赤く熟したピーマンは、みずみずしくて苦くない

夏からこの時期にかけて、ピーマンも旬なんですね。特にこの時期になってくると、割とすぐ赤く熟してくる。種を落とそうとして、生の終わりに近づくこの一瞬が、いちばんおいしい赤ピーマンなんですね。畑に行って、喉が乾くと、ピーマンをかじります。みずみずしくって、のどが潤うんです。子どもが嫌いな苦いピーマンっていうのとは違うかな。

野菜って、窒素をいっぱい吸収すると、ぐわぁっと大きくなるんです。だから化学肥料で窒素を与えると、早く大きくなって、収穫を得て、売上もあがっていくんですけれど、窒素は苦さとかになってくるんですね。うちの小川町にあるスーパーマーケットでは、10数組の生産者が顔を出して売っているんですけれど、おいしい野菜を見つけた人は、「この人のものが食べたい」って選んでいるんですよね。

同じ野菜を並べても、すごい売れちゃう人がいるくらい育て方で変わります。今は若い人たちも、インターネットで販売したり、顔写真を出して売っているだとか、いろいろと生産者を探しやすくなっているので、そういうところからでも選びながら、食べていって、おいしかったら、もっと食べてみるというようなことなら、暮らしに取り入れていきやすいんじゃないかなと思うんですね。

忘れられない、トマトの香りや新じゃがの味

私は東京の生まれ育ちで、まったく農業に関係なかったんですけれど、高校生の頃に北海道を旅行して、ここで暮らしたいなという思いになって、広々とした北海道で何が仕事にできるのかなと、農業を思いついてから、興味を持つようになったんですね。最初は釧路で酪農ができればと、二十歳の頃に牧場で仕事をしはじめました。

もう40年近く前の話なんで、日本が成長していくような時期に、新しく農業をする人って、ほとんどいなかったんですね。酪農をはじめるって無茶で、牛を買ったりとか、牛舎を建てたりとか、莫大なお金がかかる。何年かして、東京に戻ってサラリーマンをしました。友達と遊んだり、飲みに行ったり、いろんなものを食べたり、ものすごい楽しい日々が繰り広げられたんですけれど、2ヶ月とか3ヶ月とかすると恋しくなって。

釧路で感じたトマトの香りや新じゃがの味が忘れられなくて、やっぱり、農業にたずさわりたいなと、またふつふつと思えてきたんですね。当時、機械の輸入販売会社に勤めていて、ものを動かす商社の人たちの力って強いんだなぁっていうのもわかって、ずーっとここで仕事をするのか考えたときに、ものをつくったり、暮らしをつくったりしていきたいなとも思ったんですよね。

ずっと食べていられるように整えていく

そのときに有機農業を知って、自分の食べるものをつくりながら、お客さんにも食べてもらえるような形でできないかなって、ここまで続けてきたんですよ。今はとっても、グローバルになってきて、多国籍料理だとか、調味料だとか、いろんなものが入ってくるようになりましたね。そんないろんなものを食べられるっていうところは、食べる人の特権ですよ。

だけど、関東にいても、北海道や海外からの野菜を買えますけれど、そこから運ぶってなると、保管の仕方だとか、特別な薬を使ったりする必要があって、おいしさも栄養も落ちてしまうんですね。できるだけ、近いほうがおいしく食べられるっていうのは、そういうことなんですよ。だから、遠くのものはハレの日とか、特別なときに食べてもらって。

やっぱり常時は、おいしいものを食べていってもらえるように、しっかりと供給できるように、私はしていきながら、お客さんに選んでもらえるような形を、ちょっとずつ整えていくというのが、立場かな。SNSだとか、いろんな道具を使っての発信って、弱いんですけれど、私なりのやり方で、地道に続けていければなと思っているんですね。

食べることから暮らしのことを考えてみる

食べることから暮らしのことを考えてみる

講師:田下隆一(風の丘ファーム)

10月講座は、食を通じて都市での豊かな暮らしを育む「ルミネアグリプロジェクト」との連動企画です。講師は埼玉県の小川町で、少量多品種の有機農業に取り組んでいる、風の丘ファームの田下隆一さんです。野菜をつくっている背景にある思いなどをお話いただくだけでなく、田下さんがつくった野菜を食べながら、季節を感じたり、暮らしのことについて考えてみませんか。

日時
2018年10月24日(水)19:30~21:30
会場
カフェパーク(恵比寿)
参加費
無料
定員
60名
※応募者多数の場合は抽選となります。
受付期間
2018年9月28日(金)〜10月14日(日)

田下隆一(風の丘ファーム)

1960年生まれ。埼玉県地域指導農家理事、株式会社風の丘ファーム 代表取締役。東京での生活で農業に憧れ、高校卒業後、北海道の牧場で研修の後、東京でサラリーマンをするが農業をあきらめきれずに、小川町の霜里農場で研修。翌年小川町で就農、2008年には法人化し株式会社風の丘ファームを設立。露地野菜年間100品目、米、麦、大豆を栽培、飲食店、一般家庭に農産物、加工品を直接出荷している。