2017.1.25
Report 3/3

TOKYOをもっと楽しみたい

講師:田島朗(Hanako編集長)、平野紗季子(フードエッセイスト)、小谷実由(ファッションモデル)

平野さんの3つのキーワード
〈ネタバレグルメを避けまくる〉〈街を点で見ない〉〈らしからぬ東京を愛する〉

平野さんは今回の講座を行うにあたって、「楽しむとはなんだろう」と改めて考えたそうです。講義は、「お正月に正座をして読んでいる」という愛読書、森茉莉さんのエッセイ『貧乏サヴァラン』の朗読から始まりました。

ここに書かれているのは、みずみずしく生きることの大切さではないかと思います。それは、楽しいものがある、というより、楽しむ自分がいる、ということでもあって。毎日の仕事に追われていると、心が殺伐としてきて、目の前のことを処理するだけでいっぱいになってしまいますよね。そういう“東京に消費されている状態”から抜け出して、日々を楽しめるかどうかは、自分の心が動く体験にどれだけ出会えるかが重要になってくると思うんです。

最初に挙げたキーワード「ネタバレグルメを避けまくる」も、みずみずしく生きるためのもの。インターネットや雑誌で過剰に情報収集をしてから食事をしに行くことは、結末を知っている映画を観るようなもので、どうしても「確認作業」になりやすいと言います。

驚きや感動の鮮度を保つためにはいくつか方法があって……。たとえば『Hanako』は本文を読まない!(笑) 田島さん、すみません(笑)。文章はあまり読まずに、見出しや写真の印象だけをチェックするんです。詳しい情報をインプットせずに、その場で出会える楽しみを増やしたくて。

たとえば、有楽町でふと目にした「ミルクワンタン」の看板が気になって入った居酒屋「鳥藤」でのこと。ミルクワンタンを注文したはずが、めざしやおひたしなど、頼んでいない品が次々と出てきて衝撃を受けたのだそう。実は料理が勝手に出てくることで有名なお店で、もし事前に知っていたら衝撃や感動は味わえなかった、と平野さん。さらに2つ目のキーワード「街を点で見ない」についても、柴崎での面白い体験を話してくれました。

柴崎の街には女子で賑わう「手紙舎」というすてきなカフェがあるんですが、そこ以外には何もないと思われていて、訪れた人はすぐに街を離れちゃうんです。でも、実は路地に入ってみると面白いものがたくさんある。私が見つけたのは、おかずが40種類くらい並んで、やかんから湯気が出ているような、味わい深い食堂。「ここは日本海に面した漁村?」と戸惑いました(笑)。お目当ての場所から少し脱線してみると、思ってもみない新しいものと出会える。そんな体験が病みつきになっています。

3つ目のキーワードは「らしからぬ東京を愛する」。古いものと新しいものが混在する東京は、自分が思っている「東京らしさ」とはまったく異なる一面を見せてくれる、その意外性を楽しむことをすすめてくれました。

特に「食」は個人的でアナログなものだから、自分自身の足を使ってお店を見つける過程を大事にしています。最先端のお店が並んでいる通りでも、少し道を入ってみると古い街並みがあったり。東京を歩いていると、新しいものに囲まれて古いものがうずくまっているような、重層的な時間軸を感じる瞬間があるんです。思いがけずその「境界」を超えてしまったとき、脳髄がしびれるかのような感覚を覚えて。東京は個性が異なる街が密集しているから、散歩の楽しさも格別ですね。

>>続いて後編はこちら

田島朗(Hanako編集長)

1974年生まれ。1997年マガジンハウス入社、翌年『BRUTUS』に配属、2010年『BRUTUS』副編集長に。2016年10月6日発売号より『Hanako』編集長に就任、「東京を、おいしく生きる」をテーマに掲げリニューアル。

小谷実由(ファッションモデル)

ファッション誌やカタログ・広告を中心にモデルや執筆業で活躍。一方で、様々な作家やクリエイターたちとの企画にも取り組む。昭和と純喫茶をこよなく愛する。愛称はおみゆ。

平野紗季子(フードエッセイスト)

1991年福岡県出身。小学生から食日記をつけ続けるごはん狂(pure foodie)。自身の食生活を綴るブログが話題となり、現在では雑誌『hanako』『SPRING』等での連載執筆や、新宿伊勢丹でのエキシビジョンなど幅広く活動。著書に『生まれた時からアルデンテ』(平凡社)がある。

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