんぱ組.incの藤咲彩音さんにインタビューしましたが、でんぱ組.incの曲はBPMが速いから、聴きながら10キロを40分前半のハイペースで走ったり(笑)。だから、制作期間中はめちゃくちゃヘビーですよ。自分の熱量を、いつもより2段階ぐらい上げてつくっているのが『走るひと』なんです。