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ひとつの出版社にフォーカスした売り場
「POST」がほかの書店と違うのは、出版社というくくりでアートブックを紹介していること。特集する出版社は2、3ヶ月に一度入れ替えています。
インターネットの登場を契機に、本は純粋に情報を伝えるためのメディアでは存在しきれなくなり、“表現としての本”に変わっていきました。すると、作り手である出版社の特徴が色濃く表れるようになったんです。本というものをどう捉えているか、本を通じてどういう文化を伝えたいのか。ブックデザインという面でも、それぞれに個性があります。
出版社単位で棚を構成することで、内容の好き・嫌いや、知っている・知らないという基準ではなく、出版社を入り口にして本を選んでもらうことができたらいいなと思いました。
店内には展示のスペースもあります。本自体を展示することもあれば、新しい本が出たときにその作家さんの作品を展示することも。複合的に本に触れてもらうことで、新しい文化に出合うきっかけをつくりたいと考えています。
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広すぎる興味を満たせるのが本だった
POSTの前身となる古書店をオープンしたのは2002年。それから20年近くアートブックのショップを営んでいますが、もともとは本やアートが好きというわけではありませんでした。
大学時代はなにかを売ることや接客に興味があって、卒業したら自分でお店をやろうと決めていました。最初は洋服屋がやりたくてパターンを勉強したんですが、思い描いていたファッションの世界とのギャップを感じ、方向性を変えることに。でも、興味の対象がいろいろありすぎて、絞りきれなくて。
それで思い至ったのが、ブックショップでした。写真も音楽も、ファッションも、すべてのコンテンツを扱っている本の店であれば、自分の興味の対象すべてに触れることができると思ったんです。
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始まりは、見た目で手に取った1冊
アートブックに触れたのは、本の勉強をするために始めた、ワタリウム美術館のミュージアムショップ「on Sundays」でのアルバイトがきっかけです。取り扱っていた本の90%以上が洋書だったこともあり、見たことのないようなアートブックがたくさん並んでいました。それらは前衛的なアーティストのものばかりで、世界の最先端の表現みたいなものが集まっていたんです。とはいえ、僕はアートに詳しいわけではなかったので、そういうすごい空間であることは、あとから認識したんですけどね。
そのなかに、フルクサスっていう60年代におこった芸術のムーブメントのドキュメントをまとめた本があって。たぶんそれが、僕が初めて買ったアートブックだと思います。
フルクサスのこともまったく知らなかったけど、グラフィックとしてかっこいいからという理由で買って。読んでいるうちに、そこに書かれているアーティストの名前だったりとか、芸術運動についてとか、そういうところから徐々にアートを知り始めた感じでした。