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怖さと美しさ。表裏一体の自分もポジティブに受け入れる

2024.08.22

2024年のニュウマンのシーズンビジュアルは、「This is my “b”side.」がコンセプト。女優・菊地凛子さんがシーズンごとに異なる「私」に出会い、内に眠る無限の可能性を見つける物語を表現しています。
今回の秋のビジュアルは、春・夏とは少し切り口を変えた作り方になっています。シリーズを通して制作を担当しているSIMONEのクリエイティブディレクター・渡辺琢磨さんに、テーマの解釈や制作時のエピソードを伺いました。

もしも、ある朝モンスターに変身していたら

暗闇のなかでうごめく異形のいきもの。今回のテーマは、不気味でありながらどこか美しい「モンスター」です。
春は「自分だけがいる最高にクールな星の女王」、続く夏は「叫ぶ、パンクス」をテーマに特殊な状況設定をしてステージを作り込み、そのなかにいる菊地さんが表現されていましたが、「秋では少し視点を変えました」と渡辺さんは話します。

「空間や状況設定ではなく、彼女自身のディテールをしっかりと作り込むことで、これまでとはまた違う“b-side”を表現しようと考えました。そのためには、リアルな像というよりは、架空のビジュアルであり、それが通常の自分とは明らかに違う一面であることがわかったほうがいいかなと。それで、モンスターという設定がよいのではないかと考えました」

モンスターという、これまでとはひと味違ったテーマを設定した渡辺さん。怖い、不気味といった本来持つイメージを、どのようにポジティブなメッセージとして届けていくかを熟考したそうです。

「シンプルな黒い空間をステージとして、どのような表現にしようかと考えたときに、フランツ・カフカの小説『変身』を思い出したんです。ある朝、主人公の男が目覚めると巨大な虫に変身していたという物語なのですが、瞑想、妄想、空想といったイメージが今回のシーズンビジュアルのシリーズと共通していると思いました。そこから着想を得て、目が覚めたら自分がモンスターに変身していたというストーリー設定にしました。

変身した自分に気づいて、最初はびっくりしますよね。でも、じっくり見ていくと『あれ? けっこうかっこいいかも』『こんな自分もいいんじゃないか?』と思えてくる。モンスターというかなり非日常的な姿も、“知らなかった自分の一面”の比喩として、それもちゃんと認めてあげようというメッセージングに仕立てることができると考えました」

プロフェッショナルたちが力を結集させた撮影現場

ディテールの作り込みを追求するために、「衣装やヘアメイクはいつも以上に突き詰めました」と渡辺さん。衣装には、今期のランウェイのトレンドにある“もふもふ”、ボリューミィといった要素を取り入れました。ヘッドピースは地毛と馴染ませながらインパクトが出るものを特注で製作、ネイルも今回のために作られたオリジナルです。さらに、撮影時の菊地さんのポージングや動きについても、プロフェッショナルの力を借りたといいます。

「彼女自身のたたずまいや動きは今回のビジュアルの肝になるので、僕らだけはなくコリオグラファー(振付師)の方に入っていただきました。まず、監督が企画の趣旨をコリオグラファーの方に伝え、彼女の心情がシーンごとにどう移り変わっていくのかをインプット。それであればどういう動きがいいんだろうというのを提案していただくという流れです。そのうえで、凛子さんを含めて各シーンごとに意見を擦り合わせながら表現してもらいました。プロの力は、ほんとに全然違いましたね。もちろん僕らも事前にイメージはしていたのですが、『凛子さんの骨格がこうだから、こういうほうがいいんじゃないか』など、専門的な知識と技術でサポートしていただいて。見違えるほどいい動きになったなと思いました」

さらに、菊地さんの発案でグレーのカラーコンタクトをつけるなど、撮影現場ではさまざまなアイデアが交わされました。「みなさん存分にこだわっていただいて。大変ではありましたが、楽しんでいただけたのではないかと思います」と渡辺さん。各分野のプロフェッショナルたちが力を発揮し、今回のビジュアルは作られました。

クリエイティブで特にこだわった部分について聞くと、「表現する対象が凛子さんだけというシンプルな構成のなかで、モンスターの怖さと、ニュウマンらしいファッション性を両立させる。そして、“かわいい”や“かっこいい”が先に立ちすぎないようにするために、衣装も最後まで悩みました」と話し、こう続けました。

「ちょっとしたことでかなり印象が変わってしまうので、ポージングや衣装、ヘアメイク、アングルなどのさじかげんは、いつも以上にこだわって注意深く作っていきました。
今回のビジュアルを通して、一見ネガティブな自分の一面もそんなに悪いものじゃない、それはそれで面白いと捉えて、自分を少し認められる、自信を持てるというメッセージが伝われば。そして、いつもとは違うファッションにチャレンジするきっかけにもなったらうれしいです」
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Creative Director:Takuma Watanabe(SIMONE INC.)
Art Director:Mayuko Ishida(SIMONE INC.)
Movie Director:Ayano Kamiyama(SIMONE INC.)
Producer:Fumika Ochi(SIMONE INC.)
Production Manager:Haruka Tokoi(SIMONE INC.)

Actress:Rinko Kikuchi
Photographer/DOP:Mitsuo Okamoto
Cinematographer:Daisuke Abe(bird and insect)
Gaffer:Hirotsugu Hamada(bird and insect)
Stylist:Shotaro Yamaguchi(eightpeace)
Hair:Yusuke Morioka(eightpeace)
Make up:Asami Taguchi(home agency)
Nail : Moeko Nakamura
Choreographer : Rion Watley
Retouch:VITA INC.


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