本屋の楽しみ方
講師:森岡督行(森岡書店代表)
8月講座の講師は、銀座の中心から少し離れた場所で、一冊の本を売る本屋「森岡書店銀座店」を営む森岡督行さんです。『本屋の楽しみ方』と題し、週替わりで一冊の本に限って販売する本屋が生まれた背景や、森岡さんが「本屋の現在」をどのようにとらえているかなど、本の魅力についてお話いただきます。
東京メトロ有楽町線「新富町」駅B2を出て徒歩2分。昭和4年から建つモダンなビルの1Fで1冊の本を売る、小さな部屋があります。森岡書店 銀座店です。8月のCLASS ROOMでは、森岡書店 代表の森岡督行さんが講師を務めます。美術家 ミヤケマイさん作品集『蝙蝠』を販売する「コウモリのおべべ展」開催中の森岡書店 銀座店に訪問し、森岡さんから、読書でふくらむ想像の楽しさを聞きました。
「1冊の本を売る」というテーマで、その1冊から派生する展覧会を、毎週催しています。茅場町の旧店舗で、古書店兼ギャラリーをしていた頃に、1冊のためにお客様が集まってきてくれる様子や、それが売上につながっていくことを知り、出版社や著者の方も喜んでくれる経験を重ねて、この銀座店を開店しました。
毎週、異なる1冊の本を扱いますから、都度、新装開店のようになります。花の1冊であればお花屋さんに、洋服の1冊でしたらアパレルショップに、写真集の場合ならファインアートのように立体的な展示を催す。1冊の本をつくる現場には、内にこもるエネルギーがたくさん流れていますので、それを展覧会で見せていくようなことができたら、1冊のエネルギーをより大きくする効果はあるだろうなと思っていました。
森岡書店 銀座店では、1冊の本を担当した編集者や著者の方自身が、お客様に本を手渡します。すると、「こんなに良い本をつくりましたから、みんなでお祝いしましょう」というふうに、「喜びの場」が生まれます。だから、1冊の本が完成して、リリースできたあとの喜びの受け皿に、銀座店がなっていられているのなら嬉しいです。
必ずしも、アクセスの良いところに店舗を構えていませんので、きていただけるお客様には、何か喜んでもらえることをしたいという気持ちがあります。著者の方が在廊しているときにきてくださったのなら、ちゃんと紹介しますよ。そんなふうに、できるだけ潤滑油になるような立ち位置のお店でいたい。化学変化のようなことを期待して。
私は、何かでふくらんだ想像が偶発的に別の何かに変わっていくようなことをおもしろがっています。銀座店のような本屋さんは新しい選択肢ですけれど、その楽しみ方自体をお客様に考えてもらうより、まったく異なることを考えていたらふとこの本屋さんの楽しみ方につながってしまったというほうが嬉しいな。
例えば私の場合なら、ある想像が偶発的に変わって、最近、東京を天然由来の都市だと思うようになりました。コンクリートは石灰石で、鉄は鉱石で、アスファルトやプラスチックは石油ですし、住まいの近所にある空き地には草木が生い茂っていて、昆虫もたくさん。地下鉄を掘ると水は湧くし、首都高速はいつか朽ちます。東京に自然がないのではなく、むしろ巨大な岩場が広がっているというふうに見えていきました。
橋本治さんが著書で日本人には縄文派と弥生派の二種類がいると書いているのですが、狩猟採取をする縄文派の人たちは、そんな天然由来の東京で狩をしているように思えて。狩猟をするには、罠を仕掛ける必要があって。何をどこに仕掛けていくのか。本屋さんは、そういう縄文派の人たちにとって、使い勝手が良く、引っかかりやすくもあるような罠になりやすい気がしています。
突飛な話をしましたけれど、本って、こういう想像がふくらむことにも通じている、自分の知らない世界観を開く窓なのですよね。自分の知らない世界観に触れるということは大切ですよ。理由を想像した際に、2017年の暮れから、あることを感じるようになりました。この世界には「見えないお金」があるのかもしれないというふうに。
お金って何でしょうね? 時給、月給、年収と、「時間」に結びついていますし、家賃や坪単価のように「空間」ともつながっています。つまり、「時空」と関係していて、お金は「世界」を組み立てているのだと思いました。自分の世界観が広がると、世界への解釈も増えます。それなら、読書を続けると世界を組み立てている「お金」も増えていくのかなぁ……。
8月講座の講師は、銀座の中心から少し離れた場所で、一冊の本を売る本屋「森岡書店銀座店」を営む森岡督行さんです。『本屋の楽しみ方』と題し、週替わりで一冊の本に限って販売する本屋が生まれた背景や、森岡さんが「本屋の現在」をどのようにとらえているかなど、本の魅力についてお話いただきます。
1974年生まれ。著書に『Books on Japan 1931-1972』(BNN新社)、『荒野の古本屋』(晶文社)などがある。出展、企画協力した展覧会に『雑貨展』(21-21design sight)、『そばにいる工芸』(資生堂ギャラリー)、『エルメスの手しごと展 “メゾンへようこそ”』(銀座メゾンエルメス)などがある。『工芸青花』(新潮社)編集委員。同サイトにて日記を連載中。森岡書店のビジュアルデザインとブランディングに対し2016年、レッド・ドット・デザイン賞(ドイツ)、iFデザイン賞(ドイツ)、D&AD・Wood Pencil賞(イギリス)、グッドデザイン・ベスト100(日本)を受賞した。本年、第12回『資生堂 art egg賞』の審査員をつとめている。