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CLASS ROOM

あらゆるものに潜む美しさ。組み合わせや視点を変えると、表現は無限に広がっていく

2021.11.24

CLASS ROOMは、ルミネが運営する暮らしをもっと楽しむためのカルチャースクール。さまざまなジャンルで活躍するゲストを招いてお話を伺い、ルミネマガジンとYouTubeルミネ公式チャンネルで配信しています。
2021年11月講座のゲストは、フラワーアーティストの宇田陽子さんです。表参道にフラワーショップ「logi plants&flowers」を構えるほか、アートワークに特化したブランド「PAVILION!」も展開。最近ではフラワーアートにとどまらないさまざまな表現活動をしています。広がり続ける宇田さんの表現の源になっているものとは?

>> インタビューを動画で見る:前編後編

1本でも成り立つインパクトの強い花を

―logi plants&flowersを立ち上げた経緯を教えてください。

Matildaというお花屋さんで修行したあと、2004年に独立しました。とはいえすぐにお店を開いたわけではなく、しばらくひとりでフリーランスとして活動していたんです。2年ぐらい経ったころ、ある出版社から新しいオフィスの植栽の依頼を受けました。併設のカフェもつくるので、そこのグリーンもコーディネートさせてもらったときに、社長が突然「1階に花屋があったらいいな。宇田さんやってくれない?」と。「10秒で決めて」と言われ、思わず「じゃあ、やります」と答えたんです。そうして、ひとりで花屋を始めました。


―その10秒が運命を分けたんですね。

そうなんです、大きな分岐点になりました。直感でしたが、あのとき「やります」と答えてよかったです。

出版社には、カメラマンやクリエイター、アーティスト、女優さんなどいろんな方が出入りします。そういう方たちと接することで、さらに感性を磨けたというか、花だけに向き合っていては広がらない世界がぐっと広がっていった感覚があります。いろんなお仕事もさせていただいて、どんどん引き出しが増えていきました。

オープンから約2年後、出産を機にそのお店はクローズすることになり、1年近く産休をとりました。その頃、ずっと通っていたヘアサロンさんが拡張移転するにあたって、サロンだけではなく異業種のなにかを取り入れてちょっとおもしろいお店にしたいという話があって。インショップとして花屋をやらない?とお声がけいただき、logi plants&flowersを立ち上げることになったんです。

その後ヘアサロンさんの再移転を機に単独店になり、今から5、6年前に表参道に移転してきました。


―「ココロニノコルハナ」がコンセプトのlogi plants&flowersには、インパクトのある花が並んでいますね。お店で大切にしていることはなんでしょう?

「一花一葉」という言葉がありますが、私は花瓶に1本の花を生けるのがすごく好きで。お店でも、1本で成り立つインパクトの強いお花を選んでいます。自宅用のお花を買いに来た方にはお手持ちの花瓶の大きさを聞き「これなら、その花瓶に1輪差すだけでも素敵ですよ」とご提案することも多いですね。

お花を買うときには、ブーケを頼まなきゃいけないと思っている方がまだまだ多い気がしています。でも、必ずしもそうではなく、1輪だけでもかっこよかったり美しくできるんですよと伝えたいです。


―特徴的なお花たちが店内に違和感なく共存しているのは、一貫して宇田さんのフィルターを通して選ばれているからなのかなと思いました。仕入れのときはどんなところを重視しているのですか?

「これって本当にお花なの?」と感じるような“花っぽくない花”を市場で見つけると、瞬間的に「買おう」と決めることが多いですね。「これをあの花に合わせたらかっこいいかも」とか。別の花と組み合わせることで美しく見えたり、かっこよくなったり、変わった花どうしをぶつけてさらにインパクトが強くなったり。そういう広がり方を楽しむのがすごく好きです。

植物を使わない初めての作品

―いろいろな領域で活躍されていらっしゃいますが、最近はどんなお仕事をされているのですか?

ファッション系の撮影や広告系の撮影、パッケージデザインなどを担当させていただいています。なかでも新たな挑戦になったのが、ファッションブランド「MELT THE LADY」のウインドウディスプレイのトータルデザインです。新宿にあるルミネエストの、東口広場に面した大きなウインドウでした。

1着のコートを見せられ、「これを飾りたいんです」というリクエストで、あとはすべてお任せいただいたんですね。きっとお花を使うことになるだろうと考えていたのですが、思いついたのは初めての一切お花を使わないデザイン。それが自分でも驚きでしたし、なんだかすごくおもしろかったんです。


―コートに向かって大胆に奥行きを出しているところが、昆虫が花粉をつけるために花の中に誘い込まれるようなイメージと重なって。お花を使っていなくても花の造形と通じる表現になるんだなと、勝手ながら思いました。

なるほど、その見方すごくおもしろいですね……! 言われてみれば、私、普段お花を見るときに全体を眺めるのではなく覗き込んで見ることが多い気がします。今回のデザインにもその感覚が生きているのかもしれません。

それに、作品をつくるときはいつも奥行きを意識していて。あのウインドウも実は奥行きがすごく狭く、その制約のなかでどんな世界をつくれるだろうかとすごく悩んだんです。そこで、「もっとこのブランドが上に登っていけたら」という思いも込めて階段のモチーフを取り入れました。そうしたことでさらに奥行きを出すことができ、重なる層の表現もしっかりできたので、自分でも非常に気に入っている作品です。

リニューアルオープンを記念してつくられた「MELT THE LADY」のウインドウディスプレイ。大理石を模した層の奥に1着のトレンチコートが佇む。

人間の想像を超える生命力と美しさ

―宇田さんの表現の源になっているものはありますか?

