いつかまた旅する日を想う
講師:林紗代香(『TRANSIT』編集長)
2020年度の講座はLUMINE CLASS ROOM LIVEとして動画のライブ配信形式でお届けしています。7月講座の講師は、トラベルカルチャー誌『TRANSIT』編集長の林紗代香さんです。少しずつ日常を取り戻しつつある状況で、「いつかまた旅をする」そんな日常に思いを馳せながら、旅への想いを温めるお話をしていただきます。
また、ライブ配信中に林さんへの質問コメントを募集しますので、ぜひご参加ください。
世界中を歩き、旅を通して触れたその土地の歴史や文化をつづるトラベルカルチャー誌『TRANSIT』。7月のLUMINE CLASS ROOM LIVEでは、この雑誌で編集長を務める林紗代香さんを講師に迎えます。旅に行けなくなってから考えていたことや、旅がもたらしてくれるものについて聞きました。
外出自粛期間によく公園に行っていたんですが、人がたくさんいて驚きました。東京の人にとっては、公園のように自然が豊かな場所は非日常空間です。たとえ近所でも、ちょっとした気分転換になるし、いつもと違う風景を見られる。こういう状況になると、人って、非日常を味わいたいっていう思いがすごく強くなるんだなと感じました。だから、奥多摩とか、江ノ島とかもにぎわっていたんじゃないでしょうか。
みんな、普段は行かない場所に行くことに、純粋な楽しさだったり、そこで得られる発見みたいなものを求めているはずです。人々にとって、公園に行くことはまさに「旅」のようなものになっていたのかもしれません。
人類は、何万年も旅をしてきたわけじゃないですか。アフリカで誕生して、大陸をわたって。きっとその旅を止めることはできないんですよね。移動することがDNAにも組み込まれているんだなって、すごく思いました。
最近は、SNS映えする写真を撮ることが旅の目的になっているような人もいますが、やっぱり旅って、日常とまったく別のものではないほうがいいと思うんですよね。旅でした体験は、結局は自分に返ってくるっていうか……学びとか気づきとか、それこそ反省でもいいんですけど、暮らしになにかしらいい影響を与えるようなものを、みんなどこかで旅に求めてるんじゃないでしょうか。
仕事で行く旅も、主観がなくなったら終わりだと思っていて。よく後輩に言っているのは、「自分の意見には正しいも間違ってるもないから、思っていることを偽りなく書きなさい」ということです。自分でなにを見て、なにを感じたかが重要だと考えています。
SNS映えする写真には、一瞬を切り取る瞬発力はあると思うんですけど、旅ならではの時間の流れって、そういうものじゃなかったりしますよね。だからこそ『TRANSIT』では、その国のリアルな暮らしだったり、「いいね」っていうところだけではない現実的なことも含めて紹介したいと思っています。
わたしと地元が同じである島崎藤村の言葉で、「空飛ぶ鳥も土を忘れず」というものがあって。おそらく“遠くにいても故郷を忘れていない”という意味なんですけど、これって旅にも当てはまると思うんです。旅をしていても自分の国や暮らしがあるという意識はずっとはたらいていて、だからこそ、旅の体験を日常に持ち帰りたいという思いはすごくありますね。
訪れた土地の文化や暮らし、たとえばそれはインテリアデザインかもしれないし、独自の思想や、あるいはいっさいビニール袋を使ってないっていうところかもしれない。水が貴重だったり、電気も通っていない場所に行くこともあるのですが、そういう生活を体験すると、ふだんの日本での生活に本当に感謝するようになるんです。
そして帰国してから、ふとしたときに「水がもったいないからすぐ止めよう」「少しだけゴミを減らそう」と考える。常にアフリカの難民たちのことを思いやることはできないけれど、ちょっとした行動はできるんじゃないかなって。旅をしている人は、そうした意識が自然と身についているように思います。
2020年度の講座はLUMINE CLASS ROOM LIVEとして動画のライブ配信形式でお届けしています。7月講座の講師は、トラベルカルチャー誌『TRANSIT』編集長の林紗代香さんです。少しずつ日常を取り戻しつつある状況で、「いつかまた旅をする」そんな日常に思いを馳せながら、旅への想いを温めるお話をしていただきます。
また、ライブ配信中に林さんへの質問コメントを募集しますので、ぜひご参加ください。
岐阜県生まれ。『TRANSIT』の前身となる『NEUTRAL』に創刊時より参加。その後『BIRD』編集長など、いくつかの雑誌編集部を経て、2016年よりトラベルカルチャー誌『TRANSIT』に参加し編集長を務める。2019年秋、TRANSIT初となる2冊の写真集を発売。現在、「美しき古代文明への旅」特集の最新号が発売中。