生産者に会いに行って気づけたこと
お花屋さんのなかには、お花がどうやって土から生えていて、どういうふうに育てられているのかを知らずに働いている人もいると思うんです。私もアルバイトをしていたときは全然知りませんでした。
今は、以前勤めていたお店のオーナーに連れて行ってもらったことをきっかけに、毎年生産者さんの農園に行っていて。生産者さんたちは、手入れに収穫にと、毎日とにかく忙しいですし、繊細で手のかかる作業ばかりだと思うのですが、実際に会いに行ったら、お花を愛情たっぷりに育てていることを肌で感じました。
そういう生産者さんの姿や、花が大切に育まれているところを見ているからこそ、店や市場で買い手がつかずに枯れていく花を見るのは悲しいですね。「枯れてしまうのが心苦しいから飾らない」という人もいるかもしれませんが、花にとっては、誰にも見られずに枯れていくよりも、きれいだなと思ってくれた人のところで一瞬でも飾ってもらえたほうが幸せなはず。枯れることを怖れず、ぜひトライしてみてほしいなと思います。
やわらかくなりすぎない、美術館のような空間
店内の花は、水を替えるたびに並べ方を変えています。質感とか色を見ながら、お花が美しく見える配置を考える。同系色でまとめて陳列しているお店も多いですが、そうすると一つひとつの花の個性が埋もれてしまう気がするので、あえてまったく違う色の花を隣どうしにすることもあります。
花瓶もいろんなタイプがあって、組み合わせを楽しむのもいいですよね。duftで扱っている花瓶は国内外で買い付けしています。以前ドイツに住んでいたこともあって、最初はドイツのアンティークが多かったのですが、そのうちいろんなものが交ざってきて。こうして眺めてみると、統一感がありすぎないのもいいなって思います。
バウハウスとか美術館のような整った空間が好きなので、お店の内装もそれに似た、ちょっと無機質なテイストにしています。duftをオープンした頃は、フランス風のやわらかい雰囲気のお店が多かったのですが、あんまり女性らしくなりすぎないようにしたくて。ドイツ語で「香り」を表すduftという店名も、そういう視点で選んだ言葉です。
一方で、それとはまったく逆の……たとえば全然理解できない現代アートみたいな、カオスな世界観も好きなんです。すっとした内装デザインと、ランダムに見える花や花瓶の置き方には、その両面が表れているのかもしれません。
たくさんの花からお気に入りを見つける楽しさ
花屋で働き始めた頃とくらべると、今は花を飾る人が増えてきました。コロナ禍になってそれがさらに加速し、お客さまもすごく増えて。うちの店は狭くてすぐに密になってしまうので、自粛期間中は思い切って閉店時間を早めていたんですが、自宅用の発送プランもすさまじい数のオーダーがきて……ありがたい反面、目の回るような忙しさでした(笑)。
花を飾る人が増えたのは、Instagramの存在も大きいと思います。最近では、Instagramを見ていると花の“流行”を感じるようになりましたね。たぶん、お花屋さんやインフルエンサーの方が投稿した写真がきっかけになって、「この花がかわいい」「わたしも飾ってみたい」というふうに特定の品種の人気が広がっていくのではないでしょうか。もちろん、それをきっかけに花を飾る人が増えるのはいいことなのですが、ぜひほかにも目を向けて、好きな花に出会ってほしいなという気持ちもあって。いろんな品種を仕入れるようにしているのは、そういう理由もあります。
飾り慣れてくると、初心者だった人も「次はこんなふうにしたい」ということが具体的に見えてくると思います。好きなお花を、好きな飾り方で自由に楽しんでいただけたら。そのためにも、まずは最初の1本を気軽に選んでみてほしいですね。