洋服を選ぶようにアートと触れる
VOILLDは、東京で活躍しているアーティストやクリエイターを中心に企画展を組み、アートとカルチャーを発信しています。2014年に、気軽に立ち寄れて、若い方でもがんばったら買えそうな作品も扱うようなギャラリーにしていけたらいいな、と思ってはじめました。東京の若い世代の方たちは、ある程度の感度を持っていて、洋服だったら数万円してもがんばって買う人は少なくありません。ときには衝動買いしたり、買ってそのまま飾っている服があったり。
理想は、洋服を買うように気軽にアートを持ってほしくって。日本人とアートとの距離はまだあると思うので、ちょっとでも縮めることをできたら嬉しいです。そんな私の考えに賛同してくださる方とご一緒して企画展やイベントを催しています。同世代の方が多いのですが、同世代で活躍している方たちと成長していきたくって、これからどんどん下の世代をアートに呼び込んでいきたいです。
でも、ギャラリーに来ると緊張するじゃないですか? 現代アートって難しいし。「こんな真っ白なキャンバスに何の意味があるんだろう……どういうこと?」とか。だから、少しでも敷居を下げたくて、若い子が来たらフランクに接するようにしています。「どこで知って来てくれたの?」って声をかけてみたり。基本的には自由に楽しんでもらいたいと思っています。
「好き」を軽やかに感じて
音楽と同じように、純粋に「好き」って気持ちから入ってもらえたらいいなと思っています。そんな気持ちが高まったら、どんな人なんだろう?とか、なんでこの曲を作ったんだろう?とか、色々なことをもっと知りたくなっていくと思うんです。それと同じような感覚でいいと思っていて。
「好き」っていう気持ちを持った若い子が、何年、何十年とアートに触れて、大人になって色んな事にゆとりができたとき、あの時憧れてたアート買ってみようって思ってくれるようになったら嬉しい。そんなふうに思いながら、まずはVOILLDに来てくれた若い子がギャラリーに行くことに慣れていってくれたらなって、続けています。
私は二十歳のころ、ロンドンに留学していたんです。ロンドンでは、大小問わず色んなギャラリーがたくさんあって、待ち合わせ場所にも使われるように気軽に親しまれていました。みんな作品を見てあーだこーだ喋っていたり、本当に幅広い人がいて。若い子がデートで来ていたり、お婆ちゃんが散歩がてら来ていたり小さな子どもが遊んでいたり。日本でも、そういう風にギャラリーにもっと気軽にくる人が増えたら、すごいいいなって思うんです。
どうしても見たくて渋谷に通った日々
私自身も、若い頃にギャラリーに通ったことがほとんどなくて。それこそ、『ちびまる子ちゃん』(集英社)が大好きで、子どもの頃は漫画家になりたかったんです。小学校低学年まで、ずっと真似をして絵を描いていて、親に「勉強してみたら?」って言われたこともあり、受験をして美術系の私立の中高に通わせてもらいました。
でも、描いたり作ったりするのは全然向いていなかったんですよ。それでも、見るのは好きで。学生時代は、情報源がほとんど無いこともあって『relax』(マガジンハウス)や『STUDIO VOICE』とかを一字一句漏らさずに読んで、当時タワーレコード渋谷店にあったタワーブックスに通いつめて、国内外の写真集とか、作品集やイラスト集とか漫画とか、とにかくたくさん漁っていました。
洋服や音楽と同じように、アートもその時代を写す鏡。ただ、アートはアーティストが直接つくっている一点物がほとんどだったり、値段や大きさに関係なく、作品に驚くような付加価値がついたりするところも、他にはない魅力だと思うんです。一つの作品は、一人しか持つことができない。そんな特徴のひとつだけを取り上げてみても、いろんな知識を得られるし、いろんな楽しみ方ができるのは、アートの良さのひとつなんじゃないかと思います。