たとえばふと空を見て「きれいだな」と思ったりするように、日々暮らすなかで美しいものを見つけることを大事にしています。美しいものというのは、決してきれいなものだけではありません。一見すると変なもの、汚いもののなかにある美しさに目を向けたり、視点を変えて美しさを発見したり。

そのためにも、意識的に感動するようにしています。道に咲いている花も、庭の鉢の花も、常に移ろっていて同じ瞬間はない。わずかな違いであっても、それを敏感に感じ取るようにしています。そうすると、やっぱり植物の生命力や美しさってすごいなと感じるんです。形も発色も、人間の想像を超えていると思います。


―それらをインプットし、今度は自分が表現者としてアウトプットされるときに大切にしていることはなんでしょう?

型にはまらず、常に自由な発想で考えることは意識していますね。それから、一度経験した成功例はあえて繰り返さないようにしています。前にしたことと同じことはせず、また違う角度から考えるんです。私は普段から同じ作業を繰り返すことがすごく苦手で、どうしても前とは違うことがしたいと思ってしまうんです。だからこそ、前の自分を更新していく、日々ブラッシュアップしていくことができているのかなと思います。

お花って、同じ種類でも個体差があって、それぞれ形も色合いも異なりますよね。それらの組み合わせを少し変えたり、1mmずらしただけでもまったく違う印象になる。表現が無限に広がっていくことが楽しくてしょうがないんです。

常に自由な発想でお花と向き合い、また新しい物をつくり出すというモチベーションを植物が超えてくれるときがあるんですよね。自分が大事にしている気持ちにプラスアルファをくれるから、植物ってすばらしいなといつも感じています。

プリザーブドフラワーやドライフラワー、造花で構成した「PAVILION!」のテラニウム。店頭と公式サイトで販売されている。

花はいつも私にパワーをくれる

―個性が強いお花を日常に取り入れるときのコツや楽しみ方を教えてください。

お店のディスプレイだと、普通は店内の動線を邪魔しないようにお花を生けますよね。それとは反対に、家の中の邪魔になるような場所にお花を置いてみるのがおすすめです。そのほうがお花の印象も強くなりますし、あえて避けて通るようにすることで新たな発見があるかもしれません。


―新しいスタイルですね。動線上に置くなんて考えたことがありませんでした。自然の造形美に日々触れることは、暮らしをどのように豊かにすると思いますか?

やっぱり、おうちに植物があると心が休まりますよね。以前それを強く感じる出来事がありました。
仕事で数カ月間、造花と向き合ったことがあって。造形物を組み合わせることも好きなので楽しく作業していたのですが、「いつもとなにかが違う」という感覚がありました。そのうち疲れやすくなったり、いつもより生き生きできていないと感じるようになって「もしかしたら、生花に触れ合ってないからかも」と。そんなある日、スタッフが香りのするハーブやバラの生花を作業場に持ってきてくれて、そしたらすごく元気になれたんですよ。やっぱり私は今まで植物からすごくパワーをもらっていたんだなと、植物が人を癒す力を肌で感じました。


―最後の質問です。宇田さんにとって、よい暮らしとはどのような暮らしでしょう?

よく寝て、よく食べて、よく笑うことでしょうか。早朝から仕入れに行くので、忙しいときは常に睡眠不足。そういうときは自分に余裕が持てなくなるものです。だから、しっかり睡眠を取り、外食ではなく自分でつくったものをおいしくモリモリ食べ、心穏やかに過ごす。さらに友達と会ったり、いろんな人とお話しして楽しく笑う日々が一番だと思います。

宇田陽子さんおすすめの、暮らしをもっと楽しくしてくれる一冊

『SWITCH』(スイッチ・パブリッシング)
「私たちの世代を代表するカルチャー誌。
時代をつくる音楽、映画、文学、アートなどのさまざまな特集が組まれており、存在感のある写真・記事からいつも刺激をもらっています」


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<プロフィール>

宇田陽子(フラワーアーティスト)
角浩之氏・野村五月氏に師事。2004年に独立しフラワーコーディネーターとして活動。2006年西麻布にconcept shop「plans&flowers」を、2009年表参道に「logi plants&flowers」をオープン。2014年、生花が放つその時、その瞬間の美しさをずっと見つめていたい!という思いから、ART WORKとして新たなブランド「PAVILION!」を立ち上げた。花そのものの強さと、時にはその毒々しさもストレートに表現するクリエイターとして、空間ディスプレイ、広告撮影、CMなどの装花を幅広く手がけている。
公式サイト:https://yokouda.katalok.ooo/
Instagram:https://www.instagram.com/udayoko/


>> インタビューを動画で見る:前編後編

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