ずっと使えるいいモノの選び方
講師:山田遊(バイヤー)
7月講座の講師は、フリーランスでバイヤーとして活躍する、method(メソッド)の山田遊さんです。ショッププロデュース・ディレクション、イベントのプランニングから、IMFやAPEC参加者へ贈呈される記念品等についての選定、企画開発コーディネションなど、目利きとして活躍される山田遊さんに『ずっと使えるいいモノの選び方』と題し、時間がたっても色あせない、名品や良い物の選び方などを紹介いただきます。
フリーランスとして、ショッププロデュースを手がけてきた株式会社メソッド代表の山田遊さん。20代でスタートしたバイヤーとしてのキャリアを重ねて、ものを選ぶ審美眼を備えていきました。そんな山田さんに、長く付き合っていけるタイムレスなものとの出会い方を聞きました。
若い頃に思い切って買って、気に入っているもののうち、買い替えないで今も持っているものってあるんですね。23〜25歳のときに、IDEEでバイヤーになって、国内外の雑貨や、海外の家具ブランド、アンティークの雑貨や家具などの買い付けをしていました。駆け出しの頃って、そもそもお金も無いし、ワンルームに住んでいて、生活に多様性もなかった。今と比べたらもののこともよく知らなかったから、自分が仕事でかかわったものに「いいなぁ」とよく憧れて。自分のものにしたくなって、買っていたんです。
柳宗理のボウルやザルも、小さいサイズを持っていました。今では、大きなサイズもそろっています。柳宗理のボウルやザルはサイズによってフォルムが少しずつ変わっているんですよ。形が一個ずつ変わっていることに理由もあって、大きな物だったら動きにくい形の底になっています。そういう満足のいくものって、置いていたり、使っていたりするときにストレスがありません。
使っていて、めっちゃいいなって思うものには、しみじみ気づくじわじわ感があるんですね。余計なところがないからかな。オフィスに飾っている、このガラスの置物もストレスを感じなくて好き。オフィスに置くものは、ものを好きな自分らしさが高い純度で表れています。ある種、ものを好きな気持ちのまま買い物をするときは、使えるかどうかを考えないでいられているかな。
オフィスに来てくれた方には、「すごいいっぱい持っていますね。さすが、バイヤー」って言ってもらえるんです。商品として売れそうなものもオフィスに置くことはできるけど、ものを好きな気持ちのままに買ったものを見てもらえると、奥行きまで見てもらえるように感じます。ふだん、世界をどんなふうに見ているんだろう、どんなことを考えているんだろうって、自分の色に目を向けてもらえるというか。
バイヤーとしてクライアントに代わってものを買ったり、生活者としてものを買ったりすると、機能性や即効性を求めて、当然ですけど用途の見えないものはあまり買えません。このガラスの置物も何かの用途に使えるわけではないんだけど、毎朝、眺めるたびに「いいなぁ」って思えて。そういうものは、暮らしの豊かさになります。
本当は持っておくといいものだと思うんですよね。何でもいいんですよ。河原で拾ってきた石ころでもいいし、道で摘んできた花でもいい。そういうものをひとつでも身の回りに置くことは、豊かさの表れ。家に置いてあるものも、全部使っているわけではないはずで。ぼくは、ものに機能性を求める気持ちが、なぜ強くなってしまうんだろうと感じています。
家のものでいつも使っているものって3割くらい。バイヤーの仕事をしていると、よくわかるんですよ。どのような店を見ても、売上の9割を産み出しているのは品揃えのうち3割の商品なんですね。残りの7割はあまり売れていないもの。でも、その7割のものは大切で。使わなかったり、売れなかったりする7割のもので、世界は構成されているんですよ。
その7割のものは、断捨離とも通じていると思うんですよね。ふだん使っているもののなかにも、別のもので代替できることがあって、それをどう考えるのか。用途があるかどうかにフォーカスするよりも、ちょっとでも情緒的な何かにフォーカスしたらいいのにな。そう思うんですけど、ぼく自身、生活者のときはなかなかそういう気持ちでものを買えないんですよ。
以前、THE CONRAN SHOPのバイヤーに教えてもらった、テレンス・コンランの言葉がとても良くって。それは「デザインとは97%が常識、3%が神秘的な要素でできている」っていうフレーズ。聞いて、だよなぁって思いました。確かに常識的な要素ばかりを集めたら、ミニマムな暮らしに近づきすぎて、かえってつまらなくなってしまうかもしれません。
7月講座の講師は、フリーランスでバイヤーとして活躍する、method(メソッド)の山田遊さんです。ショッププロデュース・ディレクション、イベントのプランニングから、IMFやAPEC参加者へ贈呈される記念品等についての選定、企画開発コーディネションなど、目利きとして活躍される山田遊さんに『ずっと使えるいいモノの選び方』と題し、時間がたっても色あせない、名品や良い物の選び方などを紹介いただきます。
東京都出身。南青山のIDÉE SHOPのバイヤーを経て、2007年、method(メソッド)を立ち上げ、フリーランスのバイヤーとして活動を始める。現在、株式会社メソッド代表取締役。2013年に「別冊Discover Japan 暮らしの専門店」が、エイ出版社より発売、2014年「デザインとセンスで売れる ショップ成功のメソッド」誠文堂新光社より発売